職場の入り口のとことに、オオセンチコガネがいた。この美しく輝くのがそれだ。

 裏返ってジタバタしていたので、ドウガネブイブイかなんかかなと思って通り過ぎて理研の研究棟に行こうとしたのだが、あのフォルムはもしかしてと思って、引き返してひっくりかえしたらこいつだった。

 

 こいつはしかし手でひっくりかえすのはちょっとはばかられるのである。なぜならファーブル昆虫記でも有名なフンをコロガす甲虫の一つだからだ。昨年か一昨年に揖保川の河川敷(のようなとこにもいるんだよ!)にいたやつは、ちゃんとその職業であるフンコロガシ(注)をしようとして犬のものと思われるフンにひっついていた。普通、森かなんかにいて、もっと狸とか野生の動物のフンを転がしているもんだと思っていた。こどものころ初めてみたセンチコガネは山の中で見つけたと思う。しかし河川敷にいたそいつは、おそらくは散歩につれてきたペットの犬がしていった(かたずけろよ今時、飼い主)新鮮な悪臭を放つ触りたくもないものに、どこからともなくやってきて作業を開始していた。つまり犬のフンにも来るんだよ。

 

  子供のころ、カブトムシとかミヤマクワガタとか男の子が好むメジャーな格好のいい甲虫よりも、図鑑でしかみたことはないけれど、ちょっと変わった虫に心惹かれた。このセンチコガネもそうだが、もっと心をひきつけられたやつがある。本宮の教員住宅の書棚に父が置いてあった子供には本格的に見えた、挿絵がちゃんとカラーで丁寧に描かれた図鑑の中に、死骸に集まる昆虫として描かれていたヤマトモンシデムシの模様とフォルムに魂を射抜かれた。そこに描かれていたヤマトモンシデムシのフォルムはカブトムシのメスそのものだった。こんなカブトムシが、背中の硬い羽(鞘翅というらしい)の模様がまるでテントウムシのように赤くて、そいつがあろうことに、ネズミの死骸にくるんだとさ。挿絵には見事なネズミの死骸が描いてある。不思議だ。ネズミを食う赤いカブトムシ。こんなもんがどこかにはいるのか?会ってみたい。他の図鑑を見ると、こういった虫の捕まえ方として、広口の瓶に肉とかを入れて、森のなかに埋めて置く。開口部はふさがない。瓶の落とし穴だ。そんなことをすればこれが捕まえられるのか!! 幼かったので、これを実現しないで想像だけしてみていた。後になって、あの図鑑の挿絵は嘘で、現実のヤマトモンシデムシのフォルムはシデムシ特有の、鞘翅が短めで尻がはみでてしまっている、ハネカクシとかにちょっと近い気色悪系のものだと知った。大人になってからか実際に見る日もあったが、本当にあのカブトムシフォルムはやりすぎだった。

 

  子供の頃を思うとみんなが愛でるカブト・クワガタに目もくれず、僕はマイマイカブリにオサムシ、マツモムシ、マニアな虫にばかり心惹かれた。そういう遺伝子があるのかしらんが、小学校の孫娘も虫がすきで、しかも一番好きなのはダンゴムシ(昆虫ですらない)なのだそうだ。庭にダンゴムシの家を作ってくれたりする。あれがでかくなったのはダイオウグソクムシという深海生物で、そっちも彼女は大好きだ。現物は水族館でしか見たことはない。まるでオウムの子供のようなグソクムシ。あれを後ろ手に隠して、大人たちから

 

 ---- ナウシカ 出しなさい

 

 と取り上げられるナウシカのセンスが孫には芽生えている。きっと巨神兵による地球の破壊が終わっても生きていてくれるだろう。

 

(注)フンをころがして育児球という球を作って産卵するらしい。見たことは無い。ファーブルの研究したフンコロガシのつくる球は見事に丸かったり、洋ナシ型だったり、造形に気合が入っている。