ここに寒巌に居して既に経たる幾何年、棲遅して観自在なり。時に歌曲を口ずさんで、世のうきふしは白雲の、
寂々たるたたずまい。石を枕に芝草を、いつも敷き寝のつれづれは、古き仏の書を友、暦なけれど花に知る、
春は籃に早わらびを、秋は果実をとりどりの、この山間の楽しみよ、我が身ながらに羨まし。
聞けよ君、泉が撫ずる伯が琴、子期ならなくに我ならで、誰わきまえんこの調べ、面白の楽の音や、
いざ酌まん、泉に湧ける甘い酒、瓢に酌みて飲もうよ。
大海の、水にほとりはなきものを、寄り来る魚の千万が、同じ餌食にうち群れて、
相食噉(あいしょくかん)す癡肉団(ちにくだん)、悟らねばこそ妄執の、雲間にかすむ月の影。
出たわ出たわ、お月どのが出たわ、万年昔の山々は、今も見る山々、万年昔の渓々は、今も見る渓々、
万年昔の月影は、今も見る月影。
お婆おぬしはどこからここへ、父は何者母は誰、父は鎌、母はかっちり火打ち石、飛んだ火花が、
主か、おれじゃ、おれじゃ、主じゃ。
お爺おぬしはいくつになりゃる、おけは虚空と同い年、なんの虚空は死にゃろとままよ。
山河大地をわが子に持てば、こちは変わらでいつまでも。
浄躶々赤酒酒(じょうらせきしゃしゃ)、浄躶々赤酒酒(じょうらせきしゃしゃ)、浄躶々赤酒酒(じょうらせきしゃしゃ)、
山深く月澄みて、颯々(さつさつ)たる松の風、水音清き岩陰に、鶴の翅(つばさ)をやすめける。