ピアノの上でずっと時を刻み続けてくれたのは、黒い細長い台形で頭の部分が丸くなった形の時計だった。それは確か三十年ほど前に知人からプレゼントされた物で、振り子の先の可愛らしい人形がたえず動いていた。私は日に何度その時計に目をやったことだろう。無くなった今も、つい癖でそこを見てしまう。

「ああ、あの時計はもう壊れたんだ」

 時計があった場所は空いて、何か物足りなく、物淋しいままになっている。

 

 実は一月ほど前だったろうか、私はふとこう思った。

「この時計、もういいかな。ずい分長いこと働いてもらったし、ちょっとデザインも子どもっぽいし、何か他の時計にしよう」

 そう思った次の日、時計が止まった。

「あれ、電池切れかしら」

 一応私は電池を新しい物に換えてみた。だがもう動くことはなかった。

「壊れた」

私がもう要らないと言った途端、時計にその言葉が聞こえてしまったようだった。私がそう思わなければきっとこの時計はまだ動き続けられたかもしれない。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。