小さな幸せ
「じゃぁ、後はお願いね?」
「うん。いってらっしゃーい!!」
とある休日。
特に用事もなく昼前までゴロゴロしていると、
「あんた暇ならちょっとバイトに行っておいで。」とお母さんに言われた。
ちょうど金欠だったし、バイト内容は、それでお金もらっていいの!?って感じだったし、
「行く!!」と即答で、家を出た。
バイトとは従姉のお姉ちゃんの子供のお守り。
家は近所だし、よくうちの家にも遊び来るし、
一人でお守りなんて言うのは初めてだけど、
一緒に遊ぶくらい簡単簡単♪
そんな軽い気持ちでお姉ちゃんを送り出した。
「綾女ちゃん!!これ読んで。」
「うん。いいよ。」
「駄目だぞー!!こっち先に読んでもらうんだからな!」
「私のほうが先だもん!!」
「あぁ~喧嘩しないの。順番に読んであげるから。」
私を挟むように座って、どっちが先か言い合う姿に、
私って人気者?なんて余裕な笑みを浮かべてられたのも最初のうちだけ・・・。
「じゃぁ俺が先!!」
「私!!」
「ちょっと。順番に読むんだからどっちが先でもいいでしょ?」
「「やだ!!」」
やだって・・・・。
「綾女ちゃん私が先だよね?」
「え?あ・・・そうだね。モエちゃんが先に読んでって言ったし・・・」
「綾女もそうやってお兄ちゃんだから我慢しろって言うのかよ!?」
「ええ!?」
「みんな俺が嫌いなんだ!!」
「ち、違うよ!!」
なんなのいったい!?
お兄ちゃんだからとか、嫌いとか・・・・誰も言ってないでしょ!?
「え・・・っと・・・・、じゃぁ・・・ユウ君の本先に読んでいい?」
「なんで!?私が先って言ったじゃん!?」
「そ、そうだよね・・・・。」
「我が侭言うなよモエ!!」
「我が侭はお兄ちゃんでしょ!?」
「ほ、ほら、喧嘩は駄目だって・・・・」
何とかなだめ様としたけれど、兄弟げんかはヒートアップして
そのうち2人とも泣き出してしまった。
私の方が泣きたいよ・・・・
お守りくらい簡単だと思ったのに・・・。
どうしよう!?
こんな時・・・・・誰かもう一人いてくれたら・・・・・
!?
私の頭にパッと閃いた顔。
私は携帯を取り出し、頭に浮かんだその人物に電話をかけた。
「もしもし!?助けて国光!!!」
「お兄ちゃん。次これ~!!」
「ああ・・・・。」
「綾女。俺はこれ読んで!!」
「うん。いいよ。」
半泣き状態で電話をした私から事情を聞いた国光は
「わかった。」と、すぐにやって来てくれた。
小さい子供とか苦手そうかも・・・?って、思ったけど、
なんだかんだでうまくお守りをしてくれている。
普段無表情で無口な国光が、少し優しい表情を浮かべながら
膝の上にモエちゃんを抱え本を読み聞かせる姿はまるで親子の様・・・・。
「国光ってなんだかんだで面倒見はいいし、いいお父さんになりそうだよね・・・。」
「・・・・そうか?」
「うん。」
『お父さん』なんて言われて少し気恥ずかしいのか
視線を逸らしながら眼鏡をあげる仕草をする。
そんな国光が可愛くて小さく笑った。
「綾女は母親になっても今と変わらなさそうだな。」
「え~!?それどういう意味!?」
「綾女!早くこれ読んでよ!!」
「あ、ごめん・・・。」
ユウ君にせっつかれて慌てて本を開くと、国光が「フッ。」と表情を緩ませて笑う。
その笑い声が「そういう意味だ。」と言っている様で、膨れた顔をして見せたけど、
自分でもこうやって子供にお説教されるような母親とかになってそうだな・・・なんて思ってしまった。
その後もお絵かきをしたり、少しだけ家の前で縄跳びをしたりして遊び、
おやつを食べた後子供達は、あっという間に眠ってしまった。
膝の上で眠るユウ君の髪をなでてあげる。
先に寝たモエちゃんを見て「俺はまだ眠くない!」なんて言っていたけど、
それから数分もしないうちに私の膝へ倒れこんできた。
「これくらいの歳の男の子って意地っ張りなのかな?」
「さぁな。」
「ちょっと生意気だけど男の子ってカワイイね。」
きっと国光はこんなんじゃなかっただろうな・・・。
昔からあまり変わってなさそうだもん。
「国光もしかして子供嫌いかと思ったけど、大丈夫そうでよかった。」
「嫌いではないが、どう扱っていいのか困る。」
「そう?いいお父さんしてたよ?」
ちょっとだけさっきの仕返しとばかりに『お父さん』を強調して言うと、
「からかうな。」と、顔をしかめられてしまった。
「あはは。けど、膝の上に座らせて本を読み聞かせるのとか、ちょっと妬いちゃったな・・・。」
「それを言うなら綾女の方こそ・・・・」
「え?私?」
「いや・・・なんでもない。」
言いかけた言葉を途中でやめてスッと視線を逸らし、またさっきと同じように眼鏡を上げる仕草をした。
そんな風にされると気になるじゃん!!
「なに?ちゃんと言ってよ!!」
「なんでもないと言っているだろう?」
「は~や~く~!!」
「そんな大きな声を出すと起きてしまうぞ?」
「あ・・・・ってそんなことで誤魔化されないんだから!!」
少しだけボリュームを落としながらも、さらに食い下がる私に、
国光はため息を付きながら立ち上がった。
あれ?もしかして怒らせてしまった・・・?
と、少し焦ったけど、国光は私の目の前まで来ると膝をついてかがみ、
私の膝の上で眠るユウ君を抱き上げ、そしてモエちゃんの隣にそっと寝かせた。
「国光・・・・?」
「・・・・・俺はまだ綾女に膝枕などしてもらった事はない。」
「は?」
「1度しか言わない。」
「ええ!?もう1回言ってよ!!」
ぷいっと顔を背けて手で口元を隠した国光だけど、
髪の隙間から見えた耳は真っ赤に染まっている。
今の・・・・・・聞き間違えじゃなければ「俺はまだ膝枕してもらってない」って言ったよね?
それって・・・・それって・・・・・
「ヤキモチ・・・・・?」
「違う。」
「ウソ!!ヤキモチじゃん!!」
嬉しい!!
まさか国光が妬いてくれるなんて!!
しかもこんな小さな子に!!
ちゃっかり聞こえていた事に罰が悪そうな顔で否定の言葉を口にするけど
まだ顔は赤いし、あの冷静沈着な国光が焦ってる様に見えて
私はますます嬉しくて顔がニヤケてきた。
「じゃぁ・・・・膝枕する?」
「・・・・・いや。やめておこう。」
「なんで?ほら早く!」
首を横に振った国光の腕を引いて、無理やり膝枕をさせようとする。
きっと本気で嫌がれば私の力なんて敵うはずもないんだけど、
国光は「いいと言っているだろう?」なんて言いながらも、私の手を振り払ったりせず
静かに膝の上に頭をおいた。
ユウ君とは違う大きさと重み。
視線を下げると眼鏡越しに国光と目が合って、お互い照れくさい笑みを浮かべた。
さっきユウ君にしてあげていたように頭をそっと撫でると、さらさらの髪が指の間を流れる。
国光の髪に触れたのは初めてじゃないけど、その柔らかさが心地よくて何度も指を滑らせた。
「国光はもし子供が出来たら女の子と男の子のどっちがいい?」
「女の子だと綾女が妬いてしまうのだろう?」
「けど男の子だと国光が妬くんでしょ?」
よくよく考えたらなんて大胆で恥ずかしい会話をしてるんだろうと思う。
だって・・・別に『私達2人の子』なんて言ってないのに、お互い自然とそんな話をしているんだから・・・。
でもそれって・・・・国光はこの先私との未来を考えてくれてるって事だよね?
「ふふ。じゃぁお互いヤキモチ妬きあえるように、男の事女の子と1人づつがいいかな?」
私がそう言うと、国光は二人並んで眠るユウ君とモエちゃんに視線を向けて
「こうやって親子で昼寝か・・・・悪くないな。」と、呟いた。
将来の事なんてわからないけど、私と国光がいて、そして2人の子供がいて・・・・
お互いに子供達にヤキモチを妬きあって・・・・・
こんな休日の午後をのんびりと過ごす。
「幸せそうだね?」
「ああ。」
どちらからともなく唇が重なる・・・・・。
それは未来への約束の証のような気がした――――――
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