RENKETSU

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10年も20年も、今日も明日も明後日も。


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8月5日は命日。


もう一人の私が死んだ日。




アドレスを解約したのは


もしかして


もう二度と文字を読むことができなくなったから?




今のいままでそこに考えが及ばなかったことに呆然とした。



その目は完全に光を失ってしまったのだろか。





一度だけあなたの目が揺らいだのを見たことがある。



「わたしの目、くれてもいいよ」



わたしの中の青白い炎に打ちのめされたと


それからしばらくして語ってくれた。



「もう見たいものなんてないから」



そしてわたしを無言で抱きしめた。



ふだん感情をあらわにしないあなたが


少しだけ震えていたのを覚えている。
















つまらない夢を見る。



ただの高校の同級生とか、昔のバイト先の先輩とか。



すれ違った幾多の人が何の前触れもなしに登場する。



それは脳が「この人の記憶、消してもいいですか?」ってサインを出してる証拠なんだって。




あなたを夢に見ることがないのは


今も私の中で息づいているから。



父を夢に見たことがないのは


そもそも父という人を知らないから。




あなたはきっと私が結婚したことを知っている。


そうやって瑣末な細部から事象の全体を知る。





「そんな瑣末なことはどうでもいいのよ」



明日、私が朝から会議があるとかどうとか。


その資料は家にあるから一度帰らないといけないとかどうとか。



日曜の夜の渋谷駅、そういう会話をしたことがある。



雑踏は瞬時にして色褪せ周囲はスローモーションで過ぎていったね。




そう、すべては瑣末なことよ。



私の夢はそうやってすべてを捨てようとするあなたと人生を共にすること。




むかし、言ったことがある。




私と彼女が溺れていたら、あなたは迷わず彼女を助けなさい。


だけど、すべてに絶望したら、私を道連れにしなさい。




それは今も変わらない。


私の生にはあなたの最後を見届ける義務があるような気がして。


自分と同じ魂を持った子供がどうやって最後を遂げるのかってことを。




生きるためには別の人が必要だけど


死ぬためにはあなたが必要なのね。




タナトスがつないでいた絆だから。
















あなたナシでは生きていけないと思っていた。


あのころの私は。


だけど今日も私はあなたナシで生きている。




そう。


それが恋というもの。




「もしかして本当に死んでるとしたら?」


友達にそう言われた。



私にはあなたの生死を確かめる術はないから。




だけど恋闕。



私にはあなたが生きていても死んでいても関係ない。


あなたという存在は最初から夢の中にしか存在し得なかったから。



それが恋闕。





これでいいんでしょう?



あなたはあなたなりの方法で私の心に杭を打ち込んだ。




ねえ、私たちはあと一度だけ会えるのかしら?







メールを出してみた。


3年目の春がきたから。


ただそれだけの理由で。


うろ覚えの英数字を並べて


何のためらいもなしに「送信」ボタンを押す。



すぐにリターンメールが来た。


8年も持っていたアドレスを


どうして今ごろ解約したのか?



8年前、やっと見つけたあなたの居所。


その細い糸が途切れた。


私は頑なにこのアドレスを守ったのに。


いつか元の関係に戻れたときのためにね。



だけど、あなた。


もしかして私とのことをすべて消し去りたい?


もう二度と思い出したくない?



ねえ、そうしたことが逆に私には意味のあることに思えるよ。


だって、愛してないのなら、また同じ軽さで友達に戻れるじゃない?











互いの心のうちに寄り添いながら


ひとつひとつの言葉を紡ぎ出すような。


それでいて自分の発した言葉を恐れているような。


あなたとの会話。


意識が体から離れて


宙を漂いながらする言葉のやりとり。


寄せては返す波のよう。


そんなあの独特な感覚を夢で見たよ。




私たちは許しを乞うていた。


私たちが考える「屈託のない人」に許されながら生きることを求めていた。




ねえ、私たちの配偶者に共通することは「慈悲深い」だね。


私があなたを許すことは何の意味ももたなかった。


私はあなたが私を許すことを望んでいなかった。



私たちは私たち以外の誰かに許されることが必要だったんだ。











私が別れを決意したあの日、

その数時間前のあなたの目を突然思い出した。


ねえ、あれが決定打だったのかもしれない。


心の裏側を探るような冷たい光に耐えられなくて

私から目を逸らしてしまったのだった。


あの夜、私は怒りにまかせたまま携帯を盗み見た。


彼はそういう女が大嫌いだ。

だからあえてやった。


それからどうしていたのか覚えていない。

どんな会話をしてどうやって眠ったのか。

記憶はそこで途切れている。



翌朝、ホテルを出てから珈琲を飲んだ。


私はトイレで吐いた。

震える指先でタバコを吸った。

冷めた珈琲で胃液が逆流した。


まともな会話も交わさない朝

私は早くひとりになりたくて自分の部屋に帰った。


ベッドに横たわった。

気がついたら夕方近い時間だった。



ねえ、あのとき、あなたは私の部屋に来たんだよね?


私はあなたの残像を追いかけて走った。


まるでテレビドラマのように

夕刻の踏切をサンダルをつっかけたままで走った。













「曽根崎心中のようなことがホンマにあるもんやな」



この世の不幸をすべて手にすれば

そこには本当の自由があるのかもしれない。



But if we don’t understand…
Hell is happy, heaven is sad
And that’s the result of our brain…
Insane…



どうしても和訳することができなかったそれが。

shadow


シャドウという言葉を思い出した。



あなたにとって私はシャドウだと

あのころ、そう思っていた。


私にとってのシャドウは

あのときに失われたもうひとつの人生。


人間は二度生きられない。

私は何人ものわたしを生きることができない。



魂が震えるような恋、

命を擦り合わせるような抱擁。


だけど私たちは本能に背く選択をした。


あなたは命の中に本能に穢れを感じていたから。

私はどこまでも理性に縛られて生きていたから。



だけど・・・

私の言葉はあなたにか通じない。


あなたは生きたいような人生を生きている?