中国人民銀行(中央銀行)の19日の預金準備率引き下げは、下げ幅を一般的な0.5%刻みではなく、1%と一気に拡大したことが特徴だ。これまで海外から流入していた投資資金も逆流し始めており、中央銀行として国内の流動性の水準を維持し、減速感が強まる景気を支えていく姿勢を改めて鮮明にした。

 「中国の金融状況は安定しているが、景気は下押し圧力に直面している」。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議などに出席するため訪米していた人民銀の周小川総裁は18日、中国国営新華社にこう答えた。

 1~3月の実質成長率が前の期から0.3ポイント鈍化し、7.0%となったことについて、中国当局者は「想定の範囲内」と口をそろえる。最近は住宅ローン規制の緩和を受け、北京など一部の大都市で住宅取引が持ち直す兆しも出てきた。

 だが、今回の1%の引き下げ幅には、当局の危機感がにじむ。中国の金融政策の主要な手段である預金準備率の調節では、リーマン・ショック直後の2008年12月に1%の引き下げを実施したことがあるが、通常は0.5%ごとに上げ下げするのが一般的だからだ。

 米国の利上げ観測もあって、中国から海外に資金が流れ出ていることも今回の追加緩和を後押しした。今年3月末の通貨供給量(マネーサプライ、M2)は前年同月比11.6%増と、政府が今年の目標とした「12%前後の伸び」を下回った。人民銀はその理由の一つに、海外資金の流入が細っていることを挙げる。

 実体経済に回るお金が滞り、成長率が政府の今年の目標である「7%前後」を大きく下回れば、雇用に不安が広がる恐れが生じる。金融制度などの構造改革が頓挫する可能性があるだけに、この時点で景気を安定させる当局の意思を改めて明確にする必要があった。

 預金準備率は1%下げても、なお20%近い高い水準にあり、中国政府は「景気の変動に対する政策対応の余地は大きい」(関係者)とみている。中国指導部は当面、鉄道などのインフラ整備と金融緩和で景気を下支えし、構造改革を進めるための時間を稼ぐ構えだ。

参考URL:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM19H0Z_Z10C15A4FF8000