spring企画!! 柳連載『ラブ・ゲーム』 round 4 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

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ラブハートゲーム
― round 4 ―



柳と一緒に帰った次の日。

私はいつもより2時間も早く家を出て、学校までやって来た。


早朝の学校は、さぞひっそりとしていることだろうと思っていたが、

朝練をする部活が多いようで、校門へと続く通学路も、学校の中も、生徒達の姿があちらこちらとあった。


教室に向かわず、真っ直ぐとテニスコートへと向かう。


まだコートの中には数えるほどの人影しか見えなかったが、そこに柳の姿を見つけ、

唇がにやりと上がりそうになる。


放課後なら、群がるようにコートを囲むフェンスに女子生徒がへばりついているのだが、

今はそんな女の子は誰一人としていない。


朝練まで見に来るほどの子はほとんどいないだろうという読みは間違っていなかったようだ。

もう少しすれば、パラパラと姿を見せるかもしれないが、放課後ほどになることは無いだろう。


私はコートの中がよく見え、尚且つ向こうからもこちらが良く見えるであろう場所に静かに腰を下ろした。



柳は真田となにやら話しているようで、こちらには背を向けている。


早く振り返らないかな・・・・・?

どんな顔をするだろう?

柳のことだから、部活中は練習に集中して、私なんてまったくの無視って事も考えられる。


ま、いいんだけどね。

今回の目的は、私が『テニス部を見に来た』って事だから。


柳も、賭けをしてるというやつらも、私は柳を見に来たと思うだろう。

でも私は『テニス部を見に来た』のであって、『柳を見に来た』わけではない。


私の視点が、自分に合わないことに気づいた柳は、いったいどうするだろう?

それでも気にせぬ素振りで無視を続けられるだろうか?


ふふっと笑いが漏れそうになった時、不意に柳がこちらを振り返った。


フェンスを挟んで二人の視線が絡む。

私は右手を軽く上げ、小さく左右に振ってみせた。


よし。これで私が見に来ていることに気づいた。

あとは柳以外のテニス部員を見ていれば・・・・・・。


コート脇に立つ時計が7時を指す頃、ぞろぞろと部員がコートに姿を見せはじめた。


その中に丸井とジャッカル、だるそうに大きなあくびをする仁王の姿を見つけた。

仁王の後ろからはくせっけのある黒髪を揺らしながら男の子が走ってきている。


あ、あの子知ってる・・・・・確か赤・・・・赤・・・・・


記憶をたどって名前を思い出そうとしていると、

その思考を遮るように、目の前に影が落ちてきた。




「あれ・・・・?柳・・・・?」

「おはよう。ずいぶんと早いな。」

「え?あ・・うん。」




毎度予想外の行動を見せる柳。


誰が無視するって?

話しかけてきてんじゃん!!!

しかも瞬間移動!?




「練習・・・いいの?」

「いや。よくはないな。」

「なら・・・・早く戻った方が・・・・・」




柳に視界を遮られて、コートの中がまったく見えない。

だけどざわついた空気が感じられる。

みんなこっちを見てるのだろうか?




「その前にこれを渡しておこうと思ってな。」

「ん・・・・?」

「――除けだ。」

「え?」




ばさりと肩にかけられたジャージ。

え?と柳を見上げた時には、もう彼は背中を向けてコートに向かって歩いていた。



今・・・・・なんて言ったのだろう?

何除け?


日除け・・・・・ではないよね。だってここ、陰だし。

風除け・・・・・・でもないはず。だってまだ寒いというには早すぎる。


なら・・・?

なら・・・・・・?



導き出した答えに顔が赤くなっていくのがわかる。


別に柳のものでもないのに。

どんな独占欲だよ・・・・・・


自分の女気取りで、勝手な独占欲なんて吐き気がする。


なのになぜか、柳のその独占欲は嫌じゃなくて・・・・

微かに柳の匂いのするジャージを、落ちないようぎゅっと握り締めた。



他の男を見て妬かせるつもりだったのに、朝練が終わるまで、私は柳から視線を逸らす事ができなかった。






朝練後、柳に待っているように言われて、部室の近くで柳が出てくるのを待っていた。


朝練は素振りやランニングが主で、地味な練習が続いていたけど、

コートの中で見る柳は、教室で見る柳とは別人のように思えた。


ちょっとカッコいいなんて思ってしまったのは、きっとジャージマジックだ。

うん。だってあの真田も素敵に見えたもん。あの真田も。


男って、そのフィールドに立つとかっこよく見えるもんね。


そうだと自分を納得さていると、部室から柳が出てきた。

私と反対方向に向かって歩き出した柳に、名前を呼びかけたが、

ちょっとした悪戯を思いついて、静かに足音を潜ませながら柳の背後に近づいた。



トントン。



声をかけず肩を叩く。

そのまま肩に手は置いたままで、人差し指をピーンと立てた。


振り向いた柳の頬に指が刺さるというなんとも子供染みた悪戯だ。

だけど柳がどんな反応をするのか楽しみで、私はニシシと笑いながら、柳が振り向くのを待った。


しかし。


柳は顔を振り向かせる前に、私の指を掴んでしまった。




「フッ。ずいぶんと子供っぽい悪戯をするものだな。」

「なんでわかったの?」

「以前1度引っかかったことがあってな。」




えー!!

私の他に柳にいたずらを仕掛けたやつがいたのか!

しかもその時はひっかかったと・・・・。




「見たかったな・・・・」

「それは残念だったな。」




おかしそうに笑う柳に頬を膨らませて拗ねて見せる。

そんな私に、柳は優しく目を細め、「教室まで一緒に行こう。」と歩き出した。


向かう先は同じなわけだし、別に一緒に教室に向かうくらいはいいよ。

いいんだけど・・・・・・・・




「ねぇ、手。もう離してよ。」

「また悪戯をされたら困るからな。」

「もうしないから!」

「・・・・・・・嫌か?」




な、なんなのよ・・・・・。

なんでそんな目で「嫌か?」とか聞くの?




「嫌じゃないけど・・・・・・」

「フッ。それはよかった。」




嫌じゃないけど・・・・困る。
そう私が口にする前に、人差し指だけを持っていた手がするりと動き、手全体を包み込むように握り締めた。



いつもなら、繋がれた瞬間しめたと思っただろう。

手を繋がれて、恥ずかしそうに、だけど嬉しそうな素振りを見せるのはよく使う手だ。


だけどここは学校で、今はまだ朝で、もう多くの生徒が登校してる。

こんな風に手をつないだまま教室に向かえば、誰にも見られず・・・なんて無理な話だ。


端から見て『いい感じ』くらいなら問題ないけど、手を繋いで校内を歩くなんて

付き合ってます宣言してるようなものだ。


そんなの困る。

困るってもんじゃないくらい困る。


柳は・・・困らないの?

それとも柳は、私と噂が立って平気なの?

私を落とすためなら、そんな噂くらい耐えられるの?


柳の横顔からはなにも伺えない。

視線を落とした先には、恋人同士のように繋がれた手が揺れている。


「困るよ離して」


一言そう言えば簡単に離してくれただろう。

だけど私は何も言わず、手を振り払うこともせず、教室に入るまで手を繋ぎあったまま歩いた。







「今日の私はどうかしてる・・・・・」




せっかく早起きして来たって言うのに、ただ部活観戦しただけで終わったし、

いつもなら絶対しないようなこともしちゃって・・・・



なんだか柳に流されっぱなしだなぁ・・・・・・。

ズズズーッと音を立てながら、底に残ったジュースを啜る。
白い雲の浮かぶ空を見上げながら、私は大きくため息を溢した。




「音を立てて飲み物を飲むなど、行儀が悪いですよ。間島さん。」

「今日は仁王じゃないんだね。」

「いつの話をされているのですか?」




私が初めて柳生に会った時、柳生は仁王の姿をしていた。


あれは中学3年の時だ。

いつものように頬杖をつき、窓の外を眺める仁王の横顔に、どこか引っかかりを覚えた。


仁王のようで仁王じゃない。


なにを話すでもなく、なにをするでもなく、ただ外を見ていただけ。

だけどやっぱりなにか違う。



「もしもし?あなたは誰ですか?」



それが柳生と交わした最初で最後の会話だった。




「その『いつの話』以来1度だって話した事もない人に、いきなりお説教とかされたくないんだけど?それとも今日は、柳生の振りした仁王なの?」

「あまり苛めないでください。」




眉を下げ、困った表情をしながら眼鏡を押し上げる柳生を横目に、

ベンチから立ち上がり、飲み干したジュースのパックをゴミ箱に捨てた。




「別に苛めてるつもりはないけど・・・・・」




あれからまったく接触してこなかった柳生が、なぜ突然話しかけてきたのか。

それがわからないほど私は馬鹿じゃない。


嫌味のひとつでも言いたくなるってものだ。


なにか言いたげな柳生の視線を背中に感じて、

私はあてつけの様に大袈裟に溜息を吐き出し、

それからくるりと向きを変え、ベンチに座った柳生の前に、向き合うように立った。




「柳生はどっちに賭けてるの?」

「私は賭け事などしません。ただ・・・・・」

「ただ?」

「私は柳君を応援しています。」




賭けてはいないけど、同じ部活仲間を応援したいって事?

さすが紳士。友情にお厚いことで。




「ふーん。じゃぁ今日は柳の売込みにでも来たの?」

「そんな野暮な事をするつもりはありません。」

「じゃぁなに?少しでも柳が有利になるように私の弱点でも探しにきた?」




悪戯っぽい笑みを浮かべ、上目遣いに柳生を見れば、

中指で眼鏡を押し上げながら、コホンと咳払いをした。


おーおー。

これくらいで赤くなっちゃって。

紳士可愛いぞ!


久々に感じた初々しい異性の反応に私の心がうずうずしだす。


こういう感情が好きなんだよねー!!

ムフムフって笑っちゃう感じ?

柳にはこういうのがないから苛々するんだよ・・・。



その鬱憤を晴らすかのように、柳生の隣に引っ付くようにして座ってやった。


ギョッとした顔で身を引く柳生だが、膝の上に置いてある手にそっと触れると、

カチーーン!!と音が聞こえるくらいに、ピタッと動きが止まってしまった。


あはは。面白い。




「や、やめたまえ。そのように気軽に異性に触れるなど・・・・・」

「気軽かどうかなんてどうしてわかるの?」

「そ、それは・・・・」

「私今・・・・凄くドキドキしてるよ?ほら・・・触れてみる?」




触れていた手を両手で包むように握って、その手を自分の胸の辺りに持ってくる。

柳生は私がなにをしようとしているのかわかったようで、凄まじい勢いで私の手を払い立ち上がった。


怒ってるのか照れてるのかわからない顔で、何か言いたげに口をパクパクする柳生。

顔は赤いし金魚みたいだ。


しばらくそんな彼を眺めていたけど、柳生は結局なにも言わずにその場を走り去った。



あ~面白かった。

やっぱりああいう反応を見せてくれる男が1番良い。

すぐに飽きちゃうけど、私は振り回すのが好きなんであって、振り回されるのはごめんだ。


でもコレは勝負。

ここで逃げ出すわけには行かない。




「さて、ストレス発散もしたし、もうひと頑張りしますか!」




大きく伸びをしながら空を見上げる。


私の気分はすっきりしたけど、それと入れ替わるように、

さっきまで青かった空に黒い雲が覆い始めていた。



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やっと4話書けました。


立海メンバーを順に出そうと思っているのですが、

そのせいで柳の出番が半分以下になってる気がしなくも無い。(苦笑)


リク頂いた、肩を叩いて振り向いた時にほっぺに指が刺さるイタズラを入れてみました。

柳が以前引っかかった相手とは・・・・彼しかいませんよね。ww