「三木道三がけっこんしていたらしいよ」
ニュースで知ったボクが言った。

「えっ?」 「三木道三って生きていたんだ~」

「んっ?」

どうやらマナヤングーは三木道三と力道山を聞き間違えた。
いや、生きてるわけがないでしょう。


そんな他愛もない会話から、我が母クミコの伝説がよみがえった。


「力道山だって死んだのよ!!」


力道山は何故、だって死んだのか? 答えよう。
雪文の前にはむかしから公園がありまして、その公園はうちのクミコの縄張りだった。

中学高校の時分、必然的に友人と公園で会うのが日常であった。
要するに要するに、
異性との淡い一時の青春をバス停の傍、公園のベンチで過ごすことは自然の成り行き。

事故にあったのはボクの妹。

妹と彼氏と黄昏時、公園のベンチに座っていたところをクミコにみつかり、その場ではじまる大喧嘩。

三尾のクミコがこう言った。

「あなた、この子を守れるの!?」



「守れます!」
 

青年は凛々しく答えた。
らしい。

だからクミコはこう言った。

「力道山だって死んだのよ!!」
 この若造がっ

わかりませんわかりませんわかりません。


こんなクミコは、雪文がオープンした1年目、えらくお店に出たがった。

善意からでた目に余る素行の悪さに、もれなく出入り禁止とす。

それでも、お店が大変なので、クミコに手伝ってほしいとも思っていたあの頃。
少し店頭に立つ練習をしたことがあったけど、ひげ面の刺客は常に死角に潜んでる。

せめてテイクアウトの単純作業だけでも・・・。


いくら年をとったといっても、携帯メールは使いこなせるライフタイムイケダクミコ
レジ打ちくらいはなんとかなると思ってた。

バット、ジュードーチョップは、もれなく急所に突き刺さる。


冷凍庫を開け、商品を取り出すそぶり。振り向いて、裸眼のクミコがこう言った。

(冷気で)「目が曇ってなにもみえない」

みえませんみえませんみえまえん。

致命傷だった。