みかちゃんがやってる「彼企画」に参加させてもらいました!!
私がチョイスしたテーマは『無邪気な彼』、キャラは赤也です。
その目に浮かぶ悲しみの色を、消し去る事ができないとしても
どうかその顔に笑顔を・・・・・
先輩が笑ってくれるなら、俺はいつだって隣で微笑むよ
~ 無邪気な彼 ~
笑顔の下で・・・・
「雪せんぱーい!!!!」
もじゃもじゃの髪をわさわさと揺らしながら駆けて来た赤也は
そのまま勢いを落とすことなく、私の腰へと飛びついてきた。
ぐらりと後ろに倒れそうになった体を、巻きついた腕がぎゅっと赤也の体へと引き寄せる。
「もう。いきなり突っ込んで来たら危ないって!」
「へへっ。スンマセン。」
全然悪いなんて思ってないような顔で笑顔を浮かべた赤也に、デコピンを食らわせると、
大して痛くもないくせに「イテッ!!」なんて大袈裟に騒ぐから、私はケラケラと声をあげて笑って見せた。
「お前たちはいつも騒がしいな。」
「あ、柳。」
ふいに後ろからかかった声に振り向けば、柳がいつもと変わらぬ顔で立っていた。
柳の登場に、赤也の抱きしめる腕の力が強くなる。
「赤也。あまり騒いでいると、弦一郎に怒鳴られるぞ?」
「わかってますよ・・・。」
そう言ってはいるが、私から離れる気配はない。
拗ねたように唇を尖らせる赤也の頭をよしよしと撫でてやると、
すぐに嬉しそうに笑顔を浮かべ、さらにぎゅっと抱きついてくる。
「萌木。いつも言うが赤也を甘やかせるな。」
「いや・・・・だって猫みたいで・・・」
「ちょ、先輩ひどいッスよ!」
もじゃもじゃの髪は柔らかいし、撫でてやるとくすぐったそうに目を細めながらも嬉しそうな顔するし・・・・
本当に猫みたいなんだよね・・・。
「まぁお前が赤也を男としてみていないのはわかっているが、やはり異性が抱き合うという状況をもう少し考えろ。」
「柳先輩だって彼女と抱き合ってたじゃ・・・・・あっ!!」
途中まで言いかけて急に赤也が驚いたような声をあげ、自分の口を押さえた。
そしてチラリと私の方へ視線を移し、罰が悪そうに俯いてしまった。
本当にわかりやすい子だ・・・・・。
私には赤也が今何を思っているかがすべてわかってしまったけど、
柳は違う解釈で受け取ったようで、赤也に説教をはじめた。
「俺達は交際をしている男女であってお前達とは違うだろう?」
「そ、それはそうッスけど・・・・」
「付き合いもない年頃の男女が抱き合うのはおかしな事ではないのか?」
「あ・・・えっと・・・・いや・・・・まぁ・・・・」
「それに俺達は人前で抱き合ったりはしない。」
柳の説教にたじろぐ赤也。
でもそんな状況でも、私にできるだけ聞かせまいと背で私を庇う様に立ち、
意味のわからない言葉を発して、柳の声を掻き消そうと必死で・・・。
その優しさが嬉しくて、だけどそうさせているんだと思うと苦しくて、
私は赤也の手をそっと握り締めた。
「赤也もういいよ。」
「え?」
「私、もう大丈夫だから。」
話を遮った私の言葉の意味がわからないとでも言うような表情を浮かべた柳に、
「赤也借りるね!」と、一言残し、口を開けて放心する赤也の手を引きその場を走り去った。
赤也の手を引きやって来た場所は、テニスコート。
コートを囲む緩やかな斜面に私は腰を下ろした。
「赤也と初めてしゃべったのここだったよね?」
「そうでしたっけ?」
「覚えてるくせに。」
いつもこのコート脇からテニス部の部活風景を見ていた私。
なんて暇人だろうと自分でも思うけど、足が自然とコートに向かい、
日が暮れるまでずっと見ていた。
別にただテニスをしてるのを見るのが楽しいとか、そんな理由じゃない。
好きな人を見ていたかったから・・・・。
広いコートで、たくさんのギャラリー。
こんな場所でじっと彼を見ていたとしても誰も気づかない。
彼を好き放題見れる唯一の場所だった。
あの日も・・・・・・いつもと同じようにここで彼を見ていた。
掛け声とボールの音が響くコートの端で、仁王立ちでコートを睨みつけている真田と、
何かを確かめるようにノートを覗き込む柳。
遠目なのにしっかりと彼の姿を見つけ、そこから視線が動かない。
じわじわと胸に広がる淡い想い。
見ているだけなのにキュンと胸が切なくて
静かに息を吐き出しながら、制服の上から胸元を押さえた。
ただこうやって見つめているだけで私は満足だった。
それ以上のことなんて望んではいなかった。
今日も柳を見れたことに嬉しく思っていると、
真田と柳の後ろから、一人の女の子が声をかけた。
真田はその女の子を目にした後、すぐにコートの中へと入って行き、
残された柳は女の子と会話を交わしはじめた。
部活中に部外者が声をかけてきて真田が何も言わなかった。
だからなにか生徒会の用事とか、そういう事なのかと思っていたのだけど・・・・
はっきりと顔が見えるわけではないが、女の子がふわりと微笑を浮かべ、
その微笑みに柳の表情も少し緩んだ。
心がざわめきだす・・・・・
ただ話しているだけのようだけど、好きだから気づいてしまう事もある。
あんな顔をした柳は見たことがない。
優しくて・・・穏やかで・・・・・慈しみに溢れた瞳。
彼女に特別な想いを抱いているというのが見て取れた。
あの子は・・・・・・誰?
柳の・・・・好きな人・・・?
周りの音も聞こえないほどに頭が真っ白になって、
息が出来ないほどに胸が苦しくて・・・・・
視界が霞み、頬に熱い雫が伝った。
「痛っ!」
その時、胸の痛みとは違う痛みが頭に走った。
なに?
今のは・・・?
ショックで周りがまったく見えていなかった私は、突然現実世界に引き戻されたような感覚で、
頭を押さえながら何が起こったのかときょろきょろと顔を動かした。
足元に黄色いボールが転がっている。
ボール?
これが当たったのか・・・・。
何気にボールに手を伸ばしかけると、「すんません!!当たりました?」
と、一人の男の子が駆け寄ってきた。
「うわっ!!泣くほど痛かったんスか!?」
「え?」
「マジどうしよう!!真田副ブチョーに怒られる!!」
コートから坂を駆け上って私の目の前まで来た男の子は
私が泣いているのに気づき一人慌て出した。
そうだ。私泣いてたんだ。
急いで鞄からタオルをだして涙を拭う。
「ホントすんませんした!!」
「あの、違うから。ボールは当たったけどそんなに痛くなかったし。」
「どこ当たったんスか?」
「え?ここだけど・・・・」
おでこの少し上の頭を押さえると、その男の子は私の前に膝を着いて地面にラケットを置き
私が押さえていた手を退けて、「痛いの痛いの飛んでいけー!!」と、その場所を摩った。
「どうっスか?痛くなくなりました?」
まだ頭に手を置いたままで心配そうに私を覗き込みながら聞いてくる男の子。
本当に私を心配してくれてるその瞳に、大丈夫だよ。って言ってあげたかったけど、
私は言葉よりも笑い声を先に上げてしまった。
「はは・・・あはは。」
「ちょ、何笑ってるんッスか!?」
「だって・・・あはは。痛いの痛いの飛んでいけとか!!」
子供の頃にはよくやったけど、中学になってまでそんな事されると思わなかったし、
なにより真剣にそんな事を言う男の子が可愛くて、私はさっきまで泣いていたのも忘れて笑った。
「そんなに笑わなくたっていいじゃないッスか!」
「ご、ごめんね・・・。でも・・・・・あははは。」
私に笑われた事に少し拗ねた顔をしていたけど、私が泣き止んだことにホッとしたのか、
男の子の顔にも笑顔が浮かんだ。
だけど笑い声が大きすぎたのか、「赤也!!何をしている!?」と、真田の怒鳴り声が飛んできた。
慌てて口を押さえたけど、もう聞こえてしまってるから意味がない。
こちらに向かって歩いてくる真田君に、「やべ。」と呟いた男の子は
「この人にボール当てちゃったみたいなんで、俺保健室行ってきます!!」
と、叫んだ後、私の手を取ってそのまま校舎に向かって歩き出してしまった。
「ねえ。本当に私大丈夫だから・・・」
「良いから黙って着いて来てくださいよ。あのままじゃ真田副部長に怒られるッスよ!」
それは嫌だ。
私は手を引かれるがままに黙って彼の後ろを着いて行った。
本当に保健室に連れて行かれるのかと思ったけど、彼が足を止めた場所は
コートから少し離れた手洗い場だった。
「ここで顔洗ったほうがいいッスよ。」
「え?」
「目、すぐ赤くなるんすね。」
目を指差されて、さっき泣いていたことを思い出す。
そうだった。
私泣くとすぐにめが赤くなるんだった・・・。
きっとみっともない顔をしてるんだろう。
だけどここで顔をばしゃばしゃと洗うのも躊躇われて、
私は持っていたタオルを濡らし、それで目を軽く押さえた。
そこまで泣いたわけじゃないから、しばらくしたら引くだろう。
それにしてもいいタイミングで連れ出してもらったかもしれない。
あのままじゃあそこで一人泣いていただろうし
見たくないと思いながらも目を逸らせずにいただろう。
思い出すとまた胸が痛んだけど、顔をしかめた私に男の子が「まだ痛いッスか?」と
心配そうに聞いてきたから、「ううん。大丈夫。」と、微笑を浮かべた。
その後彼は、自分の名前を自慢げに告げ、
『赤也でいいッスよ』と、頼んでもないのに名前呼びを強要し、
「早く部活に戻らなくてもいいの?」と心配する私を余所に、
くだらない話や真田のありえない話なんかを面白おかしく話し続けた。
私もその話がおかしくて、お腹を抱えて笑った。
「俺そろそろ戻るッス。」
「あっ!かなり時間経っちゃったよね?怒られるんじゃない?」
「そん時は先輩が庇ってくれるんでショ?」
「ええ!?」
いたずらっぽい笑顔を浮かべながら、手を振り走り去って行く赤也に、
「ありがとう!!」と声をかけた。
「雪先輩!!」
「なに~?」
「先輩、笑ってる顔の方がカワイイッスよ!!」
「っ!?」
面食らって言葉も出ない間に、彼の姿は消えてしまっていた。
柳とあの彼女の事が頭を過ぎりながらも、赤也のクシャリとした無邪気な笑顔が
悲しみを軽くさせてくれるようだった・・・・・。
「あれって・・・・偶然じゃなかったんだよね?」
「・・・・・・・偶然っショ?」
あんな場所までボールが飛んでくるとか、普通じゃありえない。
赤也は泣いてた私を見て、ボールを投げたんだ。
そしてさり気なくあそこから遠ざけてくれて、私の目の赤みが引くまで側にいて笑顔を向けてくれた。
「あの日だけじゃない。私が泣きそうな時はいつも赤也が側にいてくれたよね?」
柳とあの女の子が付き合いだしたと聞いたのは、あのすぐあとだった。
それでも私はテニスコートに通うのをやめなかった。
傷つくとわかっていながらも、柳の姿を一目見たかった。
柳の愛しさの溢れた優しい笑顔。
彼女だけに向けられる穏やかな表情。
苦しくて・・・悲しくて・・・・胸が張り裂けそうで、涙が零れそうになった。
そんな時いつも現れたのは赤也だった。
「だぁれだ!!」
涙でぼやけた視界がいきなり真っ暗になって、わざとらしい低い声が聞こえ、
驚きと聞こえた声に、零れかけた涙が止まる。
「だぁ~れだ!!」
同じセリフがもう1度繰り返される。
それで声を変えたつもりなのだろうか?
涙声にならぬように、「赤也でしょ?」と答えると、
「大せいかーい!!」と手を離し、開けた視界の中に満面の笑みを映し出してきた。
ほんの数秒前には泣き出しそうだったというのに、
赤也のその笑顔に、私もつられて笑顔になる。
「なんでわかったんッスか?」
「そりゃわかるよ。」
「へへっ。なんか悔しいけど嬉しいッス!」
「なんで嬉しいの?」
「そりゃ先輩が俺ってすぐに気づいてくれたからじゃないッスか!」
気づかれて悔しいけど、気づいてもらえて嬉しい・・・。
なんとも赤也らしい考えだと思う。
「今から試合するんッスよ!」
「へぇ、誰と?」
「赤也!!早く来るんか!!」
「あぁ・・・真田とか・・・。」
タイミングよく真田の怒声が聞こえ、二人して笑った。
コートに入った赤也は、大きく手を振りながら
「スーパープレイ見せるんで、しっかり見ててくださいね!」なんて叫ぶから、
私まで真田に怒られちゃうかも?と、思いながらも、
「あはは、うん。わかった。」と、同じように手を振って見せた。
試合形式の練習は、いつもとは違ってなんだかすごくかっこよく見えたけど、
サーブを打つ前に「雪先輩!!」と手は振ってくるし、点を取るたピースサインを送ってきたり、
試合が終わると子犬のように私の元に走ってきて「見てました!?」って聞いてきたり・・・・。
そんな赤也のせいで、真田に私まで怒られたけど、
胸の痛みは、いつの間にか消えてしまっていた――――
悲しくて、潰れてしまいそうだった心。
見たくない光景に、傷口が音を立てる事もあった。
でもその傷口が開く前に、そっとその傷口に手を当ててくれる人がいた。
傷口が開かないように、優しく笑顔を向けてくれてた人がいた。
いつもいつも・・・・私が泣きそうな時に現れて、
ただ無邪気な笑顔を向けてくれた人・・・・・
年下で、子供っぽくて、可愛い弟みたいだと思ってた。
だけどその笑顔の下は、私なんかよりずっと大人で、優しさと温もりが溢れていた。
その笑顔にどれだけ救われたことだろう。
「赤也・・・・ありがとう。」
私をじっと見つめる赤也に視線を合わせ、手をぎゅっと握り締めた。
まだ誰もいないコートは静かで、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
「赤也が・・・・・・・好きだよ。」
「え・・・?」
「ちょっと前まで違う人が好きだったのに・・・信じられないかもしれないけど・・・」
「・・・・・」
「赤也の笑顔を、これからも見ていたい。誰より傍で・・・見ていたい。」
「雪先輩っ!!」
ガバリと抱きしめられた赤也の腕の中。
いつも抱きついてくる、じゃれあうようなものとは違って、掻き抱くように腕に閉じ込められた。
「もう一回言ってよ。」
「・・・・赤也が好きだよ。」
「もう一回。」
「赤也が好き。・・・・・大好きだよ。」
「スッゲー嬉しい・・・・・。」
苦しいほどの抱擁が赤也の喜びを素直に伝えてきて、頬に涙が伝う。
「泣かないでくださいよ。」
「ごめん。だって・・嬉しくて・・・」
「雪先輩は笑ってるほうが可愛いって言ったでショ?」
少しかさついた指が私の涙を拭う。
だけど、そんな仕草も伝わってくる赤也の鼓動と温もりも、さらに私の涙を誘って止まらない・・・
「笑ってよ雪先輩。先輩が笑ってくれるなら、俺はいつだって隣で微笑むよ。」
目の前には、ずっと私を支え続けてくれていた笑顔。
私はその笑顔に向かって、心からの笑顔を返した―――――
オマケ
「じゃぁ、とりあえずキスしていいッスか?」
「なんでいきなりキスになんのよ!?」
「付き合った記念?」
「私まだ赤也から何も聞いてないけど?」
「あれ?そうでしたっけ?」
「そうです!!」
「もういまさらッショ?」
「ちゃんと聞きたい!!」
「じゃぁ・・・キスした後で!!」
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無邪気な彼・・・・?
いつも無邪気で子供っぽいのに実はその無邪気さの下では・・・・・・。
って感じにしたかったんですけど・・・・撃沈?
場面がコロコロ変わって読みづらかったらスンマセン。
えへへ。でも赤也夢を久々にガッツリ書けて楽しかったデース!!
思った以上に長くなったけど・・・・。
甘々な夢が多いであろう中でちょいと切な目を目指して見ました。
柳をチョイスしたのは特に意味はないです。ww
みかちゃん企画に参加させてくれてありがとう!!