- 長唄全集(二十)新曲浦島/多摩/芳村伊十郎(七代目)
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寄せ返る神代ながらの波の音
塵の世遠き調べかな
それ渤海の東幾億万里に際涯も知らぬ
壑あるを名づけて帰墟と言うとかや
八紘九野の水づくし 空に溢るる天の河 流れの限り注げとも
無増無減と唐土の聖人が
たとえ今ここに見る目はるけき和田の原
北を望めば渺々と水や空なる沖津なみ
煙る緑の蒼茫と霞むを見れば
三つ五つ溶けて消えゆく片帆影
それかあらぬか帆影にあらぬ沖の鴎の
むらむらぱっと立つ水煙 寄せては返る波頭
その八重汐の遠方や
にも不老の神人は棲むてう三つの島根かもさて西岸は名にし負ふ
夕日が浦に秋寂びて磯辺に寄する
とどろ波岩に砕けて 裂けて散る水の行方のゆうゆうと
旦に洗ふ高麗の岸 夕陽もそこに夜のとの
錦秋の帳暮れゆく中空に誰が釣舟の玻璃の灯火しろじろと
裾の紫 色褪せて又染め変る空模様
あれいつの間に一つ星雲の真袖の綻び見せてむら曇り変るは秋の空の癖しづ心無き空雲や蜑の小舟のとりどりに帰りを急ぐ艪拍子に
雨よ降れ降れ 風なら吹くな 家のおやじは 舟のりじや
風が物言ひや言伝てしようもの風は諸国を吹き廻る
舟唄かがる 雁がねの 声も乱れて 浦の戸に
岩波騒ぐ 夕嵐 凄まじかりける 風情なり