先にこちらをお読みください。⇒分岐前 赤也、日吉共通ルート
好きだから
―日吉ルート―
「あ・・・かや・・・・・」
不意に漏れた言葉に、触れていた日吉君の手がピクリと震えた。
私自身、赤也の名前を呼んだ事に驚いて、閉じていた目を見開く。
開けた視界の中に、悲しそうに笑う日吉君の笑顔が浮かんでいた。
「行けよ。」
「え?」
「あいつの所に・・・・行けよ。」
搾り出すような掠れた声に、わけもなく泣きそうになる。
ゆっくりと離れていく手の温もりに、なぜか寂しさを覚える。
『日吉君・・・・』
そう呼びかけようとした私の口に、ひんやりとした日吉君の指先が触れた。
何も言うなとばかりに、静かに首を振る日吉君に、胸が締め付けられるように苦しくなって、
「ごめんなさい」を、何度も心の中で繰り返した。
本当なら、今すぐにでもここを立ち去るべきなんだろう。
早く赤也の元へ行くべきなんだろう。
だけど日吉君の目が、「行けよ」と言った言葉とは裏腹に、
私を引き止めて言うように思えて動くことができない。
そんな目で見ないで・・・・。なんて言い訳に過ぎないことはわかっている。
嫌なら自分で断ち切れいいだけのこと。
なのに私は・・・・・どうして動こうとしないのだろう?
切なく揺れる瞳の中に、微かな光が灯る。
この光に触れてはいけない。
これ以上その光を大きくしてはいけない。
けたたましい警告音が早く逃げろと私を急かす。
ああ・・・どうしたんだろう?
私はなにをしてるんだろう?
警告音が大きくなればなるほど、胸の鼓動が激しくなって、頭の先がじんじんと痺れる。
早くここから去らないと!
なぜ去らなきゃいけないの?
赤也の元に行くんでしょ?
本当に行きたいと思ってる?
本当は私・・・・・どうしたい?
ぱちんと目の前で何かが割れるような音がした。
不安も、恐怖も、この先きっと感じるであろう後悔と罪悪感も、全てが消えて、
何もなくなった真っ白な世界に残ったのは、日吉君の傍に居たいという想いだった。
唇に置かれた日吉君の指を外し、その手をぎゅっと握り締めた。
私を見つめ続ける日吉君との距離を詰める。
唇が触れ合うほどに寄った私を、日吉君は何も言わずただ見つめていた。
「流されてるだけだって笑う?」
「・・・・・・そのまま流れ続ければいいだろう。」
「日吉君・・・・・私・・・・・」
「もう何も言うな・・・・。」
静かに重なった唇。
それは切なくも甘い、レモンの味がした――――――
重ねあうだけの口付けに、心が満たされていくのを感じていると、
不意に、階段を駆け上ってくる激しい靴音が聞こえた。
その瞬間、全身を鎖に縛られたような痛みと重みが襲う。
二人同時に視線を音の方へと向ければ、
そこには、息を切らし、髪を振り乱した赤也が立っていた。
「赤也・・・・・」
私の震えた声が響く。
ゆっくりとした足取りで、1歩1歩と上がってくる赤也との距離は縮まるほどに、心臓の音がドクドクと早くなって、
窒息しそうなほどの息苦しさに、右手で胸の辺りを押さえた。
「思ったより早かったな。」
立ち上がった日吉君につられるように、私も腰を上げた。
1段下で立ち止まった赤也。
冷ややかな笑みを浮かべ赤也を見下ろす日吉君と、
睨みつけるように鋭い目で日吉君を見上げる赤也の視線がぶつかる。
視線をぶつけ合う二人の横で立っているだけの私は、
このまま気を失ってしまうんじゃないかと思うほどに、頭は真っ白で、身体は震えていた。
「こんなとこで何してやがった?」
「さぁな。お前が思っていた通りのことじゃないのか?」
「くっそ・・・・・。歯、食いしばれよ!」
「赤也!!」
私が赤也の腕に飛びつくより早く、赤也の握り締めた拳が、日吉君の顔に向かって振り落とされた。
鈍い音と共に、日吉君が後ろに倒れる。
ハッと息をのみながら日吉君を振り返ろうとしたけど、
それを制するように腕を引かれ、私は階段を引きずるように下ろされた。
無言で私の腕を引く赤也の背中は怒りに震えている。
赤也がよく日吉君に突っかかっていた理由が、いまさらになってわかった。
赤也は、日吉君が私に想いを寄せていてくれたことを知っていたんだ。
そして・・・・・それに気づいた私がどうなるのかも、予想していたのかもしれない。
「赤也放して!!」
指が食い込むほどに掴まれた腕を振り払った。
離れた手を見つめる赤也の苦々しい表情に、ズキリと胸が痛んだ。
「ごめん・・・・赤也・・・・・」
「・・・・・なんで謝んだよ?」
「・・・ごめん・・・・・」
「なに謝ってんだよ!!」
赤也の悲痛な叫び声に、身を引き裂かれそうになる。
そんな中でも、日吉君はどうなったのだろうと考える自分が怖かった。
「ごめんね・・・・・赤也。」
俯き、髪で顔の隠れた赤也が、どんな顔をしているのかはわからない。
もしかしたら、泣いているかもしれない。
そんな赤也に『ごめんね』の言葉だけを残し、私は背を向けた。
背を向けた瞬間、『ごめんね』が『日吉君』に変わる。
日吉君
日吉君・・・・・
日吉君・・・・・!!
まだ彼がいるはずだという根拠のない確信が、私の足を動かす。
「日吉君!!」
階段に座り込み、口元をハンカチで拭っていた日吉君が、私の声にハッと顔を上げた。
転びそうになりながら階段を駆け登る私を、日吉君の逞しい腕が支えてくれた。
そのままその腕に身を預けた私を、日吉君はきつく、きつく・・・・掻き抱くように抱きしめた。
この数時間ですっかりと変わってしまった自分の心変わりに不思議と戸惑いは感じない。
もしかしたら私も・・・・・いつかこうなることを知っていたのかもしれない。
「なんで戻ってきた?」
「だって・・・・・」
「だって・・・・?」
日吉君が・・・・・・好きだから――――
~Fin~
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Happy Endって言うよりBad Endっぽい気がするのは私だけ?ww
赤也夢を書いてたはずが、なぜか日吉ルートに突入。
この日吉ルートをUPするために、アメンバー記事だった前編を通常記事に変更して再UPしました。
多分今の私、こういう切ない系がキテるみたいですね。
ギャグとか甘々が書けない・・・・(苦笑)
ちゃんと赤也ルートも完結させます!!
そっちがメインのリクでしたから。
ただ、赤也ルートは再びアメンバー記事でのUPになります。
久々のR指定になる予定なので・・・・。
勝手な都合で申し訳ないです。