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織姫をさがせ!! ー Vol.4 ー
瞬きをする度に距離が近づいているように思うのは気のせい・・・・・?
吹き抜ける風に混じるグリーンアップルの香りが濃くなっていく。
このままじゃ・・・・・・
触れる!!
そう思った時、目の前に迫る丸井君が一瞬の間に消えた。
あれ・・・・・?
「いってぇ・・・・・。」
「交代の時間だ。」
「柳君!?」
飛び起きてみれば、階段下で転がる丸井君とその横に柳君が立っていた。
別に乱れてもないのだろうけど、身なりを軽く整えて柳君の横に立つと、
柳君の目がバチッ!!と見開かれた。
ひぃぃぃぃぃぃっ!!
「ずいぶんと楽しそうだったな。」
「えっと・・・・あは・・・あははは・・・・・・・。」
どこから見てたかわかんないけど・・・・って、全部見てたんだろうな・・・・・。
いいご趣味をお持ちで!!
でも今はそんな柳君に感謝しなきゃいけない。
私あのままじゃ間違いなく丸井君と・・・・・・・ぎゃー!!
私って雰囲気に流されやるいのかも・・・・最低だ・・・・。
自分に自己嫌悪で一人うな垂れていると、「原。」と丸井君に呼びかけられた。
「じゃぁ・・・俺行くわ。」
「えっ!?あ・・・・うん・・・・。」
「浴衣濡らしちゃってマジごめんな。」
「いいって。あっ!ヨーヨー割れちゃったから、よかったら私のあげるよ。」
「でもそれ、原が釣ったヤツだろ?」
「そうだけど、釣れたのは丸井君のおかげだし。」
ヨーヨーが割れて悲しむほど子供じゃない事はわかってるけど、
なんだかしょんぼりしてる丸井君が可愛くて、手に持っていたヨーヨーを差し出す。
「いいのか?」
「うん。」
「ありがとな!今日の思い出として大事にする。」
「え?」
「じゃーな!」
丸井君と同じ髪の色の赤いヨーヨーを大事そうに抱え去っていく丸井君の姿に
甘さと痛みの入り混じった痺れが、胸を走った気がした・・・・・。
今日の思い出・・・・・。
たった数十分の事。
何気ない気持ちで過ごしていたけど、私はいま3人のテニス部メンバーとの思い出を作ったんだ・・・。
そしてそれを大事にすると言ってくれた丸井君。
私何してるんだろう・・・・。
はあ・・・。
「丸井のエスコートはそんなによかったか?」
「ええっ!?」
柳君が隣にいることすっかり忘れてた!!
一人考えにふけっていたところを急に声をかけられて、肩を跳ねさせてしまう。
「ち、違うよ!!」
「ふ。まあいい。すぐに俺が忘れさせてやればいいだけのこと。」
「はぃ~?」
えー!?
なんか今背中がゾクッてしたんですけど!?
忘れさせるってなんですか!?
私がビクビクと恐れるように柳君を見上げると、口元に小さな笑みを浮かべて
「行くぞ。」と、私の手を取って歩き出した。
今から私は柳君との思い出を作るんだ・・・・・・・・・
繋がれた手に視線を落としながら、そんな事をふと考えた。
祭りはさっき以上に人が増えたようで熱気に満ちていた。
浴衣って涼しそうに見えてけっこう暑い。
「なんか冷たいもんが食べたい・・・・。」
「冷たいもの・・・・。あれはどうだ?」
「・・・・・・・本気で言ってるの?」
「俺はいつでも本気だ。」
絶対嘘だ!!
そんな顔してけっこう冗談言うくせにー!!
柳君が指差した屋台は、『冷やしきゅうり』と書かれた屋台。
その名の通り、きゅうりに割り箸を差して氷水の中に浮かべている。
かなり妙な光景なんですけど・・・・・?
「なにあれ?」
「きゅうりの一本漬けだ。」
「いや。それは見たらわかるけど・・・・」
あんな屋台初めて見た。
冷やしバナナとか冷やしパインとかと同じような感覚?
けどきゅうりって・・・・・・。
一本漬けって事は漬物・・・・だよね?
あんなの買う人いるのー!?
「ヘルシーでダイエットにもいいんじゃないのか?」
「別に私ダイエットしてないし・・・・。」
「体重が2キロほど増えたようだが?」
「何で知ってるのよ!!」
データーですか!?
それもデーターですか!?
見た目だけで体重の変化がわかるとか怖すぎるから!!
「柳君って実はムッツリなんだね。」
「知らなかったのか?」
「いやいや、そこは否定してよ!!」
慌ててツッコミを入れると、クスリと笑われてしまった。
むっかー!!
からかわれたー!?
「そんな膨れた顔をするな。」
「柳君がからかうからじゃん!」
「お前の反応があまりに可愛いからついな。」
「またそうやってからかう!」
「今のはからかっているわけではない。」
「え・・・・?」
ヤダヤダ!そんな目で見ないで欲しい。
なにその優しそうな・・・・愛しそうな目は・・・・
これもからかわれてるんだと思えなくなってしまいそうな目に、
私は視線を逸らして俯いてしまった。
柳君の視線をビシビシと感じて、俯いたままの顔を上げられずにいると、
繋いだ手を引いて屋台から少し離れた小さなスペースに座らされた。
「そこで少し待っていろ。」
「え?どこ行くの?」
「すぐ戻る。」
あ・・・・・行っちゃったよ・・・。
大きく息を吐き出し、バックの中からハンドタオルを取り出し火照った顔を扇いだ。
繋いでいた手と、顔が熱い・・・・・。
それでなくても暑いのに・・・・・本当に困ってしまう。
最近の柳君って、最初の印象と違って戸惑う事が多い。
一番冷静で物事を第三者的な視点で見られるタイプだと思ってたんだけど
実はかなりの情熱家なんじゃないかと思えてきた。
それになんか甘いんだよね・・・・。
柳君が他の女の子と話してるのとかあまり見たことないから
誰にでもそうなのかはわからないけど・・・・・・変に意識してしまって困る。
だけど・・・・・それを嫌だと思えない自分自身が・・・・1番困る。
柳君が立ち去った場所を見つめながらボーっと考えていると、
姿が見えなくなっていた柳君が同じ道を通って戻ってきた。
「待たせたな。」
「・・・・・なにそれ?」
「カキ氷だ。」
そりゃ見たらわかるよ。
柳君の手には山盛りに盛られたカキ氷が1つ。
カキ氷と柳君っていうのもなんか笑えるけど、
ペンギンの絵の書かれたかわいいカップが似合わなさ過ぎる。
一瞬吹き出しそうになったけど、ふとした疑問が浮かんだ。
柳君は私を一人待たせてまでカキ氷が食べたかったのか・・・?
違う。
柳君はそんな人じゃない。
じゃぁ・・・・これって・・・・・・・
「もしかして買ってきてくれたの?」
柳君はコクンと頷き、私の隣に腰を下ろした。
冷やしきゅうりの話しで、言い出した本人が忘れてたのに、
「冷たいものが食べたい」って私の言葉をちゃんと思えててくれたんだ・・・・。
やっぱり柳君は甘いと思う。
そしてそれがやっぱり嬉しいと思ってしまう・・・・・・。
嬉しさで綻びそうな顔を隠しながら、柳君からカキ氷を受け取ろうと手を伸ばして
そのカキ氷がミルク金時な事に気づいた。
「あれ?ミルク金時じゃん!」
「好きなのだろう?」
「知ってたの?」
「さぁな。」
「さぁな」とか言ってるけど、顔は自信満々だ。
私がミルク金時を好きってなぜ知ってるのかは疑問だけど、
それは柳君だから・・・・・って事にしておこう。
「1っこしかないけど柳君食べないの?」
「これは俺の分だ。」
「は・・・・・・?」
さっき買ってきてくれたっていいませんでした!?
なにその上げて落とすみたいな嫌がらせは!?「性格悪い・・・・。」
「勘違いするな。お前には俺のを分けてやる。」
「いやいいよ。なら私自分の買ってくるから、」
「その必要はない。」
「何でよ!?柳君は自分の食べなよ!」
「ゴチャゴチャ言わずに早く口を開けろ。溶けてしまうぞ。」
なんて強引な!!
自分で買ってくるって言ってるのに!
早く食えとばかりに、ずいずいと口元にスプーンを突きつけてくる。
周りにはあまり人がいないし、薄暗くてあまり見えないかもしれないけど・・・・恥かしいものは恥かしい。
だけどどうせここで逆らったって聞き入れてはもらえないだろう。
私はしぶしぶ口を開けた。
「うまいか?」
「うん・・・・。」
「ほら。」
「あーん・・・・・・。」
久しぶりに食べたミルク金時は本当においしい。
キーンとした冷たさと、口に広がるミルクと小豆の甘味。
やっぱりミルク金時最高!!
「柳君も食べなよ。」
「俺は後でかまわない。」
そういってまた私の口にスプーンを運ぶ柳君。
最初は恥かしすぎる!!とか思ってたけど、ミルク金時のおいしさにそんなのどうでもよくなってきた。
もっとと口を開ける私と、その口にせっせとスプーンを運ぶ柳君。
その流れ作業のような動きがなんだか段々おかしくなってきて、笑い声を上げてしまった。
「何を笑っている?」
「えー。なんか雛に餌をあげる親鳥みたいだな・・・って。」
「・・・・・・・。」
あれ?
なんか変な事を言っただろうか?
私の話を聞いた柳君は、ピタリと動きを止めてしまった。
「どうしたの?」
「親鳥が雛に餌をやるのを見たことがあるのか?」
「え?まぁ・・・テレビでとかだけど・・・・。」
「ほう。ではどのようにして食べさせていた?」
なんですか?
これは生物の勉強ですか?
何でカキ氷食べながらこんな話をしなきゃならないんだ!?
私のいらぬ一言が、柳君の何かに火をつけてしまったようだ・・・・。
「えっと・・・・・確か雛が親鳥の口の中に頭入れて食べてたような・・・・・」
「逆に雛の口に親がくちばしを突っ込んで食べさせる鳥もいる。」
「へぇ。種類によって違うんだ。」
知らなかったな・・・・・。
さすが柳君!!
別に授業で必要とはならない知識も豊富ですなぁ・・・。
そんなのんきな事を思いながら、次の一口をねだろうとした・・・・・・・
「お前はどっちがいいんだ?」
・・・・・・・・・・・は?
どっちがいいって・・・・・何?
柳君の言っている意味がわからずに、開けた口をそのままで呆けていると、
真面目な顔をした柳君が、私にもわかりやすい説明をしてくれた。
「俺の口からお前が食べるのか・・・俺がお前の口に食べさせてやるのか・・・・」
な、ななななななななななに言ってんのー!?
なにその受けか攻めかの選択みたいなの!!
どっちもいらないよー!!!!!
ってかどっちを選んだってあんま変わらない気がするしー!!!!
「ス、スプーンで十分です!!!」
せっかくかき氷食べて少し涼しくなってきたのに、再び急上昇する体温。
もう信じられない!
いきなりなに言い出すんだか!!
顔が熱くて両手を頬に添えながら俯くと、その手の上に柳君の手が添えられた。
「そういう顔をあまり見せるな。」
「そういう・・・・・・顔・・・?」
「止まれなくなるぞ?」
何が止まれないの・・・・・?
私今どんな顔をしてるの・・・・?
全身で脈打つ鼓動で、吐き出す息を震わせながら・・・・・・
カキ氷を持っていた柳君の冷たい手が、私の熱い体温と交じり合うのを感じていた。
どこからか風鈴の音が聞こえた気がした、午後19時――――
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お母さんのような蓮二が好きです。
でもやっぱり男の蓮二がス・テ・キ♪←