『トイプー警察犬メグレ~神隠しと消えた殺意の謎~』七尾 与史  講談社タイガ文庫 読了日:2018.5.13

 山中をドライブしていた父と小学生の息子。息子飛雄馬車の窓から石を投げて遊んでいたのを、人や物に当たったら危険だと諭しても言うことを聞かない息子を、躾のためと、車から下ろし5分程反省するまでその場に一人にして、戻って来ると、飛雄馬が冬の山中で神隠しのように姿を消していた。

 誘拐か、殺人か。事件性が疑われ始め、幼い息子を5分と言えどもたった一人山中に残した父雄輔に非難が集まり、誘拐は雄輔の狂言で、雄輔が息子飛雄馬を殺したのではないかと、マスコミやSNS、世間は、無責任に雄輔を犯人扱いしこれでもかと叩き、警察も雄輔を容疑者として捜査する。

 本庁の警察犬を捜査に加えるが足跡を掴めない中、“殺意の匂い”を嗅ぎ分け、犯人の臭気を嗅ぎ分けることができるトイプードルのメグレだけが、雄輔は犯人でないと訓練し早乙女に示し、事件の意外な真相を指し示す。

 美形なのに無愛想な訓練士の早乙女俊介と刑事の佐倉綾香が辿り着いたのは、十年前に起きた謎多き児童誘拐事件へと繋がる真相だった。

 トイプー警察犬メグレシリーズの2作目。1作目で、佐倉綾香と早乙女が出会った事件が描かれているらしいのだが、シリーズものと知らずに、今作から読んだのでそれぞれのキャラクターや経緯が解らない所もあるが、それでもさほど違和感も困惑もなく入って行ける。

 トイプー警察犬というタイトルから可愛いトイプードルの警察犬が、赤川次郎の三毛猫ホームズばりの推理を見せて謎を解くような感じを受けるが、このトイプー警察犬メグレは、訓練士の早乙女に勝るとも劣らない無愛想で可愛げのないトイプードル。

 だか、犯人の臭気を嗅ぎ分け、殺意を嗅ぎ分けられるメグレは、シムノンの『メグレ警視』ばりの能力を見せる。

 未解決の10年前の少年の誘拐殺人事件から始まるこのミステリーは、読み進むにつれて、今起こっている少年誘拐事件へと繋がり、ラストで全てが1つに繋がって行く。

 身勝手な犯罪に巻き込まれた被害者と被害者の周りの人々の癒えることのない苦しみと悲しみと無念さ、悔しさ。

 憶測だけで、無実の人間を犯罪者だと弾劾し、追い詰めるマスコミやSNS、世間の無責任さと怖さ。真犯人が別の人間だったと解った時の掌を返すように自分たちの発言によって弾劾し追い詰めた者への謝罪もなく、糾弾した人間を褒めそやし、良かったですねと言い始める、それらの人々の無責任といい加減さ。

 それはまた、今、現実にも何か事件が起こると第一報、一方的な見方による報道やなされ方とそれによって、一つの見方、一つの意見だけに偏り、自分で様々な立場で見聞きし考えたりせず、決めつけ弾劾し、追い詰めて行く毎日のように目にするテレビやメディアの事件等に対するに危うさや違和感、怖さとそのような状況に対する疑問を投げかけているようにも感じた。

 謎解きとしても、最後まで目が話せず一気に読ませてしまう上手さだけでなく、タイトルの可愛らしいイメージと違い、どっしりと考えさせられつつ、ミステリーの面白さも感じられる一冊。


文:麻美 雪