「ノルマ」「数字のツメ」「宴会芸」……。厳しいイメージがつきまとう「営業職」。就活生から不安の声も聞く。実際はどうなのか。金融機関や旅行会社など、営業の最前線を経験した社員たちから覆面で話を聞いた。涙なしでは語れない、つらさとやりがいを語る営業戦士たちの座談会をお届けする。
■数字の未達は「ありえない」
――営業といえばまず頭に浮かぶのが「数字のノルマ」ですが、どんな単位で達成を求められるのですか?
元大手証券Aさん 私の部署の場合、ノルマは営業職一人ひとりの個人についています。評価の対象は、もちろん売上高もあるけれど、なんといっても手数料収入の成果でしょう。本部から支店に下りてきた予算を、さらに現場の責任者が営業職個人に割り振っていくんです。ただ、そのわりふりがどうやって決まったか、という説明はほとんどありません。
大手不動産B君 現場の物件の戸数を個人にわりふってノルマを決めています。均等割りではなくて、経験が長い人はその分ノルマが多いですね。自分の売った戸数が成果。月次の給与は変わらないが、ボーナスは変わってきます。
旅行会社Cさん 成果は給与にほんの少し反映されるだけで、ノルマを達成してもしなくても、もらうお金はほとんど変わらないな。ただ、気持ちの面でだいぶ違う。達成できないと会議で問い詰められるし、暗い気持ちになる。
――数字を達成できているか問いただす、いわゆる「ツメ」は相当厳しいと聞くけど、実際は?
元採用代行Dさん ウチでは毎朝9時の朝礼で今日の目標をいうことになっています。「今日は5件アポを入れます」と宣言したら、その目標を達成できない、という選択肢はありえません。夜に終礼があるが、そのときに1人1人、今日の成果を話すのです。達成できていないとみんなの前で「申し訳ありませんでした、今日はこういう目標を立てたのに達成できませんでした」とまず謝罪。その場にはかなり上の人もいて、その場でめちゃくちゃ怒られる……。これが本当につらかったです。
大手航空E君 部員の売り上げた数字は月に1度の部会で発表されます。もちろん他人の数字も見ることができる。本当に緊張するよね。注目されるのは目標の予算に到達したか否か。90%でも未達は未達です。
大手不動産B君 うちの場合は、理屈もなく「この数字やれ」みたいなことはないな。むしろ売るときのロジックがしっかりしているかを詰められますね。例えば、「年収はそこそこ、子供のために家を買いたい、家を買う想定予算が低めで2LDKが適正くらい」というお客さんが来たとします。慣れていないとまず予算から考えてその条件に合う2LDKを売ろうとする。それでは絶対買ってくれない。
そういうお客さんには「まず何のために家を買うのか?」という話から入って、「子供のためでしょ?2LDKじゃ意味ないでしょ?」と分からせて3LDKを薦めたほうが成果につながりやすい。そういう理路を話し合う。理不尽ではないが自分のやり方を否定されるので、それなりにつらいと思う。
元大手証券Aさん ツメが特に厳しいのは、自分の会社が新規の株式や債券など有価証券の幹事会社になったときですね。「○億円うちが引き受ける」と約束した金額を達成できないとなると、証券会社にとって大きな恥になりますからね。
当然、本部から支店に与えられた金額が「未達」になることはありえない。さらに個人にわりふった予算(ノルマ)に対し、募集締め切り日の数日前でも「あと○万円つまっていない」となると上司に呼び出され、「Aさんに◎円、Bさんに△円、Cさんに□円」と細かく記載した販売計画書を提出しなければなりません。
この時点でお客さんから「絶対買う」と約束してもらっているわけではないし、当然確証はありません。それでも「本当にできるの?」といわれて「できない」と答えればまたやり直しになるだけ。だから「絶対にやります」としか言えません。
計画が達成できなければ厳しく「ツメ」られます。個室に呼び出されてツメられるか、立った状態で皆の前でツメられるか。どちらもつらいですね。個室から「やれっつってんだろうが!」と椅子を蹴飛ばす音が聞こえることもありました。最近はあまりないけど、数年上の先輩で上司からおなかを蹴られた人もいました。
■断られるのには慣れる
――お客さんとの関係も大変でしょう? 営業で断られたり、トラブルになったり……。
旅行会社Cさん 入社当時はいわゆる飛び込み営業でした。営業をかけるエリアを決めて、そこにある企業を調べて訪問する。20~30件に1件、話を聞いてくれる程度で基本的にはあっさり追い返されます。
今はオフィスビルも警備が厳しくて入りにくくなっているから、電話でのアポ入れが主体です。大体「担当者が分かってないならおつなぎできません」と断られますね。ただ、断られるのには正直言って慣れました。今は「しょうがないかな」という感じであまり気にしてませんね。
ネット広告大手Fさん 私のミスでクライアントに謝りに行き、相手をさらに怒らせたことがあります。そのときジャケットの前ボタンを開けっ放しにしていたために「前ボタンを開けて謝るなんて、本当に謝る気があるのか」と怒鳴られました。メールの返事を翌日にしただけで、相手に怒られてしまったこともあります。私のいるインターネット広告の世界は速さ命なので。
大手不動産B君 買ってくれると思っていたお客さんが離れるとつらいですね。不動産を買うときのお客さんの判断材料は「お金」「エリア」「タイミング」の3つ。これがある程度そろっているお客さんを落とすため、最後の一押しのために「お金」の条件を下げる、つまり値下げをすることがありますが、あくまで最終手段。基本的に押せば売れると思ったときにしか値下げはしません。
先日、面談を12回×2時間くらいしていたお客さんに値下げを提案したのに、「やっぱり決められない」と断られてかなり参りましたよ。
元大手証券Aさん 先輩から引き継いだお客さんに「なんでこんな商品を買わせたんだ」とひたすら怒鳴られたことがあります。確かにわけのわからないことで文句をいうお客さんもいますが、たいていは営業側がきちんと説明しないで「これいいですよ」と気が進まないお客に買わせていたケースが多いんじゃないかしら。
――女性で営業は正直いってキツいですか?
ネット広告大手Fさん 私は最初は形から入りましたね。茶髪を黒髪に戻して、かっちり結んだり、メークも男性に好感を持たれるようにばっちり決めたり。でもどうも違うなと。結局、私には誰からもそういうことを求められていないとわかり、夏ごろには身なりには気にせず自然体でいるようにしました。
私は泣いたことは一度もないし、女の武器を使おうという気にもなりません。
飲料大手Gさん 正直、女性が営業を続けられるかどうかは、会社や職場環境によると思う。前の会社(マスコミ)では無理だと思って転職したけれど、今の会社では営業でも産休や育休を取っている人はとても多い。チームも「時短の人がいるから、多く仕事が割り振られて迷惑」という雰囲気はありませんよ。
元採用代行Dさん:私は先輩から嫌われていたんだと思うんですが、「おまえはかわいげがないから商品が売れないんだ。かわいげが出るように、同僚の男に『買ってくださいよ』とブリッコの練習をしろ」と何度もいわれました。チームにはほかにも同期の女の子がいたのに、練習をさせられたのは私だけ。皆がちらちら見るなか、何度もブリッコの練習をさせられ苦痛でした。上の人も特に注意をしなくて……。その先輩が営業成績を上げていたからだと思う。
■営業の魅力は創意工夫
――後輩に営業職を薦めますか?
ネット広告大手Fさん もちろん。やって損はない仕事です。他の職種はどうかわからないが、営業は数字でもろに表れる。頑張れば頑張った分だけ報われるし裏切らない。
大手不動産B君 営業の面白いところは、お客さんにいい情報ばかり伝えてもうまくいかないところかな。あえて悪い情報を出すことで「こんなことまで言ってくれるんだ」と思ってもらうこともできるでしょ。不都合なことも武器になるわけです。
「こういう仕事、僕はむいていないんです」という後輩もいたけど、「お前つまんねえやつだな。とりあえず飲め」といってやりましたよ。
旅行会社Cさん 採用面接をしたことがあるんですが、「商品企画をやりたいです」という学生がとても多いですね。確かに旅行会社には商品企画の専門部署があります。だけど要は旅行のパンフレットを作るところ。営業だったら自分の取ってきた仕事のプランを作るわけだから、個々の旅行で商品企画を作ることができるわけです。そのあたりを踏まえずに「企画やりたい」といわれても、ただ仕事をえり好みしているだけだな、と思ってしまう。
元大手証券Aさん 資産を預けてくれたお客さんから、「(あなたが薦めてくれた)この商品を買ってよかった」と言われることほどうれしいことはありません。もちろん「これを売れ」という会社の意向もあるけど、自分なりにこの商品がこの人にとってよいのではないか、と考えて創意工夫し、付加価値をつけて営業するのは楽しいことです。
転職した先で「どうせ証券会社なんておじいちゃんおばあちゃんをだまして売ってたんでしょ」といわれることがあるけど、それは違う。本当に自分がいいと思わないと商品は売れないし、それはお客さんも見抜いているんです。
参考URL:http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86464920X00C15A5000000