「大変だ~、あと2分で遅刻だ!」
僕は小学5年生。あれは、一か月前の月曜日。ぼくは、自分の腕時計を見て、遅刻を覚悟した。ちょっと寝坊をしてしまい、家を出るのが遅れたのだ。
いつものように校門で待ち構えているのは、あのうるさい加倉井先生。また、怒鳴られたうえ、反省文を書かされる。今まで何度書かされたことか!
「お前、また遅刻か~」
あの声を聞くとやんなっちゃう。
「あ~あ、またやっちゃったよ!」
そう思いながら学校に向かうと校門には、加倉井先生。
ぼくは、「おはようございます」
と小さな声で校門を通ろうとすると
「おはよう!」と加倉井先生。
「あれっ? 何も言わない」
いつも遅刻をすると
「また、お前か~」
と雷のように、天をも貫くような声で怒鳴りまくられる。
しかし、その時、加倉井先生は何も言わなかった。
「あれっ? どうしたんだ?」
ちょっと拍子抜けをした。
同じように遅刻をした他の生徒たちも
「あれっ?」
て顔をしている。
そして翌火曜日。
ぼくは、なんとまた、遅刻をしてしまった。
同じように校門には、加倉井先生。
「またやっちゃったよ!」と思いながら校門を抜けると、その日も加倉井先生は何も言わなかった。
「どうしたんだろう?」
ぼくは、「加倉井先生、何かいいことでもあったに違いない」と思った。
そしてその翌日。
この日もなんと遅刻。でも加倉井先生は前日と同じ。
ここだけの話し、毎週、ぼくは、5日のうち3,4日は遅刻をしていた。そして時間通りにいけるのは、1,2回。
しかし、その週の木曜日、なんとかぼくは時間に間に合ったんだ。
ただ、いつもなら時間に間に合ったとしても、加倉井先生は「それが当然のこと」と思っているようで何も言わなかった。偉そうにそこに立っているだけ。
でも、その日は違った。何も言わなかった加倉井先生が、にこやかな笑顔で言ったのだ!
「今日、時間に間に合ったんだな~。先生もうれしいぞ~。」
ぼくは思った。
「いつもの加倉井先生と何かが違う。きっと病気で熱でもあるんだ。」
友達とも話したが、やっぱりみんな、同じようなことを言っていた。
そして、金曜日はまた遅刻。でも、加倉井先生は何も言うことはなかった。ぼくの遅刻に対して無関心を装っているかのようだった。
翌週も同じようなことが続いた。遅刻をしても先生は何も言わない。そして時間内に校門を通過しようとするぼくに対して、加倉井先生は「おっ。今日も頑張ったな。先生もうれしいぞ~」なんて、変なことをよく言った。
そんなことが数回続くうちに、ぼくは、よくわからないけど、朝は早めに起きなきゃと思うようになった。そして遅刻の回数も減っていったんだ。
遅刻するたびに「またお前か~」と言われて反省文を書かされても全く反省をしようなんて思わなかった。
しかし、「先生もうれしいぞ~」なんて言われると、あんなに嫌いだった加倉井先生がなんとなく身近に感じ、もっと先生に認めてもらいたいと思うようになった。不思議なもんだ。
ちなみに、加倉井先生は、一か月前のあの月曜日の前の土日に、アドラーなんとかの研修会に行ったそうで、「正の注目」とか何とかを意識していたらしいと担任の先生が言っていた。
よくはわからないけど、失敗を指摘されると反発を感じていたものも、うまくいったことを認められると、なんか気持ちがいいと感じたのは事実。ぼくたち生徒にとって良い影響のあるものならば、どんどん、学んでほしいものだ。
ちなみに、これはフィクションです。
ただ、加倉井先生は、私が中学の時の生徒指導の先生で、その名前を借りました。