お尻をガッコンガッコンと打たれながら、必死に取っ手にしがみつき、波照間島行きの船に揺られていた。潮風が懐かしい。今回で三回目。私はスキューバダイビングをしに波照間島へ時々行くのだ。もちろん季節は夏。太陽はカッと私の小麦色の肌を照らした。


 私は人生が、何か息詰まると波照間に来る。前回はなんで来たんだっけ? と思っていたところ声をかけられた。


 「あ、あのココ座っていいですか?」


 見上げると、ぎょっとした。異常に細くて、顔の半分は目、肌は雪のように白い同い年くらいの女の子だった。なにしろ細い小鳥みたいだと思った。フラミンゴ、、、?


 「どうぞ、どうぞ」

 

私は荷物をどかしながら言うと小鳥ちゃんは、


 「すいません」


 と言って申し訳なさそうに隣に座った。


 「波照間に行くの?」


 当たり前だ、この船は波照間行きなのだ。


 「はい、沖縄までは両親と一緒だったんですけど」


 「へー、どうして独りで?」


 間を持たせるために私は話しているだけだった。よくあることだ。波照間とかに女独りで行くにはだいたい訳がある。


 「沖縄で両親に連れられてユタのところに行きました。私、拒食症なんです。それでユタに、この子には独りで旅をさせろ、って言われて、沖縄から波照間に独りで来ました。本当は怖くて行きたくなかったのだけれど、、、」


 そのとき船が大きく揺れた。ガッコン。一瞬、お尻が浮く。

 


 「大丈夫ですか?」


 と聞かれ大丈夫に決まってるじゃんと思いつつ、

 


 「大丈夫よ、慣れてるから。ありがとう。あなたこそ大丈夫?」


 聞けば二十一歳だという。私は二十四。きっと私に声をかけようか迷っていたんだろうんなって思った。で、年の近そうな私に思い切って声をかけたんだろ

う。



 「あ、はい。すいません」


 なんで謝るのよ。さっきから、「すいません」ばっかり。いるんだよね、こういう子。私はイライラしてくきた。でも間もなく波照間だ。


 「私は、かなえ。よろしくね。旅館どこ?」


 えー! なんと同じ旅館ではないか。なんだかこれも何かの縁だなあと思い、


 「島、案内するよ」


 なんて言ってる内に、船は港に着いた。


 「かなえ! こっちこっち」


 「ハナ! 久しぶり。元気だった?」


  ハナは、島で生まれ、島で育った子だ。真っ白い歯に小麦色の肌。ブロッコリーのような短い髪の毛はハナらしかった。白いホットパンツに真っ赤なタンクトップという出で立ちは島の子ってすぐにわかる。存在自体が極彩色のハイビスカスって感じだ。ハナとは四年前に知り合った。ハナは食堂を旦那の照彦さんと経営している。そこに隣接する旅館に泊まる。まずは、そこで食事をふるまってもらうのだ。


 「この子、船で友達になったの。小鳥ちゃん」


 「は、はじめまして」


 「ずいぶん細いのねえ、私はハナ。こっちは旦那の照彦。よろしくね」


 やっぱり小鳥ちゃんの細さは目につくらしい。


 「じゃあ行こうか、まずは腹ごしらえ」


 ハナが言うと、小鳥ちゃんが聞く。


 「私もいいんですか?」


 「何言ってんのよ、当たり前じゃない」


 私がスキューバの荷物を照彦さんの車のトランクに積みながら言う

と、


 「すいません、ありがとうございます」


 と、また謝った。イライラする。なんかこの感じを私は知っていた。なんでかなあ。。。本当は早く小鳥ちゃんと離れたかった


 車はデコボコ道をどんどん飛ばす。


 「あのー、車、大丈夫でしょうか?」


 小鳥ちゃんは車の心配をした。


 「平気平気、すぐだから」


 小鳥ちゃんは心配症なのである。いや、ぶってるのかな? 私にはそう見える。何かと大丈夫ですか? すいません、と謙虚なのだが鼻につくのだ。そのときだった。私はフラッシュバックした。


 二年前、波照間に来た。あの時は、会社でうまくやれなくなって、会社を辞めようか悩んで、波照間に来たんだった。上司に新人を育てるよう言われて一生懸命、育成した。その子がヘマをすれば、私の責任であり私が何度お客様に頭を下げたことか。私は、いつもイライラしていた。ついに堪忍袋の尾が切れて、一日だけ無視をしてしまった。
 その翌日、その子は病気を理由に辞めた。すると今度は私がイジメたのだと周囲のスタッフから責められ会社に居づらくなった。で、結局は波照間から帰って、会社を辞めた。

 そういえば、あの子と小鳥ちゃんは似ているのだ。そっくりだ。私がイライラするポイントが同じだと気づいた。


 「かなえ、森の奥に穴を掘って一晩、土に埋まると心がすっきりするよ。私、時々、行くんだ。満月の夜がいい。目から月の光をいっぱい浴びるんだ。やってみない?」


 「えっ?? やだよ! 怖いよ。そんなのハナだから出来るんだよ」


 「私、ちょっと埋まってみたいかも。。。」


 小鳥ちゃんが小さな声で言った。


 はあ?? あんたなんかに絶対無理だよ!


 「じゃあ、二人で埋まればいい。神のお告げだ。よし決まり決行は明後日の満月の夜!」


 「かなえさん、ありがとう。私のために」


 何言っちゃってるの?? 私、埋まらないよ?? ハナは、なんだか嬉しそうだった。ハナは島のシャーマンの弟子だ。よくこういうよく分からないことを突然に言い出す。


 「かなえ、抵抗は無駄よ」


 とハナはニカッと白い歯を見せて笑った。そして小鳥ちゃんにウィンクをした。困ったことになった!


 続く。。