170km、11時間21分の大冒険
場所:ニュージーランド・ロトルア
大会日時:2025年10月26日(日)4:30am
出場カテゴリー:マイラー
距離:約170km
獲得標高:約5,100m
結果:総合8位、エイジ(40–59)3位
タイム:11時間21分
天候:曇り・小雨
STRAVA: https://www.strava.com/activities/16257777534
世界屈指のトレイルを舞台に、再び自分と向き合う
毎年10月4週目、ニュージーランド・ロトルアで開催される南半球最大の長距離MTB大会「Whaka 100」。
昨年は3,000人以上が集まるほどの大人気大会。
大会関係者から聞いた話では、今年はさらに参加者が増えて過去最高のエントリー数だという。
カテゴリーは豊富で、キッズ5km、10km、25km、50km、100km、マイラー(170km)が用意され、レベルに合った距離でチャレンジすることができる。
今年も私が参戦するのは最長カテゴリーの「マイラー」。3回目の”超戦”だ。
全長約170km、獲得標高約5,400m、世界でも屈指の難易度を誇るマウンテンバイク・マラソンレースだ。
その過酷さから完走率は低く、完走するだけで英雄と称えられるほど。
世界中からトップライダーが集まり、毎年ハイレベルな戦いが繰り広げられる。
私の過去の成績は一昨年、昨年と総合3位。
今年は過去の自分を超える走りを誓ってこの地に戻ってきた。
今期最高のコンディション、最高の準備。そして、何より心の準備も整っていた。
朝4時半、暗闇の中で始まる戦い
レース当日。
午前2時15分起床。
スタートはまだ夜も明けきらない朝4時半。
例年よりも気温が低く、レッグウォーマーとジャケットを羽織ってのスタートとなった。
ライトに照らされたテクニカルなトレイルを走り抜ける。真っ暗なロトルア原生の森の中を突き進む感覚は、まるで異世界へと足を踏み入れるようだった。
スタートからすでにレッドゾーン寸前。ハイペースな先頭集団が形成される。
途中で中切れが発生し、トップ3の列車に乗るチャンスを逃してしまったが、
今思えば、無理に追わなくて正解だった。
すでに心拍はゾーン4上限。冷静な判断が功を奏した。
序盤は6〜10位パックで展開。
そのまま順調にレースを進めていたが、15km地点あたりでアクシデントが起きる。
クラッシュ。それでも前を向く
真っ暗な森の中のタイトな下りで、前の選手がトラブルで急ストップ。
避けきれず左腕が木に激突し、そのまま前転。激しいクラッシュだった。
立ち上がると、ハンドルバーは曲がり、さらにショックなことにロックアウトレバーが完全に折れていた。
自分はダンシング(立ちこぎ)を多用するタイプ。
ロックアウトが効かないとなると、ダンシング中にサスが沈み込み、
ペダリング効率が著しく落ちる。
まだ150km以上残っているこの時点で、それは致命的なダメージだった。
正直、頭の中が一瞬真っ白になった。
だが、ここでネガティブになっても何も変わらない。
好きな漫画で、「覚悟を決めて何かを犠牲にすると新しい力が目覚める」そんなストーリーがあったなと思い、“これは新しい自分を引き出す試練だ”とポジティブに捉えることにした。
仲間との再会で心が救われる
27km地点、最初のフィードポイント直前。
ここで奇跡的な再会があった。
100kmクラスに日本から参加していたサイクルハウスミカミ店長の三上さんと茉希さんがちょうど同じタイミングで現れたのだ。スタート時間も距離も違うのにすごい偶然だ。
さらにサポートの清子とシモン君も補給を準備して待ってくれていた。
落車のショックとメカトラの不安で沈みかけていた心が、一気に明るくなる。
仲間の笑顔、声援、サポート。
たった1分にも満たない補給タイムだったが、精神的なリカバリーには何よりのエネルギーになった。
「ありがとう!」と笑顔で再スタート。
この直後、パックから抜け出して単独走へ。
43km地点を通過した時点で、順位は4位まで上がっていた。
ワールドクラスのトップ3を追って
トップ3はJon Odams(豪)、Sebastian Schuurman(NZ)、Jason English(豪)の3選手。いずれも世界的な実力者たちだ。
彼らの存在を遠くに感じながらも、諦めずに闘志を燃やし続けた。
レースの半分を過ぎたあたり、後方からZhu選手(中国)が追いついてくる。
その走りは強烈だった。抜きつ抜かれつ、20km以上にわたってバチバチの攻防戦。
きついけれどこの戦いが楽しくてたまらなかった。
さらに、100kmを過ぎるとFeng選手(元中国XCOナショナルチャンピオン)とCai選手(中国)が勢いよく追い上げてくる。
ニュージーランドで、日本と中国のアジア勢がTOP10圏内で上位争いをしている。
そんな展開に、自分でもワクワクしていた。
限界の中で燃える闘争心
Feng選手は圧倒的に強かった。
下りでも差を詰められず、ペダルセクションでは全開で食らいつく。
オーバーペースだと分かっていても、この全身全霊をぶつけ合う感覚が心地よかった。
アドレナリンが脳内に大量に溢れ、体の痛みが消えていくほど。
このレーシングハイの感覚が選手にとって最高の快感でもある。
しかしこの”ハイ”な状態は最後まで持続できず・・・
130kmを過ぎると、脚が急激に重くなり、ついにFeng選手の姿が視界から消えた。
Cai選手、Zhu選手にも次々と抜かれる。
だが、Zhu選手が振り返り、「Let’s go together」(一緒に行こう)
彼のその一言に、胸が熱くなった。
国も言葉も違うけれど、同じ苦しみを共有する仲間。
残った力を絞り出し、彼の背中を追い続けた。
鉛の様に重い脚と孤独なラスト20km
結局中国勢からは遅れを取ってしまう。
150kmを過ぎ、残り20km。
脚は完全に売り切れ、上半身も限界に近い。
それでも前に進むしかない。
ここからは自分との勝負だ!
このレースの最後の5kmは、容赦ないアップダウンの連続。
グレード4(上級)トレイルの連続で、集中力を切らせば転倒は免れない。
腕が耐えきれず、ドロップを下るたびに前転しそうになるほど。
楽しいはずのシングルトラックが、苦行に変わる。
それでも、遠くからゴール会場のアナウンスが聞こえてくると、不思議と苦痛が和らいでくる。
「帰ってこられた」
その思いだけで、最後の力を振り絞った。
フィニッシュ、そして最高の達成感
11時間21分。
たくさんの歓声に迎えられながらゴールラインを通過した瞬間、全身から力が抜けた。
達成感、安堵、そして感謝。
総合8位。
目標からはだいぶ落ちてしまったけれど、世界のトップレーサーたちと真正面からぶつかり、最後まで攻め抜いた自分に悔いはなかった。
そして、エイジカテゴリー3位という嬉しいおまけが待っていた。
表彰台では、Jon Odams選手(総合優勝)、Jason English選手(総合3位)という憧れの選手たちと肩を並べた。
11時間21分の戦いが少し報われた瞬間だった。
Whaka 100は「試練」であり「ご褒美」
Whaka 100 Milerは、ただのレースではない。
己の限界を超え、心技体の全てが試される究極の舞台。
加えて、ダート100%、極上のシングルトラック、何事にも変え難い達成感、そして温かく迎えてくれるコミュニティがある
ここにはMTBのすべてが詰まっているのではないかと思う。
死ぬほど辛かったのに、また走りたいと思える。
それが、このレースの魅力であり魔力だ。
ロトルアのトレイルは、「人生で一度は走るべきMTBパラダイスの一つ」だと断言できる。レースもお勧めするが、レースでなくてもファンライドのためだけでもここロトルアに来る価値は大いにある。
ニュージーランドで出会った素晴らしい仲間達と。
お互いの全てをぶつけ合い高めあった中国選手達と。ありがとう!
大会創設者・ディレクターであるファーマーご夫婦。
今年も素晴らしい大会開催をありがとう。
100kmクラスを見事完走したチームジャパン。おめでとう!
昨年の自分のWhaka100レポート記事(Cyclowired.jp)をきっかけに参戦を決めてくれたとのこと。
とても光栄だし、皆さんの熱い走りにこちらも胸を打たれた。
支えてくれた仲間、応援してくれた皆さま、そして大会スタッフ・ボランティアの皆さま、この素晴らしい日を共有した全ての人に心からありがとう。
~使用レース機材・装備~
バイク: Canyon LUX CF SLX
ホイール:DT SWISS XMC 1200 SPLINE, 30mm
タイヤ: MAXXIS ASPEN 29 x 2.4 (F&R), 前後21 PSI
シーラント:Finish Line
グリップ: ERGON GA3
グローブ: Ergon HM2
サドル:ERGON SM Pro Men
シートポスト:DT SWISS D232ONE
工具・サドルバッグ・ボトルケージ: Topeak
ライト:Exposure Lights Six Pack
スペアチューブ:Tubolite
チェーンオイル:Finishline HALO WET
ブレーキ:Shimano XTR
ドライブトレイン:Shimano XTR, フロント34T
ペダル: Shimano XTR
ヘルメット: Limar AIR PRO
チームジャージ:SPORTFUL
補給食・ドリンク
GU Energy
ロクテインドリンクミックス(グレープ、ストロベリーハイビスカス)
エナジーチュー(ソルティッドライム、ストロベリー)
リキッドエナジー(ストロベリーバナナ、レモネード)
羊羹や現地で買ったバーなど。
大会フィードステーションにあったエナジーバー、ドリンク、ジェルも摂取。
テーピング
手のひらに「ニューハレニーダッシュ」
11時間以上テクニカルなトレイルを走り続けることで手のひらへのダメージも大きい。このテーピングのおかげで手のひらのダメージがだいぶ軽減することができた。
膝下にもニーダッシュ。ペダリングが真っ直ぐに安定する感覚が得られるのでとても気に入っている。
パーソナルスポンサー:
チームスポンサー:





















