「須藤さん。」
「おう、柳生。今から部活?」
「ええ。」
「ま、頑張って。」
「ありがとうございます。」
部活へ向う途中で下校中の須藤さんと出会った。
嬉しさから声をかけると、その瞳が私を捉える。
それだけで胸の鼓動が早くなる。
『頑張って』
ありふれたその言葉が嬉しくて、去っていくその後姿を熱い眼差しで眺めたいた。
「柳生。お前さん須藤と知り合いなんか?」
「ええ。先日告白して振られたのですよ。」
「・・・・なに?」
動きを止めて驚きの表情で私を見る仁王君に、眼鏡を上げる仕草を見せ、
「急がないと真田君に叱られてしまいますよ?」と、部室への道を急いだ。
LASER BEAM
「麗華、柳生君と知り合いだったの?」
「ん?あぁ・・・まぁね。」
「なによ~!知り合いなら教えてくれたらよかったのに!」
「教えてどうするのよ?」
「だって!あの柳生君だよ?お近づきになりたいじゃない!」
「そう?」
興奮気味の友達に苦笑いを返し、とりあえず話題を変えてしまおうと違う話を持ち出す。
だけど友達の耳にはそんなものは届いてないらしく、柳生の素晴らしさを熱く語りだした。
なぜ柳生がこんなに人気が高いのか・・・?
私には今ひとつわからない。
紳士だとか言われてるけど、真面目なだけな男に興味はない。
ああいう系の男は、私のラブセンサーに引っかからないのだ。
どちらかといえば隣にいた仁王みたいな方がタイプだ。
そんな柳生に告白されたのは1週間前。
学校帰り、最寄り駅で降りて改札を出た所で声をかけられた。
「突然不躾に申し訳ありません。」なんて言うから、どこかのセールスマンかと思ったら
隣のクラスの柳生じゃないか!!
元生徒会役員で成績は常に上位。そのうえテニス部レギュラーである彼は、立海じゃかなり有名だ。
私だって顔と名前くらいは知っている。
だけど同じクラスになった事はないし、話したこともないわけで・・・・
面識がないといってもいいだろう。
そんな彼が私に声をかけてきた。
これにはかなり驚いた。
「えっと・・・・なにか?」
「私は立海代付属中学3年A組、柳生比呂士と申します。」
眼鏡をクイッと上げながら自己紹介する彼に、
そんなこたぁ知ってるし!!と、ツッコミそうになってグッと堪え,
柳生の話に耳を傾けた。
どうやら柳生は私に話したい事があるらしく、ずっとタイミングを伺っていたのだが、
立海生徒の前では声がかけずらく、私の最寄り駅まで着いて来たらしい。
ストーカーですか?
なんだかよくわからないけど、こういう堅苦しい人間が苦手な私は、
早く用件を済ませてしまおうと、「で?話って何?」と切り出した。
「出来れば静かな場所へ移動したいのですが・・・・」
「えー!?急に声掛けてきた人と静かな場所とかってちょっと・・・・」
感じ悪っ!!って自分でも思ったけど、ココから移動とか面倒だし、
なんせ早く別れたかった。
すると柳生は一瞬だけ困った表情を見せたけど、すぐにキリリと背筋を伸ばし、
「そうですね。私とした事が・・・配慮がなく申し訳御座いませんでした。」と頭を下げた。
「ちょ、止めてよ。もういいから、早く用件言ってくれない?」
「そうですね。いつまでも女性をこのような場所に立たせている訳にはいきません。」
本当になんなんだろうこの人・・・・。
すっごい疲れるんですけど!!
早く用件を言え!と、ばかりに、漏れる溜息を隠しもせずに吐き出し、
腕を組んで斜め上に見上げるように柳生を視線を向けた。
「実は先日貴女が学校近くの公園で、小さな女の子の失くし物を一緒に探している姿を見かけました。」
「あぁ・・・・・そんな事もあったね。」
1週間ほど前の事だ。
学校の帰り道に通りかかった公園から泣き声が聞こえ、ふと目をやると、
幼稚園くらいの女の子が、泣きながら垣根の草を掻き分けていた。
何か探し物をしているんだろうという事はすぐにわかった。
辺りを見てみるが保護者らしい人は見つからない。
そのまま通り過ぎようかとも思ったけど、泣き声はさらに大きくなっていくばかり・・・・。
仕方なく公園に入り女の子に声をかけると、持って来たポシェットが見つからないと言う。
私の手の大きさくらいだというから、すぐに見つかるだろうと思って探し始めたのだが・・・・
これがまたいくら探しても見つからない。
そのうち雨がパラついてきて、私は持ってきていた傘を女の子に手渡し、
濡れない様にと木の下に立たせた後、再び手当たりしだい公園内を探し回った。
結局ポシェットは女の子の勘違いで持って来ていなかったと、
女の子を心配して迎えに来た母親に聞かされた。
無駄に時間は潰れたし、小雨とはいえかなり濡れたし、本当に最悪な日だった。
人間やはり慣れない事はするもんじゃない。
もう当分人助けなんてしてやんない!
そう心に誓いながら、私は濡れた制服で家路に着いた。
あの時の事をまさか見られていたとは・・・・・
しかし、どこから見てたのかはわかんないけど、見てるくらいなら手伝えよ!!
紳士だろうが!?
「で?それが何?」
「雨にもかかわらず膝を着いてベンチの下などを覗き込んでいる姿に・・・・」
なんだ?
女性のくせにはしたない!!とか汚らしいとかそういう事?
勘弁してよ・・・・。
「大変心打たれました。」
「はぁ?」
「制服が汚れるにもかかわらず、あそこまで人を思いやれるあなたの優しさに私は感動したのです!!」
「あ・・・・・っそ・・・・。」
どうやらお説教ではなかったらしい。
だけどわざわざそんな事言うために着けて来たの?
マジ怖いんですけど!!
「えっと・・・用件済んだならこれで・・・・」
「いえ、お話はこれからです。」
「マジですか?」
もう!!まだあるの!?
しかもこれからって・・・・前置き長っ!!
「あのさ、私急ぐんだけど。」
「では簡潔にお話させていただきます。」
最初からそうしてよ!!
大きな溜息が再び漏れた。
柳生はそんな私の態度は気にもしてないかのように、
眼鏡をまた押し上げる仕草を見せた後、1度咳払いをし口を開いた。
「須藤麗華さん。貴女が好きです。私とお付き合いしていただけませんか?」
「・・・・・・・は?」
なにっ!?
聞き間違いでなければ、付き合ってって言った!?
これはその辺に一緒に買い物でも・・・って事じゃないよね?
貴女が好き?
好きって・・・・・・えぇっ!?
「ムリムリムリムリッ!!!」
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「いや・・・・だって私、柳生・・・・・・君の事ほとんど知らないし・・・」
「ではこれから知ってください。」
「知ってって・・・・・・・・・・・・・・・え?」
なにこの人!?
ムリだって言ってんじゃん!!
諦め悪っ!!
こういう頭の固い人ってズバッと言った方がいいのかも・・・?
すでに態度は悪いし、嫌われたところで痛くも痒くもないし・・・・。
よしっ!
「私さ、柳生・・・・・・君の様な、」
「もう柳生で結構ですよ。」
「そりゃどうも・・・・。ゴホン。えっと・・・・柳生のような真面目腐った人って苦手なんだよね。」
「真面目腐った・・・・ですか。」
自分じゃそうは思ってないのか、また眼鏡をクイクイしながら考える素振りを見せる。
その仕草気に若干イラッとしながら、私はさらに言葉を続けた。
「それにさ、私の事すごい美化してるみたいだけど、私そんないいやつじゃないし。」
「そんな事はありません!」
「じゃぁさ、他に私の何を知ってるの?あの時だって、内心面倒くさい事に顔突っ込んじゃったって思ってた。そんな事知らないでしょ?」
駅の隅とはいえ人通りは多い。
一応声の大きさは調整してるつもりだけど、険悪な空気を感じてか、
通りすがりの人が何事かと視線を向けてくる。
こんなとこ地元の友達に見られたらなんて言われるか・・・・。
柳生は私をじっと見つめたまま、何も言わない。
こんな女だと思わなくてショックを受けてるのだろうか?
けど勝手に勘違いして惚れた方が悪いわけで、私は悪くないもんね!!
このまま見つめ合ってても仕方ないし、これで柳生も諦めただろうと思った私は
「じゃぁ・・・」と、その場を立ち去ろうとした・・・・・
「その論理でいくと・・・・」
ずっと黙っていた柳生の声が背中にぶつかって、思わず振り返る。
論理?
今度は何の話?
なんでここで論理とか出てくんの?
「須藤さんも私の事を『ほとんど知らない』とおっしゃいました。」
「言ったけど・・・・」
「では私が真面目腐っているかどうかはわからないのでは?」
なにコイツ!!マジないわ!!
なんでここまで食い下がってくるの?
もう諦めろよ!!
「確かに知らないけど、ある程度はわかるじゃん!?」
「私は貴女が思っているほど真面目腐った男ではありませんよ。」
キラリと眼鏡が光る。
そんな自信満々に『真面目腐った男ではありませんよ』とか言われてもね・・・・。
「紳士が自分でそんな事言っていいの?」
「貴女が私に興味を持ってくださるなら・・・・。」
本当にウザイしダルいしありえないけど、
ここまでくるとなんだか笑えてきて、吹き出してしまった。
笑い出した私を不思議そうに見ていた柳生も、
私が笑顔になったことが嬉しいのか、少しだけ微笑みを浮かべた。
へぇ・・・・そんな風に笑うんだ。
その笑顔に、少しだけ柳生をもっと知ってみてもいいかも?なんて思ってしまった。
「わかった。じゃぁ、お互いどんなヤツか知るとこから始めよう?」
「お友達ということですか?」
「まぁそんな感じ?」
さらに面倒な事になるかもしれない。
だけどほんの少しだけ、ワクワクしてる自分もいる。
スッと差し出された右手。
握手しろってことだろうか?
友達になって握手とか・・・やっぱ真面目な男だと思いながら、
私はその手に自分の手を重ねた。
「貴女の心を必ず奪って見せます!!」
「あはは・・・もう勝手にしてよ・・・・」
こうして私と柳生の奇妙な関係が始まったのだった―――――
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ギュ様のアルバム聞いてめっちゃ書きたくなったんで思い切って書いちゃいました!
ギュ様ブームがジワジワきてそうで怖いww