特別な事はできないけど、一緒にお祝いができれば・・・と、家に招待した跡部君の誕生日。
特別な事はできないと言ったって、できるだけの事はしてあげたい。
素直じゃないし、可愛げもない私だけど、一応は女ですから。
そう言う乙女心くらいは持ち合わせている。
何度も練習した手作りケーキと、おばあちゃんに教えてもらいながら作った手編みのマフラー。
有名ブランドの服を着て、お抱えシェフの作った食事を取ってる跡部君からすれば、
質素で貧相なプレゼントかもしれないけど、私なりの精一杯の想いを詰め込んだプレゼントだ。
きっと・・・・・・、たぶん・・・・・ちょっとくらいは・・・・・・喜んでくれる・・・・・・・・はず?
だんだんと自信がなくなりかけて、頭をブブンブンと左右に振る。
大丈夫!
ちょっと常識外れで、世間からだいぶずれた考えをしてるけど、人を思う優しさは誰よりも大きい事を知っている。
ちゃんと私の気持ちをわかって、丸ごと受け取ってくれるはずだ。
机の上に並べたプレゼントを前に、あともう少しで会える恋人を想い顔を綻ばせた。
それから数十分後、約束の時間ぴったりやってきた跡部君。
跡部君がこの家にやって来るのは初めてじゃないけど、やっぱりドキドキして、
無駄にしゃしゃり出てくるお母さんを部屋に押し込み、自室へと跡部君を招き入れた。
「ごめんね、いつも騒がしくて。」
ローテーブルを前に向き合うように座りながら、用意しておいた紅茶をカップに注いでいると、
真剣味を帯びた声で、跡部君が私の名前を呼んだ。
「菜都。」
「な、なに・・・・?」
突然どうしたのだろう?
何かあった?
不安げにその先の言葉を待っていると、跡部君はとんでもない台詞を口にした。
「今日は盛大に甘えさせろ!」
「え・・・・?」
いきなりの宣言に、私は何事かと眉をしかめる。
今のって誰の台詞?
どこから聞こえてきた?
私の目と耳が確かなら、それは跡部君の声で、跡部君の口から発せられた言葉のような・・・・?
「あの・・・・跡部君?」
「今日は俺の誕生日だろ?」
「そ、そうだね。」
「だから盛大に甘えさせろ。」
うん。『だから』の意味がわからない。
誕生日だから甘えたい?
まさかそんな子供染みた理屈を跡部君が言うなんて・・・・。
「どうしたの跡部君?」
「あーん?なにがだ?」
「なにかあった?」
「なにもねぇよ!」
少し拗ねたように視線を逸らした跡部君に、胸がキュンと鳴る。
ちょっと可愛いんですけどー!!!
なんだかよくわからないけど、今日の跡部君は甘えたいらしい。
他人に甘える事なんてない彼が自分から甘えた言ってるわけだし、
それなら盛大に甘えさせてあげよう。
私は心の中で「よし!」と、気合を入れて、「いいよ。じゃぁ盛大に甘えて。」と、目いっぱいの笑顔を向けた。
「まずはあーんからだ!」
「勝者は俺だ!」ってな勢いで、指パッチン付きで放たれた言葉に苦笑いが漏れる。
そんな力まなくても・・・・・。
だけど『あーん』の発音はいつもと同じで、笑いを堪えるのが大変だった。
ケーキの用意をして、向き合うように座ってみたものの、お互いがどこかギクシャクして気まずい。
大きく深呼吸して、私は震える手を持ち上げた。
「はい、あーん。」
「・・・・・・・。」
「おい、しい・・・・?」
フォークに乗せたケーキを口元に運び、遠慮がちに開けられた口の中へと滑りこませる。
ドキドキとしながら様子を伺ってみても、何の反応も返ってこない。
もしかしてまずかったんだろうかとおどおどしながら感想を聞いてみると、
「あぁ・・・・」と、なんだか歯切れの悪い返事。
え?もしかして本当にまずかった!?
味見もしたしマズイって事はないはずだけど・・・・・
やはりお坊ちゃんの跡部君の口には合わなかったとか!?
サーッと血の気が引いていくのがわかって、フォークを持つ手が震える。
そんな私の様子に焦ったのか、少し慌てた顔の跡部君が私の手からフォークを奪った。
「勘違いしてんじゃねーよ。」
「え?」
「菜都が作ったもんがまずいわけねぇだろ?」
「でも・・・・・」
それならさっきの微妙な反応はなんなの?
言葉にはできず心の中で呟いたその疑問に、跡部君はケーキを食べながらぼそりと呟いた。
「食わせてもらうのがあんなに照れるとは思わなかったんだよ。」
「え?」
ぼそりと呟いたその言葉は、はっきりと聞こえないほどに小さな声だったけど、
『照れる』と言う言葉だけははっきりと聞こえた。
照れてたんだあれ!!!
跡部君も照れるんだ!!!
なんだか驚きよりも嬉しさの方が大きいんですけど!!
なんなの今日の跡部君!?
本当にどうしちゃったの?
可愛すぎるんですけどー!!!
もう堪えきれないほどに私の顔はニヤケてしまって、
それを見た跡部君はさらにプイッと向こうを向いて拗ねちゃったけど、
私のニヤケは全然止まる事はなかった。
結局ケーキを一人で食べ終えた跡部君は、「次は膝枕だ!」と、私の膝の上に頭を乗せてきた。
サラサラとした髪の感触が膝をくすぐり、初めて膝に乗せられたその重みにドキドキしながらも幸せを感じる。
最初は緊張で固まってしまっていたけど、だんだんとその体勢にも慣れてきて、私は跡部君の髪へとそっと触れた。
「っ!?」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「いや・・・。」
仰向けで目を閉じていた体勢から、私に背を向けるように横向きになってしまった跡部君。
髪を触られるが嫌だったのかと思ったけど、髪の隙間から見えた耳が真っ赤に染まっている。
もしかして・・・・・・また照れてる?
跡部君ってこんなにテレ屋さんだっけ?
いつもがんがん攻めてきて、私が恥ずかしがるのを楽しんでいたのに・・・・。
自分から攻めるのはいいけど、攻められるのは弱いとか・・・・?
今日1日で色んな跡部君を見た気がする。
全ていつもとは違う跡部君だけど、どの跡部君も愛しくて仕方ない。
まだまだ私の知らない跡部君を・・・・これからもっと知っていきたい。
それを口にはしなかったけど、少しでも思いが伝るようにと、
背を向けたままの跡部君の髪をゆっくりと撫で続けた。
「せっかくの誕生日なんだから、盛大に甘えてこいって忍足に言われてな。」
「そうなんだ・・・・。」
きっとそんなことだろうと思ったけど。
それを律儀に実行しようとする辺り、跡部君らしい。
「けど、甘えるって以外と難しいな。」
「え?」
「俺はやっぱり、甘えるより菜都を思いっきり甘えさせてやりたい。」
膝の上から頭を上げた跡部君が、身体を起こしながらゆっくりと振り返る。
その顔はさっきまでの恥ずかしさも、照れた素振りもなく、自信に溢れたいつもの跡部君。
可愛い!!だなんて、ちょっと余裕ぶっていた気持ちはすぐに消され、
ふと撫でられた頬に、胸が激しく脈打つ。
「あ、とべ・・・くん・・・・・」
「ククッ。ほら、盛大に甘えてこいよ。」
形勢逆転。
真っ赤に顔を染める私と、それを嬉しそうに見つめる跡部君。
この人さっきまでと同じ人なんですか?
絶対嘘だ!!!
艶めいた微笑と、意地悪い響きの笑い声に頭の奥がくらくらする。
やっぱりこっちの方が跡部君らしけど、さっきみたいな跡部君時々は見せて欲しい。
私は溶けてしまいそうな思考の中で、「たまには、私にも甘えてね・・・・」と、呟いた。
甘え上手は恋上手?
(まずはあーんだったな。ほら、口開けろ。)
(いやいや、なんで口に咥えてんの?)
(この次は腕枕だろ?)
(膝枕です!!)
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私・・・・情熱的でかっちょいいべ様より、可愛くてヘタレなべ様の方が書きやすいかも。←
なっちゃんのサイト2周年記念のお祝いも兼ねて、勝手に書かせてもらいました!
なっちゃんこんなべ様でよければプレゼントフォーユー!ww