赤い飛沫が舞った。
首を触ればぬるりとした感触。
手は赤く染まっていた。
気持ち悪い。
生命の消えていくような風景画が一つ。
ああ、また灯火が消えていく。

心が侵食される感覚。
ブラフは何処だ。
記憶の改竄、書き換わり。
風景に嘘が増えていく。
赤く薄く広がっては消えるような。

さぁ、この世界は偽りだらけ。

赤い飛沫の飛んだ夕日の風景画。
赤い赤い太陽の沈む海辺の風景画。
明るい空から赤い月の沈む海辺の風景画。
明るい空から赤い月の沈む海辺に佇む人の風景画。
明るい空から赤い月の沈んでいく海辺に佇む少女の風景画。
明るい空から赤い月の沈んでいく海辺に佇むワンピースを着た少女の風景画。
明るい空から赤い月の沈んでいく海辺に佇む白いワンピースを着た少女の風景画。
明るい空から赤い月の沈んでいく海辺に佇む白いワンピースを着て麦藁帽子を被った少女の風景画。
暗い空から赤い月の沈んでいく海辺に佇む白いワンピースを着て麦藁帽子を被った少女の風景画。
暗い海から赤い月の沈んでいく海辺に佇む白いワンピースを着て麦藁帽子を被った少女の風景画。
暗い海から赤い月の浮かんでいく海辺に佇む白いワンピースを着て麦藁帽子を被った少女の風景画。
暗い海から青い月の浮かんでいく海辺に佇む白いワンピースを着て麦藁帽子を被った少女の風景画。

全部嘘のようになっていくの。

目の前に横たわる死体が一つ。
ああ、これも嘘ならよかったのに。
生まれる春、生きる夏、死に行く秋、消えた冬。
誕生と消失を繰り返す、不毛な世界。
生まれた命は受け継がれることなく、ただ死に消えるだけ。
過去など知ることもなく、どんな命がこの場所に消えていったかを知ることもなく。
世界は暗闇へ沈み、朝は夜へと変わる。
冬に抱かれ、雪に溶けて、夜へ消える。

世界は少しずつ形を変えて、世界自体が、冬へと向かっていく。
世界に芽吹く生命と共に、世界が消耗されていく。
それに気付く命もなく、ただ消えていく。


そんな世界に、価値はあるのか。
どんな思いで見つめればいいのか。

その終焉に気付く存在はいるのだろうか?
好きな子がいました。
相手も私を好いていました。
可笑しな程に、それはそれは、歪になってしまった、さながら狂気のように。

彼女は私をただのお人好しだと勘違いしておりました。
ならば勘違いさせたままでいようと、彼女の前ではいい人を装いました。
彼女は益々私を盲信していきました。
そしてそれは、私にとってとても都合の良いことでした。

そんな時のことでした、彼女が自殺を図ったのは。
幸い、タイミングよく、彼女を尋ねた私は、反応が無いことに違和感を感じ、合鍵を使って彼女の部屋に入り、何故か光の漏れている風呂場を不審に思い、風呂場の扉を開け、浴槽で眠るように溺れていた彼女に気がつき、彼女を風呂場から連れ出して、運良く自殺は未遂に終わり、事なきを得ました。

彼女の意識が戻ってから、泣きそうな顔をしてどうして自殺未遂なんてしたのと問えば、彼女は無言でポロポロと涙を流し、小さく震えて俯くのでした。
たとえそれが偽りの涙であろうとも、俯いた下で唇が弓なりになっていても。
私にとって、彼女のその表情は、堪らなく愛しいものでした。

それからも彼女は自殺未遂を続けました。
本当に死にそうなものから、ちゃんと死なないように調整していたものまで、それはもう色々と。
その度に、私は彼女を心配する素振りをして見せました。
本当はこれっぽっちも心配などしていませんでした。
何故ならば、彼女が私をおいて死ぬなんて事は有り得ない事だったから。

安心しつつも、良さげなタイミングで介入し、彼女にもっと、私を印象付けました。

そして私は、彼女の部屋に住むようになりました。
予定調和だったのです。
私にとっても、彼女にとっても。。

自殺しないように見張るという名目でした。
なんとも有りがち、ありきたり。けれどそれで良かったのです。ありきたりであればあるほど、それは異常とはかけ離れた正常という名の普通になり得るから。
普通というものは直されることや指摘されることはありません。
しかし異常というものは、周りに指摘され無理矢理直されるのですから。

包丁で自殺されない為に、料理は私がすることになりました。
食器棚には割れ物があるので鍵をかけ、尚且つ使う食器はプラスチックにしました。
包丁も、子供が手を切らないで済むようになっているプラスチックのものを出来る限り使いました。

洗剤を混ぜられたり飲まれら危ないという名目で、洗濯やお風呂掃除も私がすることになりました。
洗剤の入った棚には厳重に鍵をかけ、彼女が取り出せないようにしました。
混ぜても危なくない洗剤にしました。

オーバードーズで死なれたら困るから、薬の管理も私が全てすることになりました。
薬も全て鍵つきの物に入れて、幾ばくかだけを常に首から下げている小さなケースに入れました。

溺れられたら困るから、お風呂は一緒に入ることにしました。
お風呂の扉には鍵をかけて、勝手に入れないようにしました。

お酒をのみたいと言われた時は、一緒に飲むようにしました。
彼女に急性アルコール中毒になられない為でした。

出掛ける時は、彼女を一人きりに出来ないので、連れて歩くようになりました。
彼女は外に出る度に、他人に怖がる振りをしました。
私は騙された振りをしながら彼女を宥める素振りをしつつ抱き締めました。

彼女と私が離れる時間はほとんど無くなりました。

彼女は、私無しでは満足に生活すらできなくなりました。
それは彼女も望んでいたのでしょう。
彼女は甘んじてそれを受け入れました。

後少し、彼女が、私が完全におちたと思うまで、ほんの少し。


そうなったら、逃げられないのは彼女だ。