「……あの、そのおちびちゃんっていうのやめてくれませんか?」     
 アザミの目はつりあげられていたが、口調はまだ遠慮がちであった。

「ああ……。だめだね」
 しかし、グラニテがわざとらしそうに口の端と両手をあげたことで、その平穏も破壊された。
「だって、僕。全然おちびちゃんに負けたつもりはないしぃ。こんな簡単な治療もできず、適切な薬も知らないおちびちゃんに村を追い出されるとは思えないんだよねー」
店中にまたもや、グラニデの高笑いが響く。 アザミはうつむいた。
(た、たしかにあたしはちびだけど、不器用だけど……)
ーーなにかを決断するように見あげる

「あなたに負けたつもりなんかない」

 グラニデは一瞬、柔らかい表情を見せた。けれど、すぐさま、かがむようにアザミの頭をなでた。
「うん。それでこそ良き競争相手。頑張ろうね。おちびちゃん」
 それはアザミにとって、バカにしている行為に他ならなかった。すぐに、その手をふりほどき、にらみつける。
「ちびじゃなくて、あたしにはアザミ、っていう、立派な名前がある」
「じゃあ、ね。おちびちゃん」
 その言葉はアザミの口を閉じさせるには十分だった。
 にんまりと顔に優越感を浮かばせながら、グラニデは出口へと方向転換する。
「ん?」
 その時、彼はやっと、出入り口で口をぽかーんと開けて、立っていた少女に気づいた。すかさず、ひざまづいて、どこからかオンシジウムの黄色い花をだしてくる。
「この花言葉は可憐で清楚。まるで、あなたのためのような花言葉ですね」
 白い歯がきらりと光る。少女、ジニアは真っ赤な顔になった。
「お嬢さん。ぜひ、一度グラニデ薬療店に遊びにきてください。怪我や病気をしてなくても大丈夫ですから。あなたの心の琴線(きんせん)にふれる花や薬をさしあげましょう」
「は、はい……」
 グラニデは去っていく。顔が真っ赤になったジニアは花を持ったまま、見送った。

 ノラが舌打ちする。
「あいつ。自分の店でもああなんですよ。来てくれた女の人に花をあげて、あんなきざったらしいこと言うんですよ。あー、寒い寒い」
「………」

 自分の両腕をさするノラに対して、アザミは全身の力が抜けたように元の無口さに戻っていた。
「ああ。グラニデ様……」
 後ろから、ジニアのぽうっとした声がする。
 アザミとノラが振り返ると、ジニアはまだ、花を握りしめて、突っ立っていた。それはノラとアザミがはじめて見た、人が恋に落ちる瞬間というものだった……。