~ 守ってあげたい ~
夕陽に伸びた2つの影。
こうやって美姫先輩と帰るようになって、数ヶ月が過ぎた。
長い夏休みが終わった頃から美姫先輩は受験勉強の為、
俺の部活が終わるまで図書室で勉強をしている。
エスカレーター式の青学。
先輩もこのまま青学の高等部へ進学すると言っていた。
それならそんなに勉強しなくても・・・?と思わなくもないが
進学テストとか言うものがあるらしく、簡単に上へ上がれるわけでもないらしい。
こういう時、歳の差を思い知らされる。
1歳差。だけどこの歳の1年の差は大きい・・・。
「あまり、無理しないでください。」
そう言うと先輩は必ず、「うん。大丈夫!!」と、笑みを浮かべる。
だけど俺は知っている。
成績が伸び悩んでいる事を・・・。
そのせいで先輩が最近体調を崩している事を・・・。
でもそんな素振りはまったく見せず、俺の前では笑う。
俺はそんなに頼りにならないのか・・・?
俺は先輩を支えてやれる事も、守ってやる事も出来ないのか・・・・?
疲れた顔の先輩を横目で見ながら、繋いだ手に力を込めた。
先輩が倒れた。
そう聞いたのは昼休みの事だった。
慌てて保健室に駆けつけると、青白い顔の美姫先輩がベッドに横たわっていた。
付き添っていた先輩の友人に、
「最近頭痛が酷くて、寝不足だったらしい。」と聞かされた。
そんな事・・・・俺は知らない・・・。
長い睫が伏せられた目元に目をやると薄っすらと隈が出来ていた。
昨日も会っていたはずなのに・・・。
俺は気付きもしなかった・・・。
俺は先輩の何を見ていた?
悔しさと情けなさで、やりきれない思いが溢れてくる。
手を握り締めながら歯を食いしばっていると、伏せられた睫がピクピク動き
ゆっくりと瞼が持ち上がり、うつろな瞳が覗いた。
「美姫先輩!?」
「・・・かい・・どう・・・?」
俺の名を呼ばれた事で、ホッとしたのは一瞬・・・。
その声のあまりの弱々しさに苦い思いが胸に広がる。
「大丈夫ッスか?」
「うん・・・。私・・・・倒れたの?」
「みたいッスよ。」
「そっか・・・。心配掛けちゃったね。ごめんね?」
どうしてだ・・・・?
なんでそこで笑う?
なぜでそこで謝る?
そんな言葉が聞きたいんじゃねぇ。
そんな作った笑顔なんて・・・・いらねぇんだ!!
「俺はそんなに頼りないッスか?」
「え?」
「俺じゃ美姫先輩の支えにはならないんすか!?」
こんな事を言いたいんじゃない。
こんな風に先輩を責めたいわけじゃない・・・・。
だけど、ずっと胸に燻っていた不満と不安が一気に溢れ出し、
もうそれを止める事はできなかった。
「俺は先輩より1年下で・・・・・。勉強は俺が教わる事はあっても教えてやる事はできねぇし、
受験の辛さや大変さもわかってやれないかもしれない。
でも・・・・辛い時は支えてやりたいと思うし、そんな時だからこそ俺に甘えて欲しいと思う。」
「海堂・・・。」
「俺の前で無理する必要なんてねぇだろ?俺に作り笑いなんて見せる必要もねぇだろ!?
甘えろよ!!眠れないって言うなら、眠れるまでお前についててやる!!
体調が悪いなら俺が付きっ切りで看病だってしてやる!!
美姫が俺を頼ってくれるなら、俺はいつだってお前を包み込んでやるよ!」
静かな保健室に俺の声だけが響く。
目を丸くして驚いたような顔をした美姫先輩がじっと俺を見ていて
今更ながら自分の言った言葉が恥ずかしくなってきて視線を逸らした。
どれも本心で嘘偽りのない想いだが、何もこんな所で叫ぶ事もなかったのに・・・。
なんとなく居心地が悪くなって逃げるように「先生呼んで来ます。」と立ち上がると、
細い先輩の手が俺の学ランの裾を掴んだ。
「待って。行かないで。」
ゆっくりと体を起こした美姫先輩が、もう1度「行かないで。」と俺の腕に手を添える。
その瞬間俺は掻き抱くように美姫先輩を胸の中へ抱き締めた。
「海堂の事頼りにしてないわけじゃないよ。それどころかすごく頼りにしてる。
だけど、1度甘えちゃったら・・・この胸に寄りかかっちゃったら・・・・
もう1人で歩けなくなっちゃいそうで・・・。
それにね・・・こんな弱い私を見せて、海堂に嫌われたらどうしよって・・・・ずっと怖かった。」
まさかそんな事を思っていたのか・・・?
そんなわけない!そんな事で嫌うはずがない!!
「でも、そのせいで海堂を不安にさせちゃったんだね・・・。ごめんね?」
「そこで謝られたら俺・・・・よけいに惨めな気分になるんスけど・・・。」
俺一人怒って、結局何もわかってなかったのは俺の方で・・・・。
だけど、気付けなかった先輩の気持ちを聞くことが出来たし、
腕の中で、久し振りにふわりと柔らかい笑みを浮かべた美姫先輩を見て、
俺の心は優しい温もりに包まれていくようだった。
「これからは俺に甘えてくれていいッスから。」
「うん。」
「無理して笑う必要もないッスから。」
「うん。」
これからは俺が先輩を守ってみせる。
頼られるのを待つだけじゃなく、
何も言われなくても、わかってあげれるくらいに・・・。
「甘えたら、こうやってぎゅ~ってしてくれる?」
「二人の時なら・・・・。」
「たまには海堂から好きって言ってくれる?」
「ど、努力する・・・ッス・・・・。」
「さっき『美姫』って言ったの気付いてる?」
「えっ!?」
頼られる男にはなれたとしても・・・・・、
美姫先輩に勝てる日が来るのはまだまだ遠そうだ・・・・。
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激短いっ!!
えっと、5000HITの時のありがとう企画で書かせてもらった
『想いを伝えて・・・』 の二人です。
私が体調が悪いと知って仁王コスの写メを送ってきてくれた美姫ちゃん!!
すごく嬉しくて速攻保存しました!!
その御礼がなにかできれば・・・と、思って書かせてもらいました。
最近勉強も大変そうだし、体調も悪いようなので、
薫ちゃんに看病してもらっちゃえ!!って書き始めたんですが
終わってみれば・・・あれ?看病してもらってない!?みたいな?ww
こんなんでもちょっとは元気になるかな?
あまり根詰めすぎないでね!!
そして写メは本当にありがとう!!
すごくすごーく嬉しかったよ!!
優しい美姫ちゃんのような妹ができて私は本当に幸せです!!
ん~もう大好き~!!!!