太陽面通過が起こるのは金星のほかにもう1つあります。
それは金星よりさらに太陽の内側を回っている惑星水星です。
水星は占星術では『☿』と表わされます(♀に角の生えたような絵)。


実はこのマーク、日本のとあるところではとても馴染みがあるマークなんですよ。
一橋大学。ここの大学はこのマークを基にして校章が作られています。
また他の商業校もこれを取り上げて校章を作っているところも多いです。

なぜ商業校がこのマークを基に校章を作るかと言うと…
水星をあてはめられているギリシャ神話のオリュンポス十二神の一人ヘルメスは商業の神とされているからです。

通常神は一人一役(愛と美のように関連されるものを並べる場合はありますが)が基本ですが、このヘルメスは商業の守り神だけでなく、伝令(旅人)、牧師の守護神、眠り・夢の神、錬金術の神、泥棒の神等を持っています。
商業の神と泥棒の神が一緒って…(^^ゞ
ここでちょっと注目してみたいのが最後の泥棒の神。
結構このエピソードが面白いので取り上げてみようと思います。



ヘルメスの初仕事?
ヘルメスゼウスとプレアレス姉妹(日本では昴でおなじみ)の一人マイアとの間に生まれました。
ゼウスの妃ヘラは初めはヘルメスを嫌っていましたが(ゼウスの不倫によって生まれたため嫉妬の女神は憎みます)、ヘラアレスと間違えて自分の乳をあげたため情が移り好意を抱きます。
ヘルメスはアルカディアのキュレネー山にある洞窟で生まれましたが、生まれたまさにその時、揺り籠の中が早々に飽き飽きしてしまい、こっそり這い出します。
そして洞窟の外にいた一匹の亀さん…
何を思ったのかヘルメスはその亀を手に持って揺り籠の中に戻ると何やらゴソゴソと…
切り開いた亀の甲羅に、羊の腸でできた七本の弦を張り、なんと生まれてほどなく竪琴を作り出してしまいました。
そしてしばらくの間洞窟の中で、自分が作った竪琴を奏でていましたが、そのうち竪琴を揺り籠の中においてまた洞窟の外に出ていきます(まさに旅人の神にふさわしき行為)



太陽神アポロンの雌牛
ヘルメスがやってきたところ…そこは…
ピエリア山です。そこには腹違いの兄弟アポロン(火星に出てきた太陽神とは別の神です)が飼っていた雌牛の群れが住んでいました。
そしてヘルメスはそれを見つけ悪戯心が芽生えたのでしょう…
夜陰にまぎれアポロンの雌牛五十頭を盗み出そうと考えます(まだ生まれて間もないんですよ…)。
さてさてヘルメスはどうやってアポロンから雌牛を盗み出そうとするのか…
ヘルメスは砂地についた雌牛の足跡から行方を知られないように、雌牛たちをみんな後ろ向きで歩かせます。
そして自分も小枝で大きめのサンダルを作り子どもの仕業だとわからないように細工をします。
そして、翌朝ピュロスの地にたどり着くと二頭の雌牛を神々の生贄にささげ、残りは洞窟の中に隠し、自分は何食わぬ顔で揺り籠の中に戻りました…
さてさて、アポロンですが、自分の飼っていた雌牛が一晩でいなくなって驚きます。
アポロンは占いの神なので自身の占いにより、事の成り行きがすべて判明します。
当然ヘルメスのところに行き、雌牛を返せと殴りこみに行きますが、ヘルメスはこれに対して、


『いきなりなんという事を言い出すのですか。
まだ赤子の僕にそんなことできるはずがないでしょう。
それに雌牛を盗むことに興味もないですし、母に乳を飲ませてもらったり、ゆっくりお昼寝したり、身体を洗ってもらう方のが僕にとっては楽しいんですよ。』


とすっとぼけます。
相手がすっとぼけていると話にならないため、アポロンは父ゼウスの神殿へ連れて行きこのことを訴えました。
さすがにヘルメスゼウスの前では嘘をつくことができず、すべてをアポロンの前で白状しました。
しかし、ゼウスは自分も知らずにアポロンの牛を食べてしまった一人(当然そんなこと言えるわけありませんが)です。
そのためゼウスは二人にこう告げます。


『子どものやったこと。アポロン、寛大な心で許してやれ。
そしてヘルメス。お前の知略はなかなか見事なものだ。』

というものでした。



アポロンとの和解…そして
ゼウスの介入により、雌牛騒動はアポロンに盗んだ雌牛を返しましたが、実際に返せたのは四十八頭のみです(二頭は盗んですぐに神々に生贄にささげたため)。
そのためアポロンはまだヘルメスを完全に許すことができず、ヘルメスと会っても小言を言ったり、無視をしたりしていました。
さすがに悪戯心とはいえ、ヘルメスもこの状況には耐えかねてしまいます。
ヘルメスは何としてもアポロンに許してもらえるよう何度も謝りますが、やはり許してはもらえず。
そこでヘルメスアポロンの前で自分が作った竪琴を奏でてみせます。
これを聞いたアポロンはあまりの美しい音色に心を奪われ、ヘルメスに竪琴をくれないかと頼みこんできます。
当然ヘルメスアポロンと仲直りするためにアポロンの前で奏でたので快く差し出し、アポロンも自分の持っていた金の杖と交換(商売の神のもと)して雌牛の件は完全に許しました。
アポロンヘルメスにあげた金の杖はアポロンが飼っていた雌牛を飼育するのに使われる杖で、これはつまり、


『ヘルメスに自分の雌牛の飼育を任せる』


と言う信頼関係を意味しています。
また、金の杖は人に眠りを与える杖とされています。
つまり初めにあげた眠り・夢の神に通じています。