仁王夢 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言


~ なみだ ~



全国大会決勝日。


真っ青な空に太陽が光り輝く中、我が立海と青学の試合が始まった。



大会が始まってから欠かさず試合を見に来ていたが、今日は一段と暑い。

気温も暑いが、会場が全体的に熱い。



両校の声援がぶつかり合い、チア部の子達が華麗に舞っている。


みんな元気である・・・・・。



こう言うとなんやか愛校心がないように思うが、

別に立海が勝とうが青学が勝とうが私はかまわん。


やけど、毎日ではないにしろ、ここ数ヶ月彼らの頑張りは見てきた。

負けたら悔しいやろう。


そう考えると、勝てたらいいな・・・とは思う。


ここまで冷めた気持ちなのは、立海の試合でそこまで必死な様子を見た事がないからかもしれん。



関東大会でこの青学と戦った時は白熱したらしいけど、

私は幸村の手術に付き合って試合は見に来てはいなかったから・・・。


1つ前の名古屋星徳のも赤也の変貌にはビビッたけど、そこまでの緊張感はなかった。



そんな感じでただのほほんと試合を見てきていた私。


今日も軽い気持ちで試合を見ていた。



やけど・・・・・・・



第3試合で雅治が負けた。


余裕杓子尺やったのに、その憎たらしい笑みが消え、項垂れるようにベンチに戻ってきた。


真田のあほが嫌みったらしい罵声を飛ばしとったけど、

その他は誰も雅治に声をかけようとしない。




一人、みんなとは少し離れた場所に座る雅治の背中を、私はただ見つめていた。




「萌木さん。」




そんな私に、柳生が声をかけてきた。


手には雅治のジャージ。




「ええの?」

「私は何も言っていませんよ。」

「・・・・・・ありがとう。」




柳生はジャージを私に手渡しただけで特に何も言わなかった。


けどそれだけで柳生の優しさは十分伝わった。

柳生も心配なんやろう。



私はその柳生の優しさに素直に甘え、ジャージを手に、雅治の元へと向かった。




試合中に部員以外の者が声をかけていいはずはないんやろうけど、

私は静かに雅治の隣に腰掛けた。


私が隣に来たことはわかってるはず。

でも雅治は何も言わない。



やから私も特に何も言わず、汗を流す雅治にタオルとジャージを手渡した。




会話のない私たちの間に、みんなの声援が大きく響く。


目の前では丸井とジャッカルが走り回っていた。



隣でジャージに手を通す気配がして、少し落ち着いたのかとホッとする。


でもまだ雅治の顔をはっきりと見る気にはなれなくて、私はまっすぐ前を見ていた。


端から見ると見ると、丸井達の試合を見ているように見えるやろうけど

実際は隣の雅治に神経がいっていて、実際はあまり見ていない。


本当ならいつもと変わらん私で接するべきなんかも知れん。

けど、こういう時なんて言うていいんかわからんくて、うまく言葉が出ない。



お互いどちらからともしゃべることなく、二人ともただまっすぐコートを見ていた。



雅治にも丸井達の試合は見えてないように思う。

多分さっきの自分の試合が、頭の中では回想されてるんやないかと・・・・・そんな気がした。




長い沈黙に慣れてきて、ボーっとこれ負けたら次幸村か・・・・なんて考えていると、

ふと右手に雅治の手が重なった。


雅治の方へ視線を移すと雅治はまだ前を見たまま・・・・・


横顔からは表情は読み取れん。

何を考えてるんやろか・・・?


私には雅治の心の中を知る術はなかったけど、私の温もりを確かめるように握られた手が

少しだけ震えてるような気がして、甲の上に乗せられた手の下で、手を回転させ、指を絡めるように握り返した。



汗ばんだ手が、強く・・・強く私の手を握り締める。


その痛みが、雅治の悔しさを伝えているようで、

あんなに勝ち負けにこだわりなく見ていたくせに、雅治の悔しさを思うと、涙が零れた。




「何で雪が泣いとる?」

「雅治の代わりに泣いてんねやろ?」

「俺は泣いとらん。」

「・・・・・そやな。私が勝手に泣いてんねん。」



人前で泣くなんて滅多な事じゃないし、雅治自身にも泣き顔なんてそう見せた事はない。


けど自分でも驚くほど自然と涙が零れていく・・・・・。



雅治が負けた。



試合終了のコールに、負けたんや・・・・とは思っとったけど、

どこかまだ実感がなくて、受け止めきれてなかったんかもしれん。


雅治に握られた手の痛みと、涙のしょっぱさが、

雅治の負けという事実を突きつけてくるようで、胸に痛みをもたらす・・・・・・。


勝ち負けはどうでもいいと思っとったけど、それはもしかしたら・・・

雅治が負けるなんて考えてへんかったからかもしれん。



「俺の為に泣いてくれとると思うと嬉しいもんじゃのう。」

「悪趣味。」

「・・・もっと・・・・・」

「ん?」

「もっと俺の為に泣いて・・・・」




肩を引き寄せられて、汗の染み込んだジャージに顔を押さえつけられるように抱きしめられた。




今は試合中。


ここは客席。


周りは他のメンバーやまったく知らん観客もいるわけで・・・・



そんな中で抱きしめられる私。

いつもなら張り倒してでも逃げていたと思う。



やけど今は・・・・・・・・・・・


雅治の為に涙を・・・・・雅治の胸の中で流したかった。
















「疲れたのう・・・。」

「お疲れ様。」



夕日に伸びる影を追いかけるように二人ゆっくりと歩く。



全国大会。


結局立海は青学に負けてしまった。


悔しくないわけはないとは思うけど、みんな清々しいまでにさっぱりした顔をしていた。

自分の試合で負けた時はあんなに沈んでた雅治も、立海が負けてしまった事には

特に悔しそうな顔を見せはしなかった。



大会後1度学校まで戻り、部室で軽い打ち上げのような事をした後、

それぞれが笑顔で別れを告げた。


大会は終わって、これで3年は引退やけど、しばらくはまだみんな部活には顔を出すつもりやろう。


たぶんいつもと変わらん部活風景が見られるはず・・・・・。




「そうじゃ。これから家来んか?」

「・・・・・・・・なんで?」




見上げた雅治の怪しい微笑みに顔が引きつる。


その顔だけで、何の為にお誘いを受けてるのかなんて一目瞭然。


人がしんみりした気分でおったというのにホンマにこいつは・・・・


けど、大会中は雅治も我慢しとったし、終わったら凄いやろうとは覚悟していた。

それが大会後すぐとは思わんかったけど・・・・




「明日じゃあかんの?」




別に明日にしなあかん理由もないが、目的がわかってるのに「ほな行こか。」とも言いにくい。

一応私も乙女ですから・・・・・。




「今日雪が俺の為に泣いてくれたじゃろ?」

「・・・・知らん。忘れた。」

「ほぅ。それなら思い出すとこから始めんといかんのう。」

「え?嘘です!!覚えてます!!」




危ない。危険な香りがぷんぷんする。




「あの時も言うたが、自分の為に泣いてくれとると思うと嬉しかった。」

「そ、そう・・・。」

「やから・・・・・」

「やから?」

「今度はベッドの上で俺の為に啼いて欲しいと思ってな。」




・・・・・・・・・・・・・・・。


ここは殴ってもええんやろか?

冗談っぽく言うてるけど、これは本気や。


けどどうせ抗ったところで結果は変わらんやろうし、

なんだかんだで私も雅治の温もりに触れていたかった。

とりあえず、一応関西人として「『泣く』の意味が違うやろ!」とツッコミだけはしておいて、

ニコニコ・・・・・ニヤニヤと笑う雅治にそっと体を寄せた。




「泣かした責任は取ってや!」

「ククッ。心配はいらんぜよ。」







雅治の全国大会の終幕は、私の涙で幕を下ろす事となった――――



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テニミュ見て思った私の気持ちそのまんま。


手をぎゅっと握って仁王の代わりに啼いてあげたい!!・・じゃなくて泣いてあげたい!!

そう思ったんですよ。


最後はもうお決まりのオチ。