ある企業のトップにいる人の話です。「1つのミスや落度によって、それまで積み上げてきた100の信用をまったく失ってしまう事がある。だから常に緊張感を持って仕事に当たるように」。

 

確かに、1つのミスや失言がすべてを台無しにしてしまう事があります。信用や信頼を失い、取り返しのつかない事態になってしまった事件を、私たちはいくつも見ています。だから普段から「気のたるみ」や「不用意な言葉」のないように常に気をつけている必要があるでしょう。

 

しかし、悪意ある第三者からの行為によって信用を失墜させられてしまうこともあります。また、防ぐことが困難な理由によって起きる事故もあるでしょう。それらによって、それまで積み上げてきた「100」はいきなり「0」になってしまうのは、とても残念です。

 

人の過失を非難することは簡単です。何か事件が起きた時、世間は蜂の巣を突いたように非難を浴びせ騒ぎます。でもそれがもし自分が非難される立場だったらどうでしょうか。心ない言葉や社会的制裁で苦しむのは、どれだけ辛いでしょうか。


批評と非難は別です。どうしたら同じ過ちを犯さないかを反省し、改善することは必要です。一方的な見方ではなく、様々な角度で点検・確認することや、第三者の視点を取り入れることも、過失を防ぐ方法でしょう。

 

インドでは親が子どもにこう言い聞かせるという話を聞きました。「人は迷惑をかけてしまうものだから、誰かが過ちを犯したとき、その人を許してあげなさい」

100から1が欠けた時、残りはまだ99あるという冷静な判断があって欲しいと思います。やっぱり0になってしまったと思える時は、新たなスタート地点に立ったと考えることも落ち込まない秘訣かもしれません。


人はもともと過ちを犯し、事故は起こってしまうものと認める、大らかな気持ちと懐の広さを持ちたいと思います。そして安易に非難の輪に加わることが、どれだけ人を傷つけているか理解していたいと思います。

 


心に響く言葉

   幸福というのは、近い将来を見つめる視線にあるのではなく、

どこか現在自分が生きていることを うしろから見ている視線のなかに

含まれるような気がするんです                吉本隆明