『桜夜の底』


 智恵子のように
 
 あなたの歯が

 金色の檸檬を

 カリリと噛んで

 檸檬の香気を含んだ

 深呼吸をひとつして

 哀しいくらいに

 透き通った白い掌を

 僕の頬に当て

 僕の好きな

 賢く優しい目をして

 じっと見つめて

 「愛してる」

 ひと言言って

 儚くなった君

 今夜だけは

 泣かせて欲しい

 明日からは

 きっと笑顔で

 君を思い出すから

 温もりの残る

 軆を抱きしめた

 桜夜の底


詩:麻美 雪