■第10章 突如として変わった風向き

 

(4)宣伝と販売網構築に向けた模索

 

 宣伝活動の一環として、財団および人造米生団協は新聞に広告を出すようになった。

 

人造米を食べませう 安い、栄養ある、人造米は 正しい合格証の品を… 

農林物資規格法に依り検査を致しております。         

財団法人人造米協会

 

人造米で明るい家庭 安くて、おいしい お買求は最寄りの配給所・デパートへ 

財団法人人造米協会 全国人造米生産団体協議会

 

 新聞広告はささやかなものではあったが、少しでも多くの消費者へ正規品の人造米を普及させるべく、業界を挙げて取り組んでいる姿勢を示すことはできた。こうした宣伝活動と同時に、販売網構築に向けても動きを活発化させた。

 

 人造米生団協は、食糧庁とともに、人造米を米穀販売業者のルートに乗せるための検討を進めた。そして昭和二十九年二月十六日、東京の澱粉会館に米穀販売業者の代表者らを招き、協議を行った。

 この日は、販売者側から全国食糧事業協同組合連合会(全糧連)、全米商連協同組合(全米商連)の各代表者が出席。これに全国販売農業協同組合連合会(全販連)を加えた三系統を通じて人造米を販売することについて議論した。また、各系統を通じて販売した場合に、末端小売価格と小売マージンをどの程度にするかについても話し合われた。しかし、この日の協議で結論は出なかった。

 

 三月一日、人造米生団協と販売業者側三団体との間で再び協議が行われた。だが、この日もまた合意には至らなかった。人造米の生産者側は、早期に団体協約を締結し、在庫となっている製品を小売店へ卸すことを要望した。これに対して販売者側は、小売店に卸す前に、人造米の宣伝普及活動を十分に実施し、製品が確実に売れる状況ができてからでなければ取り引きはできないと主張したのだ。生産者側は一日も早く販売ルートに乗せることを求め、販売者側は売れる保証がなければ販売ルートに乗せたくない意向を示す。両者の主張は平行線を辿った。

 また、生産者側が宣伝費用の分担や検査問題などについて態度を明らかにしていなかった点も、販売者側の不信を招いていた。そこで、まずは生産者側が自らの方針を明確に示すべく、次の三点の実施を決めた。

 

一、工場在庫量の把握=三月十日までに、各工場の手持ち製品を検査。合格品、不合格品及び要検査品などの区別をして報告。〔財団法人〕人造米協会で取りまとめる。

二、不合格品については絶対に市販に回さず、再生原料とする。

三、人造米普及宣伝の内容およびその費用負担を更に検討する。

 

 生産者側がこれらの履行を確約することで両者の協議が続けられ、四月に入ってようやく団体協約案をまとめるに至った。そのおもな内容は次の通りである。

 

 販売業者への受け渡しは基本的に二十五キロ入り大袋とし、卸売価格を一キロあたり六十三円、小売販売価格を七十三円とする。また、小袋詰の場合は一キロごとに包装費二円を加算する。全糧連は協約実施後直ちに六大都市周辺の小売店一万軒に二十五キロ入りを最低一袋ずつ配布し、普及販売を実施する。その宣伝費百万円は、合成米協組、栄養人造米協組、日清製粉の三者が負担する。

 

 この協約案について、生産者側の各団体はそれぞれ総会を開催し、承認するに至った。

 一方の販売者側は、まず全糧連が五月十七日に役員会を開いて審議を行った。ところが、生産者側の意向に反し、ここでは人造米に対して否定的な意見が噴出する。結局、協約案は否決され、翌十八日の総会で議論されることなく白紙に戻されてしまった。

 全糧連で協約案が承認されなかったことにより、全米商連、全販連との交渉も結局合意に達することができず、団体協約案はご破算となってしまった。これを捲土重来の好機と位置付けていた人造米業界にとっては、計り知れない打撃となった。