『喫茶『猫の木』の日常。猫マスターと初恋レモネード』植原 翠 マイナビ出版ファン文庫 読了日:2018.7.18

 静岡県の海辺、あさぎ町には店主が猫の被り物をしている不思議でレトロな喫茶店『猫の木』がある。

 この町に一年前左遷されて来た、恋愛に奥手な有浦夏梅(なつみ)は、この『猫の木』猫大好きなのに重度の猫アレルギーで、頑ななまでに猫の被り物を外して素顔を見せるのだけは拒絶するけれど、人の心にさりげなく柔らかく寄り添い、穏やかな店主に癒され、この町も会社も好きになった常連。

 最早、夏梅にとって、喫茶店『猫の木』と猫頭の店主片倉は、生活の一部、心の拠り所、なくてはならない存在になって来た。『猫の木』には、穏やかなマスターに、相談や悩み事を聞いてもらいに来る常連客が多く、持ち込まれる悩みや相談事を居合わせた夏梅共々ふんわり受止め、何となく収まるべき所に収めてしまう、長閑な町の長閑な喫茶店で起こる日常の一コマを描いた短編集。

 シリーズものとは知らずに、図書館の蔵書検索で、何の気なしに『猫』と入れて検索したら出て来て、タイトルに惹かれて借りた一冊。

 これは、シリーズ2作目にあたる。1作目で夏梅がなぜ左遷されたか、『猫の木』と店主片倉との出会いなどが描かれているらしく、この本を読んでいる途中で、1作目と3作目も出ていたので、図書館に予約した。それほどに、ふんわり、のんびり、温かくて、穏やかで、おかしくて、優しく楽しい小説だった。

 夏梅のことをマタタビさんと呼び、『マタタビさんは、特別なお客様』とさらっと言い放つ猫頭の店主片倉と、片倉に惹かれつつ過去の恋のトラウマで、恋愛に及び腰になっている夏梅の焦れったいようなのんびり長閑で、微笑ましい互いの思いの進展を程よいスパイスに、こんな喫茶店があったらいいなと思うような、春の陽だまりのような『猫の木』で、繰り広げられる何処にでもありそうだけれど、時に愛らしく、時に甘酸っぱく、時にほんのり切ない出来事と時間、静かに流れ行く時間に、読んでいるこちらも、心穏やかでほっこりする。

 優しい町で、猫にまみれた、和やかほっこりライフを描いた短編集。

文:麻美 雪