海堂夢 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

~ 剣と盾 ~




1年の最初からマネージャーだったわけじゃなく、

3年が引退して秋も深まった頃に薫ちゃんの誘いを受けて入部した私。


大好きな薫ちゃんの傍にいたいという邪心がなかったとは言わない。

だけどテニス部のみんなを支えたいという気持ちは嘘じゃなく、

私なりに一生懸命マネージャー業をやってきたつもりだ。


でも、そんな私への女子の目は、『男目当て』といわんばかりの冷たいものだった。


私はどちらかといえば気が強く、それくらいの事に屈するほどやわじゃない。

それに本当にわかって欲しい人に信じてもらっていれさえすればいい。そう思っていた。


時折聞こえる陰口と、嫉妬と羨望の混じった視線。

確かに気のいいものではなかったけれど、耐え切れないほどのものでもなかった。


だけど2年なり、クラス替えをして新しいクラスになった事で、私の状況と心境は大きく変わった。



上靴の中に入れられた泥。

なくなる教科書、筆箱の中の虫。

袖と襟元が接着剤でふさがれた体操服。

そして・・・・・クラスの女子全員が、私の存在が無いかのような振る舞い。


「誰なの!?」と声を荒げても、聞こえるのはクスクスと嘲笑う笑い声だけ。

直接暴力でも振るわれた方がまだマシだったかもしれない。

見えない影に、私はただ脅える日々を過ごす事となった。


教室になんていたくなかったけれど、席を離れればまた何かが無くなるかもしれない。

そう思うと移動教室やトイレ以外に席を立つ事もできなかった。

全ての私物をどんなに重くても毎日持ち帰りもした。


それでも机の中にごみが詰められたり、椅子が水で湿らされていたり・・・・・

いじめがやむ事は無い。


毎日エスカレートしてくる陰湿ないじめ。

それは確実に私の精神を削っていった。


マネージャーの仕事中に聞こえてくる嫌味や憎悪さえ感じる視線。

それは今までだってあった事。


だけど不安定になってしまった私の心は、その視線も、その声も、

自分に向けられた悪意の全てが、恐怖で仕方なかった。


手塚先輩からの指示や大石先輩からの頼みごと。

不二先輩や菊丸先輩のからかいや、乾先輩のデーターの話。

河村先輩が片付けの手伝いをしてくれたり、桃城君の冗談。

薫ちゃんのさりげない気遣い。


メンバーと接する度に飛び交う野次と視線は、

鋭い刃となり、私の心身を傷つけた。



私の様子が変わってきた事に、1番に気付いてくれたのは薫ちゃんだった。



「最近様子が変だぞ?なにがあった?」



本当に心配してくれてるんだとわかる優しい口調に、全てを吐き出し甘えてしまいたくなる。

だけど「いじめを受けてる。」なんてとても言えない。

心配をかけたくない。いじめられてるなんて情けない姿を知られたくない。



「なにもないよ?」

「嘘つくな。何年の付き合いだと思ってる?伊達に幼馴染やってんじゃねぇ。」

「嘘なんて・・・・」

「最近俺達の事避けてるよな?」

「そんな事・・・・」

「裏方の仕事ばっかりで、コートに出てこねぇだろ?」

「き、気のせいだよ!」

「じゃぁその毎日抱えてる大荷物はなんだ?」

「何って・・・・・教科書とか・・・・」

「上靴や辞書まで毎日持って帰る必要はねぇだろう?」

「それは・・・・・えっと・・・・・」

「美姫。」



声を荒げ怒鳴られたわけでもなく、静かに名前を呼ばれただけだったけど、

その声から薫ちゃんの怒りを感じ、身体がぴくんと震えた。


私を見る瞳の中に怒りを感じる。

こんなに怒ってる薫ちゃんを見るのはどれくらいぶりだろう?


それほどまでに私を心配してくれている。

そう思うと不謹慎だけど嬉しいと思った。


だけどそれと同時に湧き上がる昔から抱えていた疑問。


いつもの私なら絶対口にしなかっただろう。

心が弱っていたから・・・・・なんて言い訳かもしれないけれど、

1度零れだした言葉は止められない。



「どうして・・・・・」

「え?」

「どうして薫ちゃんは、そんなに私を心配してくれるの?」

「どうして?」

「私がテニス部のマネージャーだから?」

「美姫?」

「それとも私が・・・・・・幼馴染だから?」



私の言葉に、薫ちゃんの目が大きく開かれていく・・・・。

その驚いたような顔に、私は今自分がなにを口にしたのか気付き、

「な、何言ってるんだろう・・・・。ごめんね?忘れて!」と、早口で言い残しその場を走り去った。



















薫ちゃんの顔さえ見れずに過ぎた部活。


いつものように突き刺さる視線に加え、薫ちゃんからの視線も交じり

居心地の悪さと息苦しさでその場を早く去ってしまいたく、急いで用具の片づけをしていた。


今薫ちゃんに話しかけられたらどうしていいのかわからない。


ボールの入った籠を両手に持ち、コートから出ようとした時、

片方の籠を後ろから奪われてしまった。

顔を上げるとそこには薫ちゃんの姿が・・・・・。



「1度に2つは無理だろう?」

「薫ちゃん・・・・・。」

「これで終わりか?」

「う、うん。」

「片づけが終わったら少し話がある。」

「あ、あの・・・・。」

「ほら、早く片付けるぞ!」



私を促すように歩き出した薫ちゃんのあとを慌てて追いかける。


そんな事されたらまた女子達に何を言われるかわからない。


大丈夫!私ひとりでできるから!

これはマネージャーの仕事だから!


そう言ってボールの籠を返してもらわないといけないのに、うまく言葉にならない。

それに「話がある」なんて・・・・・。あの事に決まっている。

何とかしなきゃ。とりあえず二人になるのだけは避けないと・・・・。



「か、薫ちゃん!」

「・・・・・なんだ?」

「片付けは私一人で―――」



そこまで言いかけた時、私の危惧していた事が起こってしまった。



「わざと持てもしない荷物抱えて手伝ってもらおうとするなんて!」

「ひ弱な女でも演じてるつもり?」

「海堂君練習後で疲れてるのにかわいそう!」



フェンスの向こうから聞こえた非難の声。

瞬時に身体が固まって、言いかけた言葉の次も出てこない。

薫ちゃんにもきっと聞こえてしまった。

早く、早くこの場を去らないと。

だけど手足が振るえ、動く事さえできない。


そして持っていた籠が手から滑り落ちてしまった。


コロコロと転がる黄色いボール。

「最悪」だの「最低」だのとののしる声に、慌ててボールを拾い集める。


ぐっと歯を食いしばりながら込み上げる涙を堪え、ただボールをかき集めた。


その時だ。


「うっせーんだよ!!」



突然コート中に響いた怒声に、辺りが一瞬にして静まり返った。

今にも零れそうだった涙も、その声で引っ込んでしまうほどの大声。



膝をついた状態で声の方を見てみれば、目を吊り上げ睨みをきかす薫ちゃんがいた。



「今美姫の事貶したヤツ前に出て来い!文句があんなら直接言いに来い!

集団で寄って集って一人をいじめて楽しいか!?

何の努力もせずにきたお前らに、美姫に文句を言う資格なんてねぇ!

覚えてろ。今度美姫を傷つけたり泣かしたりしたら俺が許さねぇ!!

美姫を傷つけるヤツは誰だろうと、全員俺の敵だ!」


目の前の人は誰?と疑いたくなるほどのセリフと滑舌なしゃべりの薫ちゃんに

周囲も、そして私自身も驚き固まってしまった。


今の本当に薫ちゃん?

それに今なんて言った?


それって・・・・・・それって・・・・・・?



いまだに膝をつきポカンと薫ちゃんを見上げていた私に向かって薫ちゃんが歩み寄ってきて、

私の腕を掴み、そのままどこかへ歩き出してしまった。


引っ張られた腕は痛かったし、早足過ぎて追いかけるのも大変だったけど、

さっきまでのように薫ちゃんと話したくないという気持ちはどこかに消えてしまっていた。









部室から少し離れた校舎の影で歩みを止めた薫ちゃんは

ゆっくりと私のほうへ振りむき、そのまま掴んでいた手を引き寄せた。


倒れるように薫ちゃんの胸に飛び込んだ私を、大きな腕がギュッと抱きとめる。


練習後の汗の匂いと、耳にかかる少し荒い息に、

今自分が薫ちゃんに抱きしめられているんだと気付いた。


シャツを通して伝わる薫ちゃんの体温と、抱きしめられた腕の強さが

心の中にある悲しみも、辛さも、恐怖も、全てを浄化していくようで、

恥ずかしいとかそんな気持ちよりも、もっと抱きしめて欲しいという想いの方が強く、

私も薫ちゃんの背中に腕を回した。



「こんなにボロボロになるまで我慢するな。」

「ごめん。」

「俺の前まで強がるな」

「ごめん・・・・・。」

「気付いてやれなくて悪かった。」

「そんなっ!」

「守ってやれなくて・・・・・・ごめん。」



傷ついたのは私一人じゃなかった。

私が一人で絶えていた為に、薫ちゃんまで傷つけてしまっていたなんて・・・・。


1つ1つの言葉に薫ちゃんの優しさや思いやり、そして悔しさと怒りを感じ

私は何度も「ごめんなさい」を繰り返した。



「お前が強い事は知ってる。だけど一人じゃ無理な時もあるだろ?そんな時は俺を頼れ。

俺は美姫の為ならいつだって、美姫が闘うための剣に、そして美姫を護るための盾になってやる。

だから一人で傷つくのはやめてくれ。もう一人で・・・・・・泣くな。」



我慢していた涙が零れた。


ただ慰めてくれるだけじゃなく、ただ守るだけじゃなく、

共に戦ってくれると言ってくれた薫ちゃんの想いが嬉しく、頼もしく感じて、

私はその胸にしがみつき、ひたすら泣き続けた。



「美姫の涙を見たのは久しぶりだな。」

「今そんな事言うなんて・・・薫ちゃんの意地悪・・・・。」

「別に意地悪で言ってるわけじゃねぇ!俺の前で素直になってくれて嬉しいって言ってるだけだ。 」
「え?」

「なんでも・・・ねぇ!フシュゥゥー」


小さくて聞こえにくかったけど、しっかり耳に届いた薫ちゃんの言葉に自然と顔に笑みが浮かぶ。


今なら・・・・・素直になれる気がする。

それに、さっきの言葉の意味も知りたい。



「薫ちゃん。」

「なんだ?」

「私・・・・・・・薫ちゃんの事、部活仲間とか幼馴染とかじゃなく、一人の男の子として・・・・・」

「ちょ、ちょっと待て!」

「え?」

「それは・・・・・・俺から・・・・・言う・・・・・から・・・・・。」

「うん。じゃぁ・・・・・聞かせて?」



抱き合っていた身体を離し、お互いの目を合わせる。

涙の後を撫でるように吹き抜けた風が、薫ちゃんの気持ちと言葉を私の耳に伝えてくれた。






俺が美姫を心配するのも俺を頼って欲しいと思うのも、マネージャーだからとか幼馴染だからじゃねぇ。

美姫だから。俺の好きなヤツだから・・・・・そう思うんだ。

美姫。好きだ。ずっと・・・・好きだった。お前だけをずっと、想ってきた。



美姫・・・・・・・お前が好きなんだ―――――
















*オマケ*

「海堂もやるなぁ!」

「そうだな。見直したよ。」

「また新しいデーターが取れたよ。」

「あの後どうなっちゃのかにゃ?」

「こら英二。そういう検索はするもんじゃないぞ。」

「む?不二。さっきから何を書いてるんだ?」

「ん?海堂にメッセージをね・・・・。」




その数分後。部室に戻ってきた私達は、薫ちゃんのロッカーに張られた1枚のメモを見つけた。




――――  ボール拾いしておいたよ。あと、諸々の後処理もね♪  ――――




後処理とはどういうものか、それは不二先輩以外誰も知らない・・・・・。


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美姫ちゃんからリクを貰って1ヶ月以上たったかも?

遅くなってごめんちゃい!!


途中のセリフで、「剣となり・・・・盾となり・・・・」って言うのは

メイちゃんの執事で理人っちが言うてたセリフですね。

それを薫ちゃんに言わせたら萌える!!って美姫ちゃんが言うてたんですが

そのセリフを使うシチュエーションがまったく浮かばなくて・・・・。

美姫ちゃんにシチュも考えて!と、お願いしたところ、今回のようないじめ話になりました。

いじめも色々ありますけど、暴力シーンは書けそうになかったんで、精神的いじめにしてみました。


薫ちゃんがありえないくらいによくしゃべってますけど、たまにはこういう薫ちゃんもアリでしょ!?ww

美姫ちゃん少しは疲れが癒されたかな?


リクどうもありがとう!!