今回も読ませますね。


「砂に埋もれる犬」はネグレクトされた幼い兄弟の話。


桐野夏生は心の機微を書かせたら1番じゃないかな。


今回の新作「燕は戻ってこない」


主人公リキは、

北海道の田舎出身で、

東京に出てくれば…と夢を抱いて

上京するが。

わずかの蓄えは底をつき、

毎月カツカツの生活の病院で働くの派遣社員。


そこから抜け出す希望は持てない。

同じようにカツカツの同僚テル(リキより酷い、大卒だが借りれるだけ借りてしまった奨学金の返済で、風俗のダブルワーク)から、

卵子を売る?いいバイトがあると聞く。


ものすごくリアル。

派遣社員ってことは、ボーナスは無い。

手取り20マン?も無い中で

東京の家賃払って

数万円の生活費。

余裕なんて無いだろう。


余裕のない暮らしがじわじわと

精神にも影響を及ぼしてくる。


かたや、東京に代々住んでいて、

家賃を払わなくてもよくて、

給料は全部自分で使える人もいる。


そんな時、”代理母出産”というビジネスで高額な報酬が得られると知る。

1発逆転でそこに賭ける。

しかし子宮を貸して、

ビジネスと割り切るには

人の心は簡単ではない。

自分の良い遺伝子をどうしても残したい優生志向の男、

値踏みされるように主人公リキは

絡め取られていくが…というお話。


面白かった。

桐野夏生は、

女の生き方というものを一貫して書いていて、

OUTや魂萌えも素晴らしかった。

(OUTは、田中美佐子で、魂萌えは、高畑淳子でドラマ化)

心理描写が巧み。


お金のために割り切って代理母をすることに決めるが、

子どもの産むまでの期間「清廉潔白」を求められたり、

監視されそうになったり、

大金をもらっているんだからとは、

割り切れない感情が色々湧き上がってきて。


命を繋ぎたくても繋げない人は

お金があれば

いくらでも自分の命を繋ごうとする。

怖い。究極の欲望だと思った。


主人公リキはどこにでもいるような普通の人。

田舎にいて、一生結婚できなかったと

死ぬまで悔い続けた叔母みたいにならないように、

上京した。

田舎にいれば、結婚して子ども産めば

誰さんの奥さん、お母さんって大きな顔をできる。

結婚できなきゃ結婚できなかったと一生言われる。


そんなのが嫌で上京するけど、今度は食べることしかできない日々が余裕を失わせる。


健康な体だけが自分なりの

利器。(リキ)

代理母になることを決心し、

裕福なクライアントから、

大金を受け取り、

リキは、

余裕のある暮らしができるようになる、

そうすると、色々なことが見えてきて。

というお話。


面白かった!

ほんとに。


結婚、出産、性行為、格差、というものが、

未婚、既婚、貧困、裕福な生まれ、

色んなタイプの女性が出てきて、

でもそれぞれの立場になると悩みがある。


いつのまにか、主人公の気持ちになって、

真剣に読んでいた。


最後の結末は、びっくりしたけど、

リキは成長した。と思えた。


お母さんになって。


赤ちゃんってのは、尊い。


先しかないから。