「遅いな宍戸・・・・。」
校門の壁にもたれながら足元の小石を蹴る。
今日は軽いミーティングだけだからすぐ終わるって行ってたのに・・・・。
最近犬を買い始めた私が、可愛い首輪とリードが欲しいって話したところ、
「俺がいつも行ってるペットショップへ連れてってやろうか?」と言ってくれた。
べつに一緒に着いてきてくれなくても、場所さえ教えてくれれば一人でいける。
それでも「うん。ありがとう!」と宍戸の申し出をありがたく受けたのは、隣にいた長太郎が「俺もちょうど小鳥の餌を買いたかったんですよ。」と言う一言を発したからに他ならない。
長太郎も一緒に来るんだ。そう思うと心が弾んで放課後になるのが待ち遠しかった。
さっきも見たばかりの時計に目をやる。
まだ1分も経っていない。
「はぁ・・・・まだかな。」
「お待たせしてすみません。」
「もう、遅い・・・・・・・え?」
宍戸に文句の一つでも言ってやろうと思ったのに、そこにいたのは長太郎一人。
大きい体をしゅんと縮ませて頭を下げる長太郎に私の思考回路は一瞬停止する。
なんで・・・?
宍戸は・・・・?
「あの・・・宍戸さん急用が出来たから行けないそうです。」
「え?そうなの?」
「はい。それで、お前達2人で行って来いって・・・・」
「えぇ!?」
ここはナイスアシスト!と喜ぶべきなのか?
いつも宍戸と3人で、これは長太郎と2人だったらな・・・って思った事は何度もある。
そのチャンスがやってきたわけだ。
だけどあまりに急で、心の準備なんて出来てるわけなくて、どうしようと心が焦る。
「えっと・・・・俺と2人じゃ嫌ですか?」
「そ、そんなことないよ!」
「本当ですか?よかった・・・・。」
ほっと胸をなでおろす長太郎に、少し頭が冷静になる。
そうだよね。
長太郎の方がこの状況に困っちゃうよね。
長太郎は、私が宍戸の友達だから優しくしてくれる。
今日こうやって来てくれたのだって、宍戸に『お前達2人で行って来い』って言われたからだ。
わかってたことなのに、膨らんでいた心がみるみる萎む。
「ごめんね長太郎。」
「え?どうして謝るんですか?」
「宍戸に言われたからって、無理に付きあってくれなくてもいいんだよ?」
出来るだけ明るく、精一杯の笑顔で。
沈んだ気持ちを隠すように笑って見せた。
『宍戸の友達』と言う肩書きに甘んじていたのは私だ。
なのにその境遇に嘆くなんて、間違ってる。
これをチャンスに『宍戸の友達』からステップアップすればいいじゃないか。
だけどそんな簡単に気持ちを切りかえられるなら苦労しない。
その動き出す第一歩が怖いのだ。
そんな臆病な私に、長太郎はふっと真面目な顔で「優姫先輩」と呼びかけた。
「俺、宍戸先輩に言われたからって、なんでも言う事を聞くわけじゃないですよ?」
「え?」
「俺は優姫先輩だから、一緒に過ごしたいと思って来ました。」
「長太郎・・・・・」
そんなこと言われたら・・・・・
そんなこと言われたら・・・・・変な期待をしてしまう。
わかってるのだろうか?
この大型ワンコは。
「俺と2人でペットショップに行きませんか?」
「・・・・・・うん。」
「あと・・・・できればこれからは、宍戸先輩抜きで優姫先輩に逢いたいです。」
「・・・・・・うん。私も、2人で逢いたい。」
踏み出すのが怖かったはずなのに、踏み出してしまえばその足は軽やかに前に進む。
1歩進めば、二つ並んだ影の距離が少しだけ近くなる。
2歩進めばもっと近くなる。
ペットショップに着くまでに、どのくらいその距離が縮まるだろう?
未来を動かすのはその一歩
(「『宍戸先輩の後輩』じゃなく、一人の男として見てくれませんか?」と言った彼に、「じゃぁ私も『宍戸の友達』じゃなく、一人の女として見てくれる?」と答えた)
********************************************
優姫さんリクチョタSS。
チュタを書くのは2回目かな?
チョタは年上ヒロインが書きやすいデスね。