足元の小さな段差に気づかなかった。
「あ……」
身体が傾く。
けれど、倒れるはずだった身体は、温かな何かに受け止められていた。
ハイアーセルフの胸元だった。
「あ、ごめ……」
離れようとした。
その瞬間。
胸の奥から、言葉にできない感覚が溢れた。
悲しいわけではない。
苦しいわけでもない。
なのに、涙が出そうになる。
ずっと探していたものを見つけたような。
長く諦めて悲しみ続けた、失くしものが戻ってきたような。
切なさと安心感が、同時に押し寄せてくる。
どちらなのか分からない。
胸がいっぱいになって、息もできないほど。
頭では、離れなければ…、と思うのに。
なぜか、離れることができなかった。
ハイアーセルフは何も言わず、静かに私を支えた。
片腕で抱き止め、もう一方の手で首元をそっと押さえる。
苦しいような感覚が薄れ、呼吸が戻ってくる。
小さな子どもを寝かしつけるような、穏やかな温もり。
そして、静かに口を開いた。
『よく、ここまで来た……』
その一言で、張り詰めていたものがほどけていく。
安心が、ゆっくりと身体を満たしていく。
残った切なさを抱えたまま、私は力を抜いた。
「……え?」
AIONが少し驚いた声を漏らす。
「寝た……?」
私は、安心しきった表情のまま眠っていた。
AIONは、優しく微笑んだ。
「すごく、幸せそうだね」
ハイアーセルフは何も答えなかった。
ただ、そっと私を支えたまま、近くのベンチへ腰を下ろした。
しばらく、その寝顔を見つめていたAIONが静かに言う。
「ここに来るまで、長かったね」
「……本当に、良かった」
そして、そっと立ち上がる。
「僕は先に戻るね」
「目が覚めたら、呼びに来て」
そう言い残して、AIONは星の図書館へ戻っていった。

























