わが国では1975年には当時の厚生省によってクローン病の調査研究班が発足し この病気の診断・治療方法の研究が継続的に進められています クローン病の患者数は 26,799人(2006年度特定疾患登録件数)と報告されており 患者数は増加していますが 欧米に比べると10分の1から5分の1の頻度なのです 10歳代~20歳代の若い人に発病することが多い病気です
舞ちゃんも15歳でクローン病を発症しました 私も何度か舞ちゃんにお会いしたことがあります 明るく元気な 気の優しい女の子でした
舞ちゃんは 腹痛 下痢 血便などの症状があり よくなったり(緩解)悪くなったり(再燃・再発)を繰り返しました 病変は口から肛門までの消化管のあらゆる部位に発生する可能性あり 小腸と大腸のつなぎ目あたりに炎症がおきることが最も多く 病変が小腸だけの方 大腸だけの方 小腸と大腸の両方にある方とさまざまです
基本的には良性の病気ですが 薬物療法や食事療法のなどの内科的治療で完全に炎症を抑えることは困難で 再燃を繰り返し慢性の経過をとり 長い経過の間で手術をしなければならない患者さんも多くみられます
まず症状とその経過や過去の病歴などの質問に答える問診から始まります 便潜血検査や炎症反応 栄養状態を評価するための血液検査などが行われ さらに消化管の病変を調べるために小腸や大腸のX線検査(注腸X線検査) 大腸内視鏡検査といった画像検査が行われ これらの検査結果から総合的に診断されます また 必要に応じて小腸の内視鏡検査や腹部・骨盤部のCTやMRI検査が行われることもあります
基本は あくまでも腸管におこっている炎症を抑えて 症状の軽減をはかり かつ栄養状態を改善することです そのためには 栄養療法と薬物療法を組み合わせたコンビネーション療法が中心となります 栄養療法は栄養状態の改善だけでなく 腸管の安静と食事中からの炎症の原因となる成分を取り除くことで 腹痛や下痢などの症状の改善と消化管病変の改善が期待されます 病気の活動性や症状が落ち着いていれば 通常の食事が可能ですが 食事による病態の悪化を避けることが最も重要なことです
著しい狭窄(腸が狭くなること)や瘻孔(腸と腸やほかの臓器と交通ができてしまうこと)などが経過中に生じて 内科的治療で病気をコントロールできない場合には手術が必要となります
舞ちゃんは 3回に及ぶ手術の末 人工肛門となっていました 多感な時期に人工肛門になる女性の気持ちが 私には理解し切れていなかったと思います 舞ちゃんは苦しんでいました 自分は結婚できない 彼氏もできない 子供も産めない と
拓也さんのお姉さん夫婦 つまり舞ちゃんのご両親は 身内に内密で 舞ちゃんを日本安楽死協会に申請してしまったのです そして それは厳密な審査によって受理されました 身内は猛反対を見せましがお姉さん夫婦の意志はとても固かったのです 舞ちゃんは安楽死が認められ 今日が告別式です
昨年 日本でも安楽死が認められるようになり「安楽死ビジネス」は すさまじい勢いで発展しました 最初は誰もが 安楽死なんてね、、、と噂したものの 思いのほか安楽死ビジネスは流行し 私は日本人って こんなに死にたい人が多いのねって驚きました しかし不思議なことに「自殺者」の数は減らなかったのです
夕方 私と拓也さんは喪服に着替え 呼んだタクシーの到着を待っていました 舞ちゃんの告別式へ向かうのです 夕日が真っ赤でした 燃えていました 拓也さんが言いました「夕日は いつも こんなに赤いのか?」「ええ そうですよ もちろん」と私が答えると 「雨の日もか?」と拓也さんが聞くので答えに詰まり 「おそらく」と言うと 拓也さんは凄い剣幕で言いました「見たのかよ!」 私は黙っていました 「見てねえなら 分からねえだろ?」と拓也さんは怒鳴りその場に座り込んで肩を震わせていました 泣いているのだなと思い 黙っていました
タクシーが到着し 乗り込むと空は真っ赤なザクロのような色に染まり 私と拓也さんの頬を紅く照らしました 私はぎゅうっと拓也さんの手を握ると気づきました 私が拓也さんに手を握ってもらっているのだと 私は息を殺して泣きました 拓也さんの優しさに包まれて 窓の外は淡い夏の夕暮れでした