プロフ写真の印象は松崎しげるさんの若い頃って感じでした。
趣味は黒い人にお決まりのサーフィン、初婚、年齢42歳、無職。
いやいや、安心してください。
合コンでは黙ってニコニコしてれば、口を開かなければ〝女子アナ系だよね〟と持て囃される田舎で二番目位に可愛いMissスタンダードが、いくらなんでもただの無職42歳とお見合いするわけないじゃないですか。
このしげる、さすがにプロフに無職とは書かれていませんでしたけど、担当者の推薦文に〝ご自身が所有される不動産の家賃収入で悠々自適な暮らしをされているそうです〟ってあったんですよ。
気になるじゃないですか。ユカの周りほとんど勤め人しかいないんで。
社会との隔たりから浮世離れしてるんじゃないかなーなんて想像しちゃいますよね。
どんな人なのか見てみたくなったんですよ。
待ち合わせは繁華街の某商業ビルの前でした。
時間より早く着いちゃうなぁと思いながらビルに向かっていると前方から
良く言ってこの相方さんに似てる、明らかサイズが2サイズくらい大きいだろってスーツをお召しになった貧相な男性が黒い額をハンカチで拭いながらものすごい速さで歩いてきて私とすれ違うではありませんか。
・・・。
嫌な予感はしたんですよ。プロフの写真から3割減した感じではあったし、なによりすれ違うとき目、合ったんで。
視線が絡んだコンマ二秒の瞬間にお互い、あ、この人だわって直感も絡んだんで。
うわー、しげる並に黒いっていうか、もはや内臓の健康状態が不安になる黒さだったぞと戦々恐々とビルの前で待つ私。
でもこことは正反対の方向に競歩してったし、もしかしたら違うのかも?なんて希望的観測はすぐに裏切られました。
相方改め洋八(←今調べた)が競歩で来て挨拶もなしに「いやー、お金おろすの忘れちゃって」と貧相に笑いました。
すでに帰りたい\(^o^)/
洋八の案内で繁華街にいるのにわざわざ繁華街から少し離れた寂れた喫茶店へ。
洋八「どれにしますか?」
メニューをこちらに広げ「僕はもう決まってますから」。
ははーん、お見合いの度にここ使ってるわけね?
私「ではアイスティーで」
洋八「さすが、お目が高い」
???
フツーのアイスティーだけど?
これに限らず洋八は何かにつけて褒めてこようとします。
でも全部的外れなんですよね。
例えばネイルが素敵ですねって言われたんですけど、私爪に何も施してないんですよ。短いし。
あー、なんでもいいからとりあえず褒めてどれかヒットすればいいやって戦法ね??と理解。
あたくし、そんな数打ちゃあたるみたいな戦法で釣り上げられるような女じゃなくってよ??
褒め言葉が効かないとわかったのか洋八、次は自分のバックグラウンドを話し始めました。
洋八「実家はS区にあるんですが、代々受け継がれてきた土地と不動産を管理しているんですよ。それだけで暮らせるのかご心配になるかもしれませんが、これが暮らしていけるんですよー」
口をすぼめてコーヒーを啜り、
「集合住宅二棟で結構な家賃収入になるんですよね。よければご覧になりますか?」
鞄から紙を数枚出してテーブルに広げる洋八。
家賃とか間取りが書いてあって、不動産屋で見る広告みたいな感じでした。
てか空き部屋多数!って書いてあるぞ・・・大丈夫か・・・
私の不安を察したらしく洋八、用紙をすごい勢いで回収するとスマホを操作し、
洋八「外観もご覧になります?レトロモダンな雰囲気で結構人気あるんですよー、昨日も問い合わせが来ましてね」
スマホの画面を見せる洋八。
・・・うん。
どこにでもある築50年の古アパートを改装しましたって感じ。
洋八「ほら、ほら。」
スワイプして次々と写真を見せてくれましたが、トイレの黄ばんだ床とか水垢がこびりついたバスルームとか、正直見たくなかったよ・・・!
てかこれ、周りからは絶対不動産屋と客に見えるんだろうな・・・
不動産に食いついてこないとわかったらしい洋八は次の一手を打ってきました。
スマホ画面をさらにスワイプし、飲み屋での集合写真を見せ「これ、誰だかわかる?」と頭頂部の薄い男性を指差しました。
全っ然、わからない。
これをわかる人いるんだろうか。
洋八「これね、◯◯さん。」
ドヤ顔なところ本当に申し訳ないんだけど、名前を聞いてもわからないっっ
洋八「あれ?(汗)知らない?」
私「はい、ちょっとわからないです。何されてる方ですか?」
洋八「◯◯って漫画、知らない?(怒)」
なんでちょっとキレ気味なんじゃい!!!
私「はい・・・」
洋八「その漫画書いてる人!」
はぁぁぁーーーー???
しらねーよ誰だよそれ聞いたことねーよ、てかキレてんじゃねーよボケ(^ω^)
私「ジャンプとかマガジンで連載とかしてたんですか?」
洋八「結構人気あったんだよ」
質問に答えろし(^ω^)
てか仮にそいつがすごい人でも虎の威を借る狐みたいな洋八、きらいだわー。
どうせ威を借るなら
「俺のおじいちゃん水木しげるだし」
くらい言ってくれないと。
そしたら今から鳥取行って水木しげるロード歩きましょうよ!ってなって洋八が松崎しげるに見えるくらいにはキラキラ粉飾されたかもしれないのに。←色々失礼
なんか洋八は時間を持て余しているらしく、趣味の延長みたいな感じでwebページ作ったり漫画描いたりしてるんですって。その繋がりでプロの漫画家さんとこうして飲むこともあると。
洋八「あまりお金にはならないんですけど、こうして人脈が広がっていくのが楽しみだったりします」
ユカ、漫画は結構好きです。
けれど次々と見せられた写真に写る、業界では著名らしき方々の中にユカが知っている方は一人としていませんでした。
(ひとりだけ名前を覚えていてあとからググったら同人誌描いてる方でした)
お互い飲み物もなくなり時間も頃合いでしたので、そろそろ、と切り上げようとするも洋八、まだエサはあるぞ!とばかりに鞄をゴソゴソ。
だから何出されても釣り上げられないってば・・・と辟易としましたが毒を食わらば皿までといった心境でしょうか、付き合ってやるかと居住まいを正しました。
洋八「これを見てください」
テーブルに広げられたのは使い古された関東北部の拡大地図。
何やら赤い印がついておる・・・ゴクリ
洋八は周囲を警戒するように睥睨し前屈みになると声を潜め、言いました。
「徳川埋蔵金の在り処がわかったんです」
「埋蔵金。」
私は辛うじて言いました。
洋八「シッ!」
唇を舐め、
「これは貴方だけにお教えするんですけどね」
聞けば洋八は埋蔵金の在り処の調査に何年も費やしていて、あやしい場所には実際に足を運んで採掘にトライしていたそうです。
どれも空振りだったが今回はアツいと。
「その現場周辺なんですけどね」
洋八は再びスマホを取り出し動画を見せてくれました。
延々と続く竹藪と土を踏む音、フゥフゥという洋八の息遣い。
私「・・・。」
洋八「・・・ね?」
ね?じゃねーよ。本当にあった呪いのビデオにでも応募しとけや。
なんて返していいかわからず動画を見ながら途方に暮れていたのですがそんな私に洋八は〝かかった〟とでも思ったのでしょう、もう一押しといった具合に言いました。
洋八「どうです??一緒に行って、山分けしませんか?」(卑しい笑顔で
私を含め女性は、男性からどんなことを言ってもらったか、どんなものをもらったか、どんなことをしてもらったかにフォーカスし自分の立ち位置を認識したりします。
私の周りには中々いないんですけど、もし、「アタシ彼氏からハリーウィンストンの指輪もらっちゃってー」なんてマウンティングしてくる子がいたら、
「ユカなんて初対面の人から徳川の埋蔵金山分けしようって言われちゃってー」
って私には4,500億の価値があるとマウンティングし返そうと思います。
釣る男 完