こんにちは。
ゆうきです。

椅子から立とうとすると、足を前へ突っ張る。
手すりを強く握ったまま動かない。
身体が後ろへ反る。
お尻が少し浮くけれど、その先へ進めない。
立てても、すぐに座り込んでしまう。

このような場面を見ると、

「脚の筋力が弱いのかな」
「もう少し頑張ってもらえば立てるかな」
「腕を引いて立たせた方がよいのかな」

と考えることがあります。

もちろん、立ち上がりには下肢筋力が必要です。
しかし、立ち上がれるかどうかは筋力だけでは決まりません。

椅子の高さ。
足の位置。
肘掛けや手すりの使い方。
身体を前へ移すタイミング。
痛みや疲労。
本人が何をするか理解できているか。
立った後の支えが見えているか。
介助者の声かけや待つ時間。

こうした条件が重なって、同じ人でも立ちやすさが変わることがあります。立ち上がりに関するレビューでも、座面高、肘掛けの使用、足部位置は、立ち上がり能力に大きく影響する要因として整理されています。

この記事では、「立てない」という結果だけでなく、どこまでできて、どこで止まっているのかを分けて見ていきます。

なお、この記事は立ち上がり方法を一律に指示するものではありません。身体状態、麻痺、痛み、関節可動域、転倒リスクによって適切な方法は異なります。

最初に「急に立てなくなった」のかを確認する

以前から徐々に立ちにくくなっているのか。
昨日まで立てていたのに、今日になって突然立てなくなったのか。

この違いは重要です。

突然、顔がゆがんだ。
片側の腕や脚に力が入らない。
片側がしびれる。
ろれつが回らない。
言葉が出ない、または理解できない。
急に歩けない、強くふらつく。

このような変化がある場合は、椅子や足位置を調整して再度立たせる場面ではありません。介助を中止し、症状が始まった時刻や最後に普段どおりだった時刻を確認して、119番を優先します。日本脳卒中学会は、突然の顔・腕・言葉の異常や、力はあるのに立てない、歩けない、ふらつく状態を脳卒中のサインとして示しています。

急な変化がある場合
「どうすれば立てるか」より先に、「これは急変ではないか」を確認します。

急変ではなく、以前から続いている立ちにくさであれば、次の観察へ進みます。

「立てない」を動作の段階へ分ける

立ち上がりは、一つの動作に見えて、いくつかの段階でできています。

代表的な生体力学的分類では、身体を前へ動かす段階、お尻が座面から離れて重心を足へ移す段階、股関節・膝関節を伸ばして身体を起こす段階、立位を安定させる段階に分けられます。

家庭や支援現場では、次のように見ると整理しやすいです。

1.動作を始められるか

声をかけても動き始めない。
手をどこへ置くか分からない。
身体を前へ移そうとしない。

この場合は、筋力だけでなく、

何をするか分かっているか。
立つ目的や移る先が見えているか。
痛みや怖さがないか。
声かけ後に考える時間があるか。

を見ます。

「立ってください」と伝えた直後に身体を引くのではなく、本人の視線、手、足、返事を待ちます。NICEは、本人の希望や心配を聞き、急かされたと感じない十分な時間を確保し、ケアへの参加を支えることを推奨しています。

2.身体を前へ移せるか

立ち上がる前には、座っている身体の重さを足の上へ移していく必要があります。

ここで、

身体が後ろへ残る。
背中だけが反る。
手すりを引っ張る。
足を前へ突っ張る。

という反応が出ることがあります。

本人が前へ動くのを怖がっているのか。
椅子の奥に座りすぎているのか。
足が床を支えにくいのか。
腰、膝、股関節に痛みがあるのか。

を分けて見ます。

「前傾が足りない」と一つの形へ押し込むのではなく、本人がどの方向なら安全に重心を移せるかを確認します。

3.お尻が座面から離れるか

身体を前へ移せても、お尻が浮かない場合があります。

この場面では、

椅子が低すぎないか。
座面が柔らかく沈み込んでいないか。
足が身体から遠すぎないか。
手で押せる場所があるか。
下肢で支えられる状態か。

を確認します。

研究レビューでは、低い座面ほど股関節や膝関節に大きな力が必要になり、高い座面や肘掛けの使用は必要な関節モーメントを減らす傾向が報告されています。また、足の位置を変えると立ち上がりの運動戦略や関節負荷も変化します。

ただし、椅子を高くすれば誰でも安全に立てるわけではありません。

高すぎて足が床へつかない。
座位が不安定になる。
立った後に前へ転びそうになる。

といった可能性もあります。

椅子の高さは「高い方が正解」ではなく、本人の体格、可動域、足の接地、立位能力と合わせて考えます。

4.お尻が浮いた後に身体を起こせるか

お尻は浮くけれど、膝が伸びない。
途中で止まる。
片側へ大きく傾く。
膝が折れそうになる。

この場合は、

股関節・膝関節を伸ばす力。
左右の荷重差。
痛み。
麻痺や筋緊張。
支持する足の状態。
立った後につかまる場所。

を確認します。

ここで腕を強く引き上げると、本人の身体が後ろへ残ったり、支援者の負担が増えたりする場合があります。

厚生労働省は、介助方法を決める前に、本人の歩行、立位保持、座位保持、利用可能な福祉用具、作業環境、必要人数を確認し、本人と介助者双方にとって負担の小さい方法を検討するよう示しています。

5.立った後に安定できるか

立ち上がれたとしても、

すぐ後ろへ倒れそうになる。
膝折れが起こる。
片側へ傾く。
立った直後にめまいや気分不良を訴える。
次の一歩を出せない。

場合があります。

この時は、「立てたから成功」と終わらせません。

立位を保てるか。
どこにつかまるか分かっているか。
車椅子や歩行器が適切な位置にあるか。
次の動作へ進める状態か。

まで確認します。

立つ前に身体の状態を見る

その日の身体状態も、立ち上がりへ影響します。

膝や股関節、腰が痛くないか。
発熱や体調不良がないか。
疲労や眠気が強くないか。
息苦しさや動悸がないか。
便秘や排尿の不快感がないか。
薬の変更後ではないか。
転倒や打撲の後ではないか。

本人が説明できる場合は、どこがつらいか、いつからか、動くとどう変わるかを確認します。

言葉で伝えにくい場合は、

顔をしかめる。
膝や腰を守る。
呼吸を止める。
特定の方向を避ける。
普段より返事が少ない。

といった変化を見ます。

一つの表情だけで痛みと断定するのではなく、普段との差、動作との関係、本人や家族からの情報を合わせます。

足を見る

立ち上がり前には、足元を確認します。

足が床についているか。
フットサポートに残っていないか。
靴や床が滑りやすくないか。
足が極端に前へ出ていないか。
左右で位置や荷重が大きく異なっていないか。
痛みや突っ張りが出ていないか。

足位置は立ち上がり戦略へ大きく影響しますが、全員に同じ位置が合うわけではありません。

麻痺、人工関節、関節可動域制限、痛みなどがある場合、一般的な「足を引く」という説明が合わないこともあります。

自己流で大きく足位置を変えて繰り返し試すのではなく、安全性に不安があれば理学療法士や作業療法士へ相談します。

椅子を見る

本人だけでなく、椅子も見ます。

座面は低すぎないか。
高すぎて足が浮いていないか。
柔らかく沈み込みすぎていないか。
お尻が奥へ入りすぎていないか。
肘掛けは使える位置にあるか。
椅子が動いたり滑ったりしないか。
立った後の進行方向を妨げていないか。

立ち上がり研究では、座面高、肘掛け、足位置を統一せずに能力を比較すると、変化を誤って評価する可能性も指摘されています。

家庭や施設でも、「昨日より立てない」と感じた時は、本人の状態だけでなく、昨日と椅子が同じだったかも確認します。

手の使い方を見る

本人は手をどこへ置けばよいか分かっているでしょうか。

肘掛けを押せるのか。
手すりを使えるのか。
片手だけなら使えるのか。
肩や手首に痛みはないか。
握った後に手を離せるのか。

肘掛けを利用すると、立ち上がりに必要な股関節の負荷を減らせる可能性があります。

ただし、麻痺側の腕を引く、痛い肩を持ち上げる、両腕を介助者へ強く引かせることが適切とは限りません。

本人が使える手を確認し、必要であれば手すりや立ち上がり補助具を含めて個別に検討します。

本人は何をするか分かっているか

立ち上がりが難しい時、「能力」の問題に見えて、実は「見通し」の問題が含まれていることがあります。

今から立つこと。
どこへ移ること。
誰がどこを支えること。
立った後に何につかまること。

これらが分からなければ、身体へ力が入ることがあります。

声かけは短く、一度に一つにします。

「今から立ちます」
「手はここです」
「立ったら、この手すりを持ちます」
「準備できたら一緒に動きます」

説明後は、本人が足や手を動かす時間を待ちます。

そして、本人が今立ちたいのか、少し後にしたいのかも確認します。NICEは、外見などから本人を決めつけず、心配や希望を聞き、本人の選択や参加を尊重することを勧めています。

介助で「立たせる」前に、方法が合っているかを見る

本人が立位を保てない。
足へ十分に体重をかけられない。
膝折れの危険が高い。
日によって能力が大きく変わる。

このような場合、腕力で立たせる方法を続けるのは安全とは限りません。

厚生労働省は、本人の残存機能と介助への参加可能性を踏まえて方法を選び、福祉用具を積極的に利用するよう示しています。全介助が必要な場合はリフト等、座位保持が可能な場合はスライディングボード等、立位保持が可能な場合はスタンディングマシーン等を含めて検討し、原則として人力のみで抱え上げない方針です。

これは「用具を使えば自動的に安全」という意味でもありません。

本人への適合。
十分な空間。
支援者の訓練。
用具の点検。
決められた手順。

が必要です。

記録は「立てなかった」だけで終わらせない

専門職へ相談する時は、次のように記録すると状況が伝わりやすくなります。

午後3時、居室の低いソファから立とうとした。両足は床についていたが、足が前方にあり、両手で肘掛けを強く握ったまま身体を前へ動かせなかった。右膝の痛みを訴えたため中止した。普段使用している椅子では、午前中は見守りで立てていた。

見るのは、

いつ、どの椅子で起きたか。
動作のどこで止まったか。
足と手の状態。
痛みや表情。
声かけと待ち時間。
変更した条件。
変更後の反応。

です。

記録の目的は、「立てない原因」をその場で確定することではありません。

どの条件なら参加しやすく、どこに専門的な評価が必要かを共有することです。

早めに専門職へ相談したい時

次のような場合は、無理に立ち上がりを繰り返さず、主治医、看護師、理学療法士、作業療法士などへ相談します。

以前より明らかに立ちにくくなった。
痛みが続く、または強くなっている。
立つたびに膝折れや転倒しかける。
立った直後にめまい、息苦しさ、気分不良が起こる。
本人と介助者の双方に大きな負担がある。
どの介助方法や福祉用具が適切か分からない。

そして、突然の片側脱力、顔や言葉の異常、急な強いふらつきがある場合は、専門職への通常相談ではなく119番を優先します。

まとめ

椅子から立てない時、すぐに「筋力が弱い」と決めなくて大丈夫です。

まず、急な変化ではないかを確認します。

次に、

動作を始められるか。
身体を前へ移せるか。
お尻が座面から離れるか。
身体を起こせるか。
立った後に安定できるか。

に分けます。

そのうえで、

身体の状態。
足の接地。
椅子の高さと座面。
手の使い方。
本人の理解、不安、意思。
声かけや待つ時間。
必要な人数と福祉用具。

を確認します。

大切なのは、

「なぜ立てないの?」ではなく、
「どこまでできている?」
「どの段階で止まっている?」
「どんな条件なら安全に参加できる?」

と問い直すことです。

本人を責めず、支援者も責めず、条件を分けて見ていきましょう。

この記事は一般的な学習情報です。診断、治療、個別の介助・リハビリ指示ではありません。立ち上がりの方法や福祉用具は、本人の状態と生活環境を評価したうえで、関係する専門職と確認してください。