「窓辺にて」
を観てきました。
ストーリーは、
フリーライターの市川茂巳は、編集者である妻・紗衣が担当している若手作家と浮気していることに気づいていたが、それを妻に言い出すことができない以上に、浮気を知った時に自身の中に芽生えたある感情について悩んでいた。ある日、文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜に出会った市川は、彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、その小説にモデルがいるのなら会わせてほしいと話す。
というお話です。
小説を一冊出したきり、フリーライターをしている市川茂巳は、編集者である妻・紗衣が、担当している売れっ子作家の荒川円と不倫をしている事に気付いているのに何の感情も沸かないことにショックを受けていた。一方、友人のプロスポーツ選手の有坂正嗣は妻・ゆきのと娘がいながらも人気モデルの藤沢なつと不倫をしている。
友人にも誰にも相談できず悩んでいた市川は、ある日、文学賞の取材で出会った高校生作家・久保留亜の受賞作「ラ・フランス」の内容に深く惹かれる。小説の主人公が手に入れたものをすぐに手放すさまが引っかかる市川は、この小説にモデルがいることを聞き、逢わせて欲しいと軽く留亜に話してしまう。
後日、突然に留亜から連絡があり、モデルの一人である恋人の優二を紹介する。金髪でバイクにのった優二は、市川を下心があるオジサンと決めつけ、敵意を漲らせてくる。そんな優二にやんわりと変な目的は無い事を告げ、彼と打ち解ける。
次に、留亜が引き合わせて来たのは、伯父のカワナベだった。彼はテレビ局員として忙しい毎日を送っていたが、何かが間違っていると感じ、テレビ局を辞め、携帯の無い世界で生きる事を決めたという。森の中で世捨て人のように暮らすカワナベに、市川は自分の悩みを打ち明ける。すると彼は、僕に聞くのは間違っていると言い、”捨てることは、何かを得ること。”と市川に話す。
留亜やカワナベとの出会いをきっかけに、自分に正直に生きようと思った市川は、紗衣と向き合うことに。そして、その時は、それから間もなく訪れた。後は、映画を観てくださいね。
初日、映画館は平日にも関わらず、混んでいました。とっても良い映画で、今泉監督の空気感と主人公の稲垣さんの空気感が、ピッタリと合わさって、何とも言えない素晴らしい世界を作っていました。この恋愛観は、万人には分からないかもしれないけど、私には、とても近い気がしました。近いというか、私は市川と似ているかな。
市川は、妻の浮気を知っても、自分に何の感情も沸いてこないと言っているんだけど、もし、妻を愛していなくて既に興味が無ければ、浮気をしていようが何していようが、気にならないんですよ。悩むことなんて何も無いんです。でも、市川は悩んでいる。という事は、妻を愛しているという事ですよね。ここら辺が難しいところなんだけど、気になるんだけど、怒りが湧いてこないという事でしょ。
私、自分が思うんだけど、長く夫婦でいると、浮気を知ったとしても、もし、相手が幸せそうで笑うようになっているなら、自分が満たしてあげられない部分を誰かが埋めてくれているんだなって思っちゃうんですよ。もう、恋愛じゃなくて、家族になっているから、相手が幸せなら自分も幸せと思ってしまうんじゃないかな。一緒にいて、相手がいつも辛そうだったり、不満そうだったりするよりいいじゃない。お互いにそれぞれの世界があって、一緒に過ごす時間が持てるなら、それでもイイかなって思うんです。そして、年を取っても一緒にいられたら、あの時、浮気してたよねって話したりして、懐かしがるのもいいのかなって思っているんです。この市川も、私のような感覚なんじゃないかな。
もちろん、私も若い頃は、浮気されたり、浮気したりすることがあれば、喧嘩もするし、イライラしましたよ。浮気だから、本気じゃないから喧嘩で終ったけどね。そりゃ、この映画に出てくる留亜とか優二と同じように、色々とありましたよ。でも、いつからかな。家族のことは、安定というか安心していられるようになりました。年を取って、経験を重ねたというのもあるんだろうけど、それこそ、カワナベの言う通り、色々な選択をして、沢山のモノを捨てて来たからこそなのかもしれません。
市川は、本当に優しい男性なんですよ。とても幅があるというか、心のページ数が多いんだろうなと思うんです。若い優二が、怒りが湧かないのはサイコパスだとかって言う場面があるんだけど、心がペラペラだと、沢山の人の想いや感情を考えての考察が出来ないだろうから、こういう考えになっちゃうんでしょうね。市川は、必死で仕事に打ち込んでいる紗衣が好きだし、その仕事の一環になっている浮気も、本人は気が付いていなかったけど、受け入れてしまっていたんじゃないかな。だから、感情が湧いてこなかったのかなと思いました。
紗衣は、そんな市川の愛しかたを理解してはいなかったんじゃないかな。市川の愛し方は、人に伝わりにくいですもんね。でも、義母の家に一人で行って、写真を撮る場面があるのですが、普通、義母の家に一人で行って、楽しそうにおしゃべりしてくれる夫っていないでしょ。これ、本当に紗衣を心から愛していたんだと思いますよ。彼女の全部を愛していたんだと。伝わりにくいけどね。そんな彼の愛を、後から紗衣は知ったんじゃないかな。
この市川という人物は、稲垣さんが演じていたという事もあるかもしれないけど、ボーっとしていそうに見えて、実は思慮深く、感情豊かな人なんだと思いました。万人には伝わらなくても、彼に関わった人には、段々と彼の温かさが、後から沁みてくるんだと思うんです。そんな市川に対して、スポーツ選手の有坂という対極にいる男性がいて、より人物が浮かび上がり、その上、若い優二という脳ミソが空っぽのような青年が出てきて、とてもバランスが良かったです。今泉監督のこういうバランスを上手く取る部分って、観る方からすると、とても観やすいんです。
市川の茂巳って名前、実は、字は違うけど夫と同じ名前で、親近感が湧いてしまいました。夫は、”み”で終わる名前なので女みたいと言われ、子供の頃にからかわれたそうです。でも、良い名前ですよね。私は好きですけどね。(笑)
映画の中に、印象に残るセリフが沢山出てきます。ここには書けないけど、脚本が良いなと思いました。今泉監督のオリジナルは、本当に良いですね。脚本がある場合も良いですが、それ以上に、言葉に深い愛が感じられます。言葉の使い方って、凄く大切なんです。私は、ボキャブラリーが少なくて、薄っぺらくなっちゃうけど。(笑)
この映画、私、最近の邦画では一番かもしれません。楽しい映画も沢山あるけど、この心に沁みてくる感じが、凄く好きです。とても市川という人物に共感いたしました。私も普段は感情をあまり外に出さないタイプで、仕事でも穏やかで怒らない人と言われますが、これって、感情を抑えなければやってこれなかったからだと思うんです。いつも怒っていたら、人間関係はボロボロになるでしょ。生きる為の処世術だから、感情が乏しいというよりも、抑えて来た結果だと思っています。それって、沢山の経験を積んできた証拠なので、自分の財産だと思って良いんじゃないかな。市川も、きっとこれから、また新しい人生が幕開いて行くんじゃないかしら。また、小説を書き始めるかもしれませんね。先を考えると、楽しみです。
私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。これは、映画祭で観客賞を貰うでしょ。私は、好きです。とても共感が出来た作品でした。愛しているからこそ、嫉妬なんて感情は通り越して、大きな愛がそこに存在するんじゃないかな。でも、理解出来る人と出来ない人がいると思います。これは、賛否分かれるだろうな。何度も言うけど、私は、好きなんです。(笑)ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「窓辺にて」