「ゆきてかへらぬ」
を観てきました。
ストーリーは、
大正時代の京都。20歳の新進女優・長谷川泰子は、17歳の学生・中原中也と出会う。互いにひかれあい、一緒に暮らしはじめる。やがて東京に引越した2人の家を、小林秀雄が訪れる。やがて小林も泰子の魅力と女優としての才能に気づき、後戻りできない複雑で歪な三角関係が始まる。
というお話です。
京都。まだ芽の出ない女優、長谷川泰子は、まだ学生だった中原中也と出逢った。20歳の泰子と17歳の中也。どこか虚勢を張るふたりは、互いに惹かれ、一緒に暮らしはじめる。価値観は違う。けれども、相手を尊重できる気っ風のよさが共通していた。
やがて東京へ泰子と中也が引っ越した家を、小林秀雄がふいに訪れる。中也の詩人としての才能を誰よりも知る男。そして、中也も批評の達人である小林に一目置かれることを誇りに思っていた。男たちの仲睦まじい様子を目の当たりにして、泰子は複雑な気持ちになる。才気あふれるクリエイターたちにどこか置いてけぼりにされたようなさみしさ。
しかし、泰子と出逢ってしまった小林もまた彼女の魅力に気づく。本物を求める評論家は新進女優にも本物を見出した。そうして、複雑でシンプルな関係がはじまる。重ならないベクトル、刹那のすれ違い。ひとりの女が、ふたりの男に愛されること。それはアーティストたちの青春でもあった。 後は、映画を観てくださいね。
この映画、雰囲気が良く綺麗な映画でした。大正時代の和洋混ざった日本の曖昧な雰囲気が良いんですよね。この時代は日本文学が元気で良い作品がたくさん書かれましたよね。中原中也や太宰治、谷崎潤一郎、与謝野晶子、志賀直哉、芥川龍之介などなど、”文豪ストレイドッグス”のような凄い時代でした。そんな作家たちを批評していたのが小林秀雄で、この映画の3人の一人です。
長谷川泰子は広島から上京し、京都でマキノ映画製作所で大部屋女優として始まり、その頃に中原に出会ったようでした。この頃、泰子は20歳、中也は17歳だったそうです。今でいう女子大生と男子高校生が付き合っている感じかしら。そしてすぐに同棲し始めます。泰子はマキノ映画製作所からお給料を貰っていましたが喧嘩してクビになり、中也の仕送りで2人暮らしていたようです。中也の実家はお金持ちだったんですね。
そして東京へ引っ越して、そこでも中也の世話になっていたんじゃないかな。泰子は女優の仕事は始めていたけど、まだ認められているとは言えなかったようなので生活は苦しかったはずですが、映画では酷くは描かれていませんでした。そんな生活の場に小林秀雄が訪ねてきます。中也は何度学校へ行っても途中で辞めてしまうような人でしたが、小林は東京帝大の学生でしたから、泰子は中也とは違う雰囲気に惹かれたのかもしれませんね。
そして泰子は中也と別れて小林と同棲を始めるという、結構、大胆な行動をする人でした。普通ならここで愛憎劇的なことがありそうですが、この3人は何故かそれからも一緒に行動をすることが多く、見た目は仲良さそうにしていましたが、段々と泰子の精神状態が悪くなっていきます。平気で男を取り換える女性ですが、心の中では罪悪感があったのかなと思います。
この3人の関係は微妙でした。中也は泰子のことを大切に思っていたと思いますが、それは恋愛という枠から外れていたのかもしれません。平気で風俗に行ってくると言ったり、見合いをすると言ったり、それは気を引くためというよりも、仲間に報告をしているような感じだったんじゃないかな。最初は恋愛だったけど、途中から同志になっていたような気がします。
泰子の方も中也を愛してはいたけど、段々と恋人としてではなくて家族のような感覚になって行ったのかもしれません。3歳年下ということで、ちょっと弟のような感じがあったんじゃないかな。だから別れた後でも仲良く出来たし、結婚しても嫉妬という気持ちがあまり無かったのかもしれませんん。
小林は中也を認めており、その作品を愛していたと思うし、中也自身も好きだったのだと思います。泰子を中也から取っても、その気持ちは変わらずに中也を尊敬し続けたのだと思います。この小林秀雄は凄い人ですもんね。日本の文学界を立ち上げたと言ってもよいような方で、この時代を描く映画にはほとんど出てくるんじゃないかな。妹は作家だし、娘が白洲次郎と結婚したし、他にもこんな人が繋がっているんだという驚くような系図でした。
凄い才能って惹かれ合うんですかね。文学者たちの関係をみると、凄い人たちが集まっていて驚くばかりです。同人誌などで集まったりしたんだろうけど、それにしても凄いなぁと思ってしまいます。中也と小林が一人の女性を取り合うなんて、泰子はどれほどに魅力的だったんでしょうね。
泰子は今まで中也と小林を振った悪女のような描かれ方をしてきたようですが、この映画ではとてもチャーミングで寂しい女性のように描かれていました。こんなに美しくて、時には可愛く時には寂しそうに見える女性だったのなら、誰もが惹かれるだろうなと思いました。
広瀬すずさんが演じていたので、特に魅力的に見えたのかもしれません。大正レトロな服装で憂いを秘めた目で見つめられたら、女だって惹かれてしまいます。子供の頃のトラウマに囚われていていつも愛を求めていたような女性でした。でも求める方が大きくて、自分からの愛を与える人では無かったような気がします。求めるだけではバランスが悪いですよね。だから精神的にも壊れやすかったのだと思います。
泰子の広瀬さん、中也の木戸さん、小林の岡田さん、3人のバランスが素晴らしかったです。観ていて本当に美しいんです。文学作品を描くときはやっぱり美しく描いて欲しいですよね。でないと、その人の文章が美しく感じなくなってしまいます。天才文学者に敬意を持って描いて欲しい。この映画はちゃんとそうなっていました。
中原中也はファンが多いから気をつけて描かないとね。汚く描いたら許さへんで~!って言われそうですもん。この時代の映画って本当に綺麗で好きです。西洋文化が入ってきて随分と日本に根付いたころで、その融合が美しいんです。建物一つとっても木造日本家屋なのに窓が西洋風だったりして、そういう部分がとても良い。だけどあまりこの時代を舞台にした作品が表に出てこないのが寂しいです。
鬼滅の刃が人気になって大正時代が浸透してきたけど、もっと色々な描き方が出来ると思うんですよね。刀がまだ身近な時代に汽車が走っているなんて、こんな面白い時代他にないでしょ。こんな面白い時代を持っている日本って凄いと思います。これから色々な作品に出てきて欲しいです。
映画の話に戻って、この映画、本当に美しかった。私はこういう綺麗な映画が好きです。言葉遣いも美しくて私は気に入りました。罵倒していても、なんか綺麗なんですよね。時々、冷たく聞こえるこの時代の言葉だけど、澄んだ水のような感じがするので嫌じゃないんです。
私はこの映画、超!お薦めしたいと思います。但し、あまり文学やこの時代に興味が無い方にはダメかもしれません。中也や小林という人物がどれほど日本文学界に大きな人なのかという事を知っていないと、唯の恋愛映画に見えてしまいます。この頃にあの詩が出来たんだなとか思い出せないと、ちょっと難しいかも。でも、少しでも文学に興味がある方は、ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「ゆきてかへらぬ」