今年の観劇納めはいちばん多かった芸文でした。

眞島さん主演と栗山さん演出というだけで観るのを決めた作品でしたが、思った以上に心に響く作品でした。

舞台は第一次世界大戦の終戦から3年が経った1921年、アメリカ・ミルウォーキー。
生まれ育ったオスマン帝国(現・トルコ)の迫害により家族を失い、一人アメリカへと亡命した青年・アラムは、写真だけで選んだ同じアルメニア人の孤児の少女・セタを妻として祖国から自分の元に呼び寄せる。
しかし、なかなか家族になれない2人の前に孤児の少年・ヴィンセントが現れて・・・という話。

アラムを眞島さん、セタを岸井ゆきのちゃん。
そして2人に加えて孤児の少年とストーリーテラー的役割の紳士で登場人物は4人だけ。
ただし、1幕は特にほぼ2人芝居で会話の応酬だけで見せるものでしたが全然退屈しない、というか目が離せない。
緊迫感ありながらも時折くすりと笑わせるところがあって緩急が効いていたのもよかった。

あらすじから想像したのとは違って、アルメニア人への迫害そのものを描かずに、生き残った側の痛みを強く感じさせるものでありました。
なぜ、アラムが強く子供を求めていたのか、理想の家族を追い求めていたのかというのは壮絶な過去によるものであることが最後に明かされましたが、「家族とは?」「夫婦とは?」という普遍的な問いにも応える話でもありました。

眞島さんははまり役でした。

敬虔なキリスト教徒であり、自分の理想を追い求めるあまりに周りが見えない頑固さ、そして抱えた闇の大きさを抑えた演技で見せていました。
そしてずーっと思っていたのは・・・ええ声やなあ(笑)。
風髑髏は生では観てないので岸井ゆきのちゃんは初めましてでした。眞島さんもすごいなと思ったが、ゆきのちゃんがすごい。
どちらの視点で観るかというと、アラムの真意が最後まで分からない構成なのでセタの視点で観るというのがほとんどでしょうが、彼女の気持ちがダイレクトに伝わってくる。
少女から大人の女性、そして母性(ヴィンセントに対して、またアラムに対してもかもしれない)の成長の過程を丁寧に演じていました。
文字通り最初から最後まで目が離せない女優さんだなと感じました。
久保酎吉さん演ずる紳士の正体が二幕初めで明かされてああそういうことなのかと納得。
ヴィンセント少年が夫婦の懸け橋になったのですが、この紳士が舞台のアクセントになっていてその意味でもメリハリ効いた舞台でした。

印象に残ったのは栗山さん演出でいつも思うのが照明の使い方。
特に一幕で二人が向き合って話しているのに心は向き合っていないと壁に照らされる二人の影で表現しているのがすごいなと思いました。
ラストの写真撮影のシーンも本当に美しかった。

静謐ながら芯が通っていてじわじわとした感動を味わえました。
いい観劇納めとなりました。
よく考えると、今年の始まりは「スリル・ミー」なので栗山さんに始まり栗山さんで終わった(笑)。