-名前を呼んで-
「やぁ。にんそく君」
高等部へあがり数ヶ月。
高等部でもテニス部に入った俺達は
今まで以上に厳しい練習に励み、レギュラーの座を目指していた。
しかし・・・。
「氷帝の天才」なんて呼ばれとった俺も、
高等部で実力の差を見せ付けられ
何度挑んでも打ち破れぬ壁に焦りと苛立ちが沸き立つ。
そんな中、跡部のレギュラー入りが確定し、
やっぱり・・・と思う反面、嫉妬で心に渦巻くドロドロとした感情。
俺のプライドも何もかもが打ち砕かれてしまった・・・。
部活にでる気にもなれず屋上でぼーっとフェンスにもたれ
遠くに見える街を見下ろしていると
後ろから俺を呼ぶ声・・・・。
俺を「にんそく」なんて呼ぶやつはアイツ以外おらん。
「おしたりや!」と、何度言っても聞く耳も持たず
「いい名前だよね!」とか言い出す始末・・・。
アホみたいに騒ぎまくるうるさいコイツを
いつもなら軽く流して相手してやることもできるが
今はそれほどの余裕はない。
雰囲気察して去れや・・・・。
そう思っているのにしつこく「にんそく君」と繰り返し、
しまいに俺の肩を叩いてきよった。
「うっさいねん!!」
プス。
「ぎゃはは。ひっかかったぁ♪」
「忍足カッコ悪いC~!」
怒りを含んだ声でアイツを振りかえれば
頬にめり込む人差し指・・・・。
その瞬間デカイ笑い声が上がる。
「今時こんなのにひっかかるなんてにんそく君くらいなもんだね!」
「トモちゃん最高!」
「あれ?にんそく君腕がプルプル震えてるよ?寒いの?
ぐふふ。私が暖めてあげようか?」
「わぉ!トモちゃん大胆だC~。」
怒りで震えとる腕をつつきながら騒ぎまくるこいつらに
もう怒鳴る気力さえもなくなってきた。
とりあえずどっかにやってしまおう・・・。
「慈郎、跡部が探しとったで。」
「マジで!?あちゃぁ・・・また怒られるかな?」
「3日も休んどったらな・・・。」
「だって・・・樺地が迎えに来てくれないからさ・・・。」
「・・・・そりゃ・・・・無理やろ・・・・。」
昼寝したまま起きれず、気が付いたら部活終了時間を過ぎとった。
まぁそんな感じなんやろう。
中等部の時は樺地が担いで連れて来とったけど
今はそのお目付け役がおらん。
「う~ん。でもテニスしたいし行こう・・・。」
「早よ行き。今やったらまだ先輩来てへんのちゃうか?」
「忍足は?」
「・・・・俺は・・・・もうちょいしたら行くわ。」
「わかった!!んじゃね~!!」
立ち去る慈郎を見送り、再びフェンスに手をつき街を見下ろす。
やっと静かになった・・・。そう思ったのに
ふと気配を感じ隣を見れば、アイツが同じように
フェンスにもたれながら遠くを見ていた。
「お前何してんねん。」
「ん?その哀愁漂う背中に呼ばれた気がしてね・・・。」
「呼んでへんわ!さっさと消えろや!!」
「カルシウム不足ですか?にんそく君。」
「俺は「にんそく」ちゃうっちゅうねん。」
「そう言えばさ・・・」
「人の話し聞けや!!」
「跡部君レギュラーになったんだってね。」
「・・・・。」
コイツはいつもそうや。
あほな事ばかり言うてるかと思えば、
突然真面目に語ってみたり、土足で人の心ん中に入ってきたり・・・。
「前から思っとったけどお前なんやねん!?」
「なにって?」
「なんややたらと俺にかまうわ嫌がらせのように引っ付いてくるわ
人の名前はワザと間違うわ・・・。なにがしたいねん!?
俺にどうして欲しいねん!?そういう態度、ほんまにうっとうしいねん!」
自分でもわからんけどイライラとしたのもが込み上げてきて
言うつもりもない言葉が口から飛び出した。
いや・・・ずっと心にひっかかっていた事や。
俺を見る目は至って普通で別に男を意識しとるようには見えへんし
媚を売るわけでもなく、どっちか言うたら
女捨てたような態度で俺の周りをうろつく。
せやけどどこか俺にかまって欲しそうで・・・。
その真意のつかめない態度が時に俺の神経を苛つかせた。
「別に何も望んでないけど・・・。」
「ほんなら・・・」
「そんな顔したにんそく君を一人にしたくない・・・。」
ほぼ八つ当たりのようにぶつけた言葉。
それにまさかそんな返事が返ってくるとは思わず
俺の方が面食らってしまう。
だけど、その言葉はますます俺の怒りを誘う。
「そんなん言うならお前がその体で慰めてくれるんか?」
「・・・いいよ。そんなんで慰められるなら。」
「はっ!!とんだあばずれ女やってんな!!」
腰を引き寄せそれ以上しゃべらせないように口を塞ぐ。
特に抵抗も見せず俺の口付けを受け入れ
そっと瞳を閉じ体の力を抜き俺に体を預けてきた。
突き放すように乱暴に体をフェンスに押さえ込み、
ネクタイを解きシャツを引き裂けばボタンが弾け飛び
白い素肌が曝け出された。
それでもアイツは嫌がることもなく俺を受け入れる。
体は熱く本能的に雄が雌を求める・・・。
だけど心は凍りついたように冷たい・・・。
愛情も優しさもない行為になんでコイツは何も言わんねん?
慰められるどころかますますイライラが大きくなり
それをぶつける様にわざと痛みを与える。
苦痛に顔を歪ませ涙を流し「やめて」と言えばいい。
今ならまだ・・・・。まだ・・・戻れるはずや・・・。
そう思ったのに・・・・。
アイツは俺の背中へ手を回し包み込むように抱き締めながら
「おしたり・・くん・・・・・・・好き。」
そう言いながら微笑んだ。
「なんで・・・おしたりやねん・・・・。」
その笑顔と、初めて呼ばれた名前にドキリと胸が締め付けられる。
見た事のないような女の顔で、俺に微笑み俺の名を呼び
俺を・・・・好きやと言うた・・・・・。
瞬時に冷たかった心が一気に熱くなり、
急に心臓が早鐘のように鳴り響きだす。
俺はアホかもしれん・・・・。
こんな状況で気づくなんて・・・・。
なんでコイツに苛ついとったんか・・・。
なんでこいつの存在が俺の神経を刺激していたのか・・・。
体を離し鞄からジャージの上着を出してアイツに羽織らせた。
急に止められた行為に不思議そうな顔をしながらも
俺のジャージを大切そうに抱きしめる姿を見て
ますます確信する想い・・・・。
俺はコイツが好きなんや・・・・・。
いつも俺の傍でチョロチョロするくせに
何度言うても俺の名をちゃんと呼ばんし、
俺を男として見ていないような態度に俺は苛ついとったんや。
ガキみたいな感情やけど、思い通りにならん状況を
全てコイツのせいにしてイライラしとった。
せやけど今、俺への想いを・・・
好きやって言葉を聞いた途端、心が解き放たれたように清々しく
嬉しい・・・・と、そう思う俺がいた・・・。
こんな簡単なことやったのに気付かんかったなんて・・・。
そして気付いてしまえば今までが嘘のように想いが溢れ出し、
抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
しかし、さっきの俺の行動を思い出し不安に襲われた。
よう考えたら俺めっちゃ格好悪い姿を見せたうえに、
かなり最低な事してるんちゃう!?これ!?
そう思い、うずくまったままのアイツを見下ろせば
そんなこと気にする様子もなく俺の事を見てる。
その瞳に恐怖や嫌悪の色は見られない・・・。
その姿にホッと胸をなでおろし、
謝るべきかと思ったが、俺の口から出た言葉は
「俺に相手して欲しかったらもっと女磨くんやな。」
と、なんとも傲慢な言葉。
どこまでも素直じゃない・・・・。
だけどその声はどこか優しさを帯びていて、
自分でも笑ってしまいそうになる。
俺も単純やな・・・。
アイツもそんな俺の言葉にクスクスと笑いながら
「そんな偉そうな事はレギュラー取ってから言ってください。」
などと返してきよった。
「ほな勝負しよか?お前が俺を落とすのが先か・・・」
「にんそく君がレギュラーを取るのが先か・・・?」
「にんそくはもうええっちゅうねん。」
腕を引き寄せ胸に抱きながらそっと耳に囁きかける。
「ほら、さっきみたいに「おしたり」って言うてや。伊東・・・。」
顔を赤くして恥ずかしがる顔を見て
俺の中に広がる満ち足りた気持ち。
この勝負、もうお前の勝ちやけど、
そう簡単に負けを認める訳にもいかんやろ?
俺がレギュラーとるまでに、もっと俺の事好きになって・・・
俺以外の事なんて何も考えられんようになって・・・
俺が迎えに行くまで待っとって・・・。
レギュラーとれたら速攻で、お前を奪いにいくから・・・。
そんでその時は、今みたいに赤い顔で、潤んだ瞳で俺を見て、
「おしたり」やのうて「侑士」って呼んで・・・・。
そしたら俺も「トモ」って呼んだるから・・・・。
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大変お待たせしました!
やっとこさ第1弾出来上がりましたよ!!
もっちさんリク、侑士ドリーム!!
リク内容ですが、高校生設定で、
関係は友人というかキャーキャーうるさいファン?
傾向はチョイエロで、切ない系。
侑士がスランプで悩んでて・・・。
なんとも思ってなかったのにこっちのプッシュで落ちる。
言ってほしい台詞は、「うっとーしい」
と、まぁこんな感じでした(笑)
リク内容読んでこりゃ1番最後だな。って思ったんですが
意外にも真っ先に頭の中でストーリーが出来上がってしまいました。
私は変態侑士も好きですが、こんな感じで青臭い侑士が好きです。
ちょっと偉そうで上から目線な物言いは
M属性のもっちさん仕様です。(笑)
アメンバー記事じゃないので、
できるだけ短くまとめようと思ったんですが
どうにもうまくいきませんね・・・。
長ったらしい話ですみません・・・。
おっと、あとがきまで長ったらしくなってきたのでこの辺で・・・・。
もっちさん気に入っていただけると嬉しいです。
そして最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。
次は誰にしようかな・・・?