「そうかー。二人ともこの店の人だったのか。いやあ。偶然偶然」
 そう言い、はっはっはと笑う青年に店先で迎えたノラとアザミは閉口した。
「おや?」
 突然、青年はつかつかと丸テーブルに近寄り、その上に置いてあった花瓶を見る。
「今朝のマリーゴールドじゃないか! 大切にとってあったんだ。うれしいねえ」
「まあ、一応……」
「そんな君には今度はこれ。ヒマワリだよ。花言葉は……『明日は笑顔になれる』。ぜひ、それと一緒に活(い)けてくれたまえ」
 この村の名産である黄色の大輪の花がだされる。きょとんしたアザミが素直に受け取ると、ノラが鼻息荒く、アザミと青年の間に割りこんできた。
「用事はなんですかっ!」
「おや。これは失礼」
 垂れた前髪を後ろにかきあげ、青年は優雅にお辞儀をする。
「僕はグラニデ・ダドゥという者だが、ここの責任者は」
「あたしだけど……」
「おおっ」
 グラニデは座りかけていた椅子ごと、後ろにひっくりかえりそうになった。
「こんなおちびちゃんが薬療店のオーナー!」
 なんとか倒れずにグラニデは椅子を戻すと、白いハンカチ(レースつき)をポケットから出し、おいおいと泣きはじめた。
「こ、こんなにちっちゃいのに、もう店の主なのかい? なんて頑張り屋さんなんだー」
 むっ。

 その日はじめて、アザミは誰が見てもわからないぐらいに少し、表情を変えた。
「そうだいっ。師匠はこんなに、小さいけど、腕は超一流の薬療師なんだいっ」
 ノラが鼻高々とふんぞりかえる。
「……小さいはよけいよ」 
 そう。同い年の子供より身長が低いことはアザミのささやかなコンプレックスだったのだ。
 しかし、そんなことは知らないグラニデはちーんっとハンカチで鼻をかみ、ぐしゅぐしゅといわせた後、本当にすまなそうに言った。
「そ、そうか。それじゃあ、気の毒だねえ」
 アザミはひっかかるものを感じたが、返事を返したのはノラであった。
「どういう意味ですか?」
「実は、僕はこの村に新たな薬療店を開店させるためにやってきたんだ」
「ええーーっ」
 ノラが叫ぶ。アザミは無反応だった。グラニデが逆に目を丸くする。
「嫌だなー。そんなに驚くことじゃないよ。まあ、こんなに小さな村に薬療店が二つあると、どちらかに偏って、閑古鳥が鳴いてしまうかもしれないけどね。カアーカアーって」
 グラニデは鳥のように両手をばさばさと動かす。そして、立ちあがると、三十センチ以上は低いアザミを挑戦的に見下ろした。
け、ど、こんなおんぼろ小屋に、こーんな小っさなおちびちゃんだもんねえ。勝負は見えてるようなもんだ。はっはっは」
 店内中に高笑いが響く。それにともない、ノラの顔がどんどん赤くなっていく。
アザミは表情の変化はないこそすれ、
(小っさな小っさな小っさな……)
 その言葉が頭のなかでずっと、ずっと、回り続けていたのはいうまでもなかった…。