仁王連載 ⑥ | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

このお話は連載モノです。

プロローグ出会い芽生え再会変化  からお読みください。



恋して 愛して ― 覚醒 ―



無意識にあいつを抱きしめ、無理やり奪った唇は、なぜか妙に熱かった。



頬を叩かれた痛みなんてものはもう覚えとらん。

それよりも、心臓がドキドキ音を立て、頭の中がクラクラし、

今までのキスじゃ感じた事もないほどの甘味と刺激が俺の体を熱くする。


怒りながら俺を睨みつける萌木をなぜか俺は直視できなくて

自分でも説明できんこの状況と感情から逃げ出すようにその場を後にした。




どんなに時間が経っても、一人でボーっとしとっても、思い出すのはあの唇の感触。

そしてそれを思い出すたびに体が燃えるように熱く、胸がドキドキと早鐘を鳴らす。



俺はどうしてしまったんじゃ・・・?



初めて会ったときからアイツには心乱されてばかりでいつもの俺じゃなくなってしまう。

興味を引かれ、面白そうだと思うのに、実際はそれを楽しむどころか俺が振り回されている始末。



このままウロウロしとっても仕方ないので教室に戻ろうかとも思ったが、

今アイツの顔を見たら自分がどうなってしまうのかわからない。


ふんっ。情けないのぅ・・。

そんな自分に思わず自嘲してしまう。


気分転換に屋上でも行くか・・・・と静かな校舎を抜け屋上までやってくれば、そこには先客がおった。


俺が少し前に相手にしとった女。

もう名前も忘れたが・・・・。

俺は基本的に1度遊んだ女は2度と相手にせん。

相手に不足もしとらんし、何より変な期待をもたれると面倒じゃ。


俺はそいつに目もくれず奥へと進み一人ベンチに腰掛けた。

背中に視線を感じるが振り向いてやるつもりはない。


柳生や丸井が「鬼」だの「人で無し」だのと言うが、

俺は自分から声をかけた事もなければ、別れようと言った事もない。

向こうが勝手に言い寄ってきて、勝手にキレたり傷ついたりしとるだけ。


そう・・・・。

俺が望んでした事なんて・・・・1度もない。


ならさっきのはなんだ・・・・?

なぜ俺はあいつにキスをした・・・・?


いつも強請られるからしてやるだけ。

して欲しそうじゃから叶えてやるだけ。

そうやって俺は今までやってきたのに・・・・・。


初めてキスしたのなんていつの事だったか・・・?

その時の感触や感情なんてもう覚えとらん。

それだけやなく、今までしてきたキスなんてどれも何も覚えてなどいない。


唇にそっと手を触れると、またさっきの感触と胸の高鳴りが蘇り

慌ててそれを打ち消すように頭を振った。


なんで・・・・?

なんで忘れられん?

なんでこんなにリアルに思い出せる?



俺は立ち上がりさっきの女のもとまで行くと、驚いて振り返ったそいつにキスをした。

萌木にしたように、俺から・・・・ただ触れるだけのキスを・・・・・。



女は驚きながらも顔を赤く染め、恥かしそうに俯いた。


だが俺は・・・・・・・・・・・・・・何も感じん。


さっきの胸のざわめきや高鳴りもなければ、体や顔が熱くなることもない。

それよりも、ベトリとしたリップグロスが唇に付き不快なだけ。



「あの・・・・仁王君?」

「二度と俺の名前を呼ぶんじゃなか。」



呼んで欲しいのはお前じゃない。

俺を見て欲しいのはお前じゃない。


じゃぁ・・・・・・・誰ならいい?

今頭に浮かんだ顔は・・・・・・・・誰だった・・・・?



泣き叫びながら立ち去っていく女の背中を見送ったあと、俺はまたさっきのベンチに戻った。



今まで面倒な事は考えんようにして生きてきた。

考えたところでなるようにしかならん。


そう思うのに、答えの見えん自分の気持ちにムカムカする。


なぜこんなに萌木の事ばかり考えてしまう?

そして思い出すびに感じるこの胸の痛みはなんだ・・・?


人の心を思いのままに操ることはあったとしても、この俺が支配されてしまうなんてあり得ん。


そう。ありえるはずがない。

さっき感じた全ては、きっと俺の勘違いに違いない。


それから俺は屋上を後にし、適当な女に声をかけキスを繰り返した。

さっき感じた感情をが間違いであると証明する為に・・・・・・・・・・。



だけどあの時と同じような感情と体の変化は出ない。

それどころか不快な感情が募るばかりだった・・・・。



次の日学校に行くと、俺がキスをしまくっとった事がもう噂になっとった。

丸井が「お前は何がしたいんだ?」と顔をしかめとったが、俺自身にもそんなのわからん。


あれは何かの間違いだったと自分自身を納得させるはずだったのに、

キスをする度に思い出すのは萌木の唇の感触。


それを打ち消すようにまたキスをして・・・そしてまた萌木を思い出す。

全てが俺を煩悩し、全てが俺を苛立たせる。


なんで俺がこんなに悩まされんといかん?

人に振り回されるなんてごめんじゃ。


そう思うのに・・・・・


教室に入って来た萌木を目にした途端、体温が上がり胸が高鳴った。

思いとは裏腹に反応する自分の身体に戸惑うばかりで、

俺はそれを覚られぬよう、目の前の席までやって来た萌木を睨みあげた。


なにを動揺しとる?俺らしくもない。
いつものように嘲笑う笑みをくれてやればいい。


だがそんな余裕も持てないほどに俺の心は乱れていて、

自分でコントロールできんこの感情を悟られんようにするだけで精一杯だった。




萌木が来てから1週間も経てば、アイツはすっかりクラスに溶け込んでいて

俺とのことも何もなかったかのように過ごしとる。

だが俺とは必要最低限の接触しかしてこず、後ろの席の俺を振り返ることはなかった。


それが俺を苛つかせる。


アイツが俺の方も見ない事にイライラする。

アイツの目に・・・・俺が映らん事にイライラする。

そして何より、アイツの事ばかり考えている自分自身にイライラする。

その苛つきをぶつけるように、俺は毎日違う女とキスを繰り返した。

なのにイライラは消えるどころか膨らむばかり・・・・・。



一体俺は何がしたい・・・・?

俺は何を求めているんじゃ・・・・・?

もう・・・・・・俺自身にもようわからん・・・・・・・・・





そんなある日の放課後。

教室でボーっとしとったら声をかけられた。


俺が荒れているという噂が流れてから、「遊びでもいい」と寄ってくる女が増えた。

コイツも相手にしてほしいんか?


やたらとキツイ香りを放っているのが気になったが、まぁええじゃろうと、ご希望通りにキスをくれてやれば

積極的に首に手を回しキスを強請り、なかなか俺から離れようとせん。


ウザイ。


いい加減離れろと身体を押し返そうとした時、廊下を走る足音が聞こえてきた。

そしてそのままその足音は教室の中へと入ってくる。


顔をずらし扉の方へ視線を向けるとそこにいたのは・・・・・



―――  萌木 雪  ―――



驚いたように立ち尽くし、こっちを凝視する萌木。


いつもは俺の方を見もしない萌木だが、驚きの顔を見せるアイツの目に、今映っているのは俺。


イライラしていた気持ちが不思議と溶けていき、もっと俺を見ろと心が声をあげる。



「なんじゃお前も混ざりたいんか・・・?」



その言葉に、一瞬にして顔を歪ませ俺を睨んできた。

さらにわざと煽るように喉でバカにしたような笑いをすれば、怒りに拳を震わせている。


そのままもっと俺を見ろ。

その目に俺を映せ・・・・。


だが萌木はさっとその怒りを沈めて俺から目を逸らし、

机に置いたままだった鞄を持ってそのまま教室を出ようとする。



「待ちんしゃい。」



咄嗟に呼び止めてしまった。


あまりにも俺への関心がない萌木が許せん。

俺をこんなにイラつかせておきながら、自分は関係ないとでも言う顔をしているのが許せん。



振り返った萌木は鋭い視線で俺達を睨みつけ、その顔は不快感でいっぱいとでもいうようで、

膝に抱いていた女は不安そうに俺を見上げていたが、

俺は萌木のその刺さるほどの視線が最高に嬉しいと思った。



「転入生活はだいぶ慣れた様じゃな。」

「おかげさまで。」

「ククッ。そんな睨みなさんな。こいつが怖がるじゃろ?」



別にこの女が怯えようと俺にはどうでもええ事じゃが、

萌木がもっと俺を見ればええと、見せ付けるように腕の中の女の額にキスを落とす。


だがそれを見とった萌木は、俺の予想とは違う人を馬鹿にしたような笑いを溢した。



「何がおかしい?」



今度こそは俺のペースに巻き込んでこれているはずだった。

なのにこの反応はなんじゃ?


予想外の反応に心が焦る。



「別に。楽しそうやと思っただけや。」

「羨ましいんか?なんじゃ?俺のキスが忘れられんかったか?」

「そやな・・・・。あんたのそのめでたい脳内が羨ましいわ。」



動揺させて優位に立とうと思ったが、逆に動揺させられたのは俺。


心が乱れだし、目元がピクリと動く。


落ち着け・・・。

萌木は威勢を張っとるだけじゃ。


膝の上の女を下ろし、萌木に向かって歩み寄れば、距離が近づくほどに睨みを利かし俺を威嚇する。
その目に吸い寄せられるように萌木の傍までやってくると、俺は萌木の顎を捕え顔を近づけた。



「勝気な女は嫌いじゃないが、ここは素直になりんしゃい。」

「私はいつでも素直やけど?あんたこそ素直になってみれば?」



俺こそ素直に・・・?

何を言うとる?



「どういう意味じゃ・・・・?」

「そんな風に誰とでもキスして楽しい?」

「楽しいのう。」

「あんた自分で気づいてへんの?目死んでんで?」



目が死んどるじゃと?

俺の事を見もせんかったお前に何がわかる!?

俺の存在など気にもしとらんかったくせに!!

なんで・・・・・



「お前には関係なか・・・・。」

「関係ないなら私に絡んでくんな!」



叫び声と共に顎に添えていた手が払い落とされた。


俺を拒否した手、俺を拒否した言葉に、怒りと悲しみの混じったような感情が噴出し

俺は振り払われた手を掴み上げ、壁に萌木を叩きつけた。


痛さで顔を歪ませながらも必死に俺を睨んでくる萌木の腕は

怒りのせいか俺への恐怖のせいか、俺の手の中で小さく震えている。


「先に絡んできたんはあんたやろ!?なんや私に恨みでもあんのか!?」



恨み・・・・?

そんなもん腐るほどある。


お前と会ってから本当に俺はおかしくなった。

俺が俺でなくなって・・・・・

自分で自分がわからない。


心を乱し、荒ませていくお前が・・・・・・・・・・・・憎い。



「お前を見とるとイライラする・・・・・。」



それなのに見ずにはおれん。

そして俺を、同じように見て欲しいと思う。



「あんた・・・・・私の事好きなん?」



静まり返った教室に響いた萌木の声。



なん・・・・・じゃと・・・・・?

俺が・・・・萌木を・・・・・好き・・・・・?



その瞬間俺の心臓がドクンと激しい音を立てて揺れた。

血が沸き立ち、顔に熱が集中する。



好き?


誰が?



好き・・・・・・?


誰を・・・・・・?



バラバラだったピースが崩れかけた俺の心を埋め、1つの答えを導き出す。



俺は・・・・・萌木が・・・・・

答えが見えた途端に目の前の萌木の顔をまともに見ることもできなくなり、

一気に熱くなった顔を手で隠し、そのまま教室を飛び出した。



今まで感じた事のない、言葉で説明できん想いも

他の女じゃ感じる事のなかった胸の高鳴りや動悸も

俺を拒否し、俺を見もせんアイツへのイラつきも

全ては俺がアイツを・・・・・・・・・・・・・好きだから。



こんな簡単なことやったんか。



俺は・・・・・・・・・・・・俺は萌木が好きなんじゃ。


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久々の更新です。

お待ちじゃないかもしれませんが、お待たせしました。←


仁王は救いようのないバカなようです。ww

遠回りしましたがなんとか恋心に気付きました~!オメデトウ!!

ここから仁王が動き出します。

頑張れ仁王!!相手は手強いぞ!!←