翌日。


 空はどこまでも広く、海は透き通ったターコイズブルーだった。絶好の海日和。やったー!


 私とハナは服のまま早速ザブーン。波照間では、だいたいみんな服のまま海に入る。暑い日は海に限る。


 「気持ちいいー!」


 二人は声を合わせて笑った。


 ふと、浜辺に目をやると小鳥ちゃんが、全身日焼けしないようにか、長袖のパーカーにジーパン、大きなツバの麦わら帽子という、波照間の海に似合わない格好で、木陰からぼんやり海を見つめていた。このクソ暑いのに。


 「小鳥ちゃんもおいでよ!」

 

 私が大きな声で呼ぶと、


 「私、日焼けがダメなんです。ごめんなさい」


 いちいち、イライラさせてくれる。私は何も言わずに海の深くまで潜った。どうして私は怒っているのかな? なんか小鳥ちゃんのことが頭から離れない。気になってしょうがないのだ。



 夕方。シャワーを浴びて、食堂で食事を済ませた。なんとなく憂鬱だった。


 「かなえ、明日は満月だからね。それと、小鳥ちゃんのこと、消えて欲しいなんて思っちゃダメ」


 と食堂でハナに声をかけられ、え? って驚いて何も答えられず、黙って食堂を後にした。部屋に戻るとそのままベットにうつ伏せになった。波照間まで来て、何で憂鬱になんなきゃいけないのよ。私がいつ、小鳥ちゃんが消えて欲しいなんて言った? むしろ気にかけているわよ! なんだか泣きたくなった。


 眠れないな。


 部屋を出て中庭に出た。すると小鳥ちゃんも眠れないらしく中庭に座って空を見上げていた。満天の星空。まあた、小鳥ちゃんかあ。。。と思いつつ、仕方なく隣に座ることにした。


 「隣、いい?」


 「あ、かなえさん! もちろん、座ってください」


 「眠れない?」


 「はい。。。明日、満月ですね。そのことを考えると眠れません」


 「本当に埋まるつもり?」


 「。。。はい」


 「どうして?」


 「自分でもよく分かりません。でも、一晩、土に埋まったら何か変わるかなって思ったんです。私、拒食症と言いましたが、元々はダイエットでした。でも、痩せても、痩せても満足ができませんでした。いつしか食べ物を吐いてしまうようになり、両親に精神科に連れて行かれて拒食症と診断されました」


 「ふーん。若いのに色々大変ねえ。じゃあ、明日、埋まろうか」


 私は仕方なく、埋まることにした。なんとなく、そうすべきだと感じたのだ。


 「すいません、私なんかのために。本当は、私なんか消えちゃえばいいって思っていらっしゃるんでしょう?」


 ゾッとした。ハナにしろ小鳥ちゃんにしろ、どうして同じことを言うの? 私はできるだけ笑顔で答えた。


 「そんなわけないじゃん。おやすみ」


 私は足早に部屋に戻った。ストンと眠りに落ちた。夢もみなかった。

 



 ハナと照彦さんに連れられて、私たちは大きな満月の明かりを頼りに森の中を歩いていた。


 「ねえ、ハナー、本当にやるの?」


 私は小声で聞いた。やっぱり納得がいかなかったのだ。


 「ここまで来て何言ってんの。あんたたち二人はセットなの。一晩、土に埋まってみなさい。きっと分かるさ」


 「セット?? 分かるってなにが??」


 「あんたは理屈っぽいね。頭で考えるより行動だよ」


 私は解せなかったがそれ以上なにも言わなかった。きっとハナのことだ、考えがあるんだろう。そして小鳥ちゃんと私が埋まる穴を、ハナと照彦さんは大きなシャベルで掘り始めた。


 続く。。。