幸村連載 Ⅶ | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

このお話は連載となっております。

から順にお読みください 。





こうかんカレシ ‐Ⅶ-





忍足君が足を止めて私を振り返ったところは、学校から程ない場所にあった小さな公園。


遊具が数点あるだけの公園には、幼い子供とその母親らしい人が数組いるだけで、

それなりに人の存在を感じさせる音は聞こえたけれど、『静かだ』と感じた。


何を言うでもなくベンチに座った忍足君が、「座れば?」とでも言うように視線を投げ掛ける。

私もとくに返事を返す事もなく、黙って少し距離を開けて腰を下ろした。


お互いが言葉を捜すように、長い沈黙が流れる・・・・。


ベンチの前の砂場では、子供達が砂山を作っていた。

手を添え、水で固め、形作られていく砂山は、高く高く積み上げられていく。


だけと1人の子が少し強めに砂山を叩いた瞬間、

砂が斜面を流れるように滑り、一瞬にしてソレは崩れてしまった。




「なんか・・・・人の心みたいだね。」

「え?」

「力加減を間違えれば簡単に崩れちゃう・・・・」




そう・・・まるで私と精市。

そして珠樹と忍足君のようだ・・・・・。




「ねぇ。忍足君は・・・・珠樹のこと好き?」




落胆の声をあげながらも、また砂を積み上げていく子供達を見ながら、私は口を開いた。


忍足君が大きく吸い込んだ息を吐き出す音が聞こえる。

どんな顔をしているのかはわからない。

でもたぶん・・・・きっと私が見た事がないような顔をしているんだろう。




「・・・・・好きやで。」




はっきりとした声で告げられたその言葉に私はホッとして、強めていた緊張を少しだけ緩めた。


前を見ていた視線を忍足君の方へと向ける。

同じように前を見ていた忍足君の視線も私の方へと向いた。


眼鏡の奥の瞳が、真っ直ぐと私を捉えている。


こんな風に正面から忍足君の顔を見たのは初めてかもしれない。

いつも照れてばかりで、目を合わせることもほとんどなかったから・・・・


忍足君の瞳は、さっき女の子と話していた時のように何も写していないような目ではなく、

ちゃんと私を見てくれているとわかる。


私と向き合おうとしてくれているのだろうか・・・・?




「珠樹がよくね、忍足君の言葉は『台本を読んでるみたいだ』って言ってた。用意された言葉を言ってるだけで、忍足君の心が感じないって・・・・。」

「・・・うまいこと言うな。」

「私、よくわからなかった。台本を読むってどんなのだろう?って思ったし、もし台本みたいだったとしても、好きな人からの言葉だったら嬉しいんじゃないかって思った。」




甘くて・・・・ドキドキして・・・・ドラマや漫画のヒロインのようになれるなら、

それはそれで幸せなんじゃないかって・・・・・・


でも・・・やっとわかった。


忍足君がさっき女の子と話している姿を見た時、なんて薄っぺらくて、心に響かない言葉だろうって思った。


うまく感情を乗せて話しているようだったけど、その言葉の中に忍足君の心は感じなかった。

温かな温もりが・・・・・伝わってはこなかった。


浮かれて、舞い上がってる時には気付かない。

私も言われ慣れない言葉にドキドキしてばかりで、その中にある『心』を感じようとはしなかった。


だけど正面から受け止めようとしていた珠樹には・・・・すぐにわかってしまったのだろう。


好きだからこそ、言葉の奥にある心を感じようとした。

でもいくら甘い言葉を囁かれ、「好き」だと繰り返されても、

耳を過ぎれば消えてしまう。

珠樹の心まで届かない・・・・・・・




「でも・・・好きな人に想いのこもっていない言葉を言われるほど虚しいものはないよね・・・・・」




珠樹はいつもどんな思いで聞いていたのだろう?



珠樹もよく考えている事を悟らせない癖がある。

曖昧に笑って誤魔化そうとする。

私はいつもそんな珠樹に寂しさを感じていた。


友情と恋愛では多少違いはあるだろうけど、よく似た思いだったのかもしれない。



ゆっくりと話す私の言葉を、忍足君は目を逸らす事なく聞いている。


感情は読み取れない。

だけどその真剣な目に、珠樹への想いを感じる気がした。




「珠樹の事好きなんだよね?」

「好きやで。」




さっきと同じ質問をぶつける。

忍足君からも、まったく同じ答えが返ってきたけど、

その声にはさっきより強い想いが込められているように思えた。




「ならどうして気持を隠すの?どうして他の女の子にも気のあるセリフを言うの?」
















「忍足と付き合いだしてどれくらいになるんだい?」




駅前にあるファーストフードで、たいしてうまくもないコーヒーを啜りながら、

向かい側の席に座り、つまらなさそうにカップの中の氷をストローでかき混ぜる珠樹に問いかけた。

ふと視線を上げて、いきなりなんだとでもいうように少し目を細めた珠樹は

どうでもよさそうな声で、「もうすぐ1年くらいじゃない?」と、返事を返した。


その口ぶりに笑ってしまいそうになる。


素直じゃないというより、プライドが高いのだろう。

だから心の中を悟らせぬようにガードを強める。


忍足も珠樹も似たもの同士だと思う。

お互いそれに気付いてはいないようだけど・・・・・


笑いを押し込め、俺はさらに質問を重ねた。



「その間ずっとあんな感じなのかい?」

「あんなって・・・・?」

「素敵な彼氏を演じてるのかってことさ。」

「あぁ・・・・。」




何の事を言っているのか理解したのか、軽く目を伏せながら頷き、

氷で薄まっているだろうアイスティーを一口飲んだ。


同じような学生で溢れる店内はけっして静かとは言えない。

だけどその騒がしさが、2人の間の微妙な空気を軽くしてくれているようで、

珍しく珠樹が忍足の事を話し出した。




「あの人の言葉に気持が感じないと思ったのは、付き合って1ヶ月くらいだったかな・・・・?」




ぐるぐるとカップの中を回るストローに視線を落としたままで、ぽつりぽつりと話し出した珠樹。

俺は相槌をうつでもなく、ただ黙って珠樹の話に耳を傾けた。




「最初はどんな言葉も嬉しくて、胸をドキドキさせて、顔だって赤く染めてた。

私もこんな乙女みたいな反応ができるんだって自分でもビックリするくらいだった。

でも・・・・・好きだ言われる度に、喜びよりも不安の方が大きくなった。

逢う度に甘いセリフと女の子が喜びそうなシチュエーションを用意してくれる。

けど私には・・・・・私への気持とか、喜ばせたいって言う想いよりも、

そういうことをしている自分に酔っている様にしか思えなかったから・・・・・」




確かに・・・・自分に酔ってるって言うのは間違ってないと思う。

自分が考えたシナリオで彼女が喜んでくれるはずだと、絶対的な自信を持っていたのだろうから・・・。


だが、数を重ねるごとに珠樹の反応は悪くなった。


珠樹には、演出ばかりが目立ち、肝心の忍足の心が見えなかったのだろう。

いや・・・実際忍足は、理想とする彼氏でいる事ばかりに目を向けすぎて

珠樹への想いが二の次になってしまっていたのかもしれない。


だけど忍足はそれに気付かない。


焦った忍足はさらに演出を強める事で、珠樹の気持を繋ぎとめようとした。


それでも以前のような反応を見せない珠樹。

忍足はきっと苦悩したことだろう。


忍足のシナリオはいつでも愛を深め合うストーリーしかない。

カッコよくて誰もが羨む彼氏としている事を何より大事にしていたはずだ。

醜く感情をぶつけ、本性を晒しあうような真似はできなかっただろう。


そしてそんな忍足が考えた結果が・・・・・・




「そのうちあの人は、私以外の女の子にも同じようなセリフを言うようになった。

私に見せつけるように他の女の子に優しさを振り撒く。

でもそれも・・・私の時と同じ。そこに彼の気持は見えない。

彼が何をしたいのか、何のために私と付き合い続けて、何のために彼女達に優しくするのか・・・・・

あの人の考えていることも、心の中も、何もかもがわからなくなった・・・・・・」




忍足が他の女に優しくしていた時の事を思い出しているのか、

悲しげに伏せていた顔が苦痛に歪んだ。


そう言えば亜湖も・・・・最近はよく俺の前でそんな顔をしていた。

嫌そうな顔を隠しもせずに、苦しそうに顔を歪めていた。


珠樹も忍足の前でそんな顔をして見せていたら、素直に思いを打ち明けていたら・・・・

ここまで糸が絡まることもなかっただろうに・・・・。


辛いのだと・・・・苦しいのだと・・・・心で泣く前に、

その瞳から涙を零してやれば、忍足はすぐにでも珠樹を掻き抱いただろう――――



********************************************


両カップルの話を交えながら謎の解明をしてみましたが・・・・・・

意味がわからなくなってきました。←


ユッキーは忍足の不振な行動の理由も全てお見通し!!



皆さんには謎は解けましたでしょうか・・・・?ww