■消費増税、意外と強気派も
2月決算企業が多く、先行して決算発表をした小売大手では消費増税の影響を危惧する声が目立った。家具チェーン最大手のニトリホールディングスの似鳥昭雄社長は「4月以降の落ち込み額は駆け込み需要の2倍くらいになる。倍返しだ」と危機感をあらわにした。駆け込み需要で3月は家具の販売が前年の2倍のペースで伸びた半面、「山が高ければ、谷はより深くなる」と一言。高島屋の木本茂社長は「(増税後の)高額品の落ち込みは想定以上に膨らむ可能性がある。夏ごろまでに消費が完全に復調するのは難しいのではないか」と厳しい表情をみせた。
イオンの岡田元也社長も「電力料金の値上げなど生活コストの上昇を補うすべを持たない年金生活者の方々などは苦しくなり、日用品、消耗品の節約に向かう。そうなった時に増税で3%分高くなったものが売れるかが問題だ」と先行きを心配していることを隠さなかった。
それでも耳を澄ませると意外と強気の声も聞こえてきた。「今期は思いっきり強気にすすめていきたい」。前期に5期ぶりに最終減益となったしまむらの野中正人社長は「景気回復は鮮明になっており、ベースアップで消費マインドもプラスに働くことが期待できる」と前向き。消費増税を商機につなげようとする経営者も多く、「倍返し」を心配するニトリの似鳥社長は「増税は寡占時代の幕開けにつながる。商品力の高い企業は増税後の回復も早いだろうが、特徴のない企業は悪影響が膨らむ。弊社にとってはシェアを拡大する大チャンスととらえている」と付け加えるのを忘れなかった。製造業からも「受注は(増税前の)90%弱の水準にまで回復。増税の影響はあるものの軽微であると認識している」(ホンダの岩村哲夫副社長)との声もあった。
セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長は「約20年にわたってデフレが続いてきた背景には、小売業界でも安くなければ売れないという風潮が広がっていたことがある。商品開発で消費を喚起することが我々の使命だ」と企業努力の重要性を強調していた。
■円高からの解放、製造業に明るさ
前期の利益拡大の一因は円安だ。円高の苦境から解放された製造業からは久々に強気な声が戻ってきた。連結最終損益(米国会計基準)が1204億円の黒字に浮上したパナソニックの津賀一宏社長は「住宅や自動車関連が伸び、中期経営計画1年目としては想定以上の滑り出し」と手応えを隠さない。ここ数年、薄型テレビ事業での損失など苦戦が続いていたが、「前期は住宅、自動車関連ともに10%ほど売上高を伸ばすことができた。19年3月期にはそれぞれの売上高を2兆円に引き上げる目標だが、(達成に向けた)ハードルは下がってきている」(津賀社長)と自信も取り戻した様子だ。
三菱自動車は前期の純利益が前の期の2.8倍に。益子修社長は「今期の営業利益は中期経営計画の最終年度(17年3月期)の2年前倒しを目指す」と話した。「これまではコスト削減に力を入れてきたが、今後は商品力の強化にぜひ取り組みたい。特に中国では日本の環境技術への期待が高い」と電気自動車(EV)などでの中国市場の掘り起こしに意欲を示した。
ただ前期業績を押し上げた円安効果は今期は薄れ、真水の収益力が問われる。円高が進んだ5月7日は日経平均株価が急落する場面もあった。トヨタ自動車の豊田章男社長は「(前期の)円安効果はもちろんあるが、過去最高益だった08年3月期と比べると前期はまだ円高。こうしたことを原価改善の努力、営業面の努力で補った」と説明。「競争力をより強くする、将来に花開くための投資をする」と成長に向けた努力を怠らないことを強調するのも忘れなかった。
■「スマホ景気」悲喜こもごも
スマートフォンを巡って企業の明暗も鮮明になった。通信大手では前期決算は大きな節目となった。ソフトバンクの連結純利益(国際会計基準)が初めてNTTドコモ(米国会計基準)を上回った。孫正義社長は「英ボーダフォン日本法人を買収した初日の発表の場で、10年以内にドコモを抜くことができなかったら腹を切ると決意表明した。当時そこにいた人の中でまともに信じた人はいなかったと思うが、戦略と覚悟があった」「努力の差が結果となった。感慨深い」
NTTドコモの加藤薫社長は「スマホはまだ高価なのでより買いやすいような新料金プランを策定して利用者を増やし、効率的に販売を拡大していきたい」と話す。将来の成長分野として期待していたインド事業からの撤退も迫られており、成長戦略の練り直しを迫られている。
ここ数年、急激な勢いで拡大したスマホ市場も踊り場を迎えつつある。「国内でこれから利益を倍増させるのは簡単ではない」(ソフトバンクの孫社長)。部品メーカーの村田製作所は今期の連結純利益の伸びが鈍ると予想。村田恒夫社長は「通信関連が足元ですぐに悪くなるとは考えていないが、経営の安定という視点で考えると、(通信以外に)自動車やヘルスケア部門を伸ばしたい」と先手を打つ構えだ。
■やっぱり心配なのは中国景気
株式市場では中国や米国の景気の先行き不透明感を危惧する声も多いが、京セラの山口悟郎社長は「情報機器関連が大きく伸びているのは主に海外の市場だ。中国をはじめとする新興国や欧州でも売れている」と懸念を一蹴。引き続き新興国の成長に期待をかける。一方、JFEの岡田伸一副社長は「輸出市況は中国の供給過剰が続いており、当分この状況を抜け出せないだろう」と話す。三井物産の飯島彰己社長は今期のリスク要因としてウクライナ情勢の緊迫化などを挙げながら「一番大きいのは、この先中国経済がどう動くのか」と述べた。
こうみてみると、今期は増税や円安一巡など不透明要因も多いが、総じて企業は経営努力で乗り越えようと前向きだ。問われるのは飛躍に向けた次の一手。企業買収を重ね、企業規模を拡大してきた日本電産の永守重信社長は「今期もやる。前々期は7社、前期は2社だったが、今期も数社手掛けるだろう」「M&A(合併・買収)の基本は時間を買うこと。新しい会社をどんどん買って、成長を急ぐ」と迷いがないようだ。NECの遠藤信博社長は「今年度は東京五輪関連やマイナンバー制度に関連したインフラ投資も見込まれ、非常に重要な年度と考えている」と勝負の年と宣言した。
さて1年後の今期の決算発表を笑って迎えられる企業はどれくらいあるだろうか。
参考URL:http://www.nikkei.com/markets/kigyo/management.aspx
2月決算企業が多く、先行して決算発表をした小売大手では消費増税の影響を危惧する声が目立った。家具チェーン最大手のニトリホールディングスの似鳥昭雄社長は「4月以降の落ち込み額は駆け込み需要の2倍くらいになる。倍返しだ」と危機感をあらわにした。駆け込み需要で3月は家具の販売が前年の2倍のペースで伸びた半面、「山が高ければ、谷はより深くなる」と一言。高島屋の木本茂社長は「(増税後の)高額品の落ち込みは想定以上に膨らむ可能性がある。夏ごろまでに消費が完全に復調するのは難しいのではないか」と厳しい表情をみせた。
イオンの岡田元也社長も「電力料金の値上げなど生活コストの上昇を補うすべを持たない年金生活者の方々などは苦しくなり、日用品、消耗品の節約に向かう。そうなった時に増税で3%分高くなったものが売れるかが問題だ」と先行きを心配していることを隠さなかった。
それでも耳を澄ませると意外と強気の声も聞こえてきた。「今期は思いっきり強気にすすめていきたい」。前期に5期ぶりに最終減益となったしまむらの野中正人社長は「景気回復は鮮明になっており、ベースアップで消費マインドもプラスに働くことが期待できる」と前向き。消費増税を商機につなげようとする経営者も多く、「倍返し」を心配するニトリの似鳥社長は「増税は寡占時代の幕開けにつながる。商品力の高い企業は増税後の回復も早いだろうが、特徴のない企業は悪影響が膨らむ。弊社にとってはシェアを拡大する大チャンスととらえている」と付け加えるのを忘れなかった。製造業からも「受注は(増税前の)90%弱の水準にまで回復。増税の影響はあるものの軽微であると認識している」(ホンダの岩村哲夫副社長)との声もあった。
セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長は「約20年にわたってデフレが続いてきた背景には、小売業界でも安くなければ売れないという風潮が広がっていたことがある。商品開発で消費を喚起することが我々の使命だ」と企業努力の重要性を強調していた。
■円高からの解放、製造業に明るさ
前期の利益拡大の一因は円安だ。円高の苦境から解放された製造業からは久々に強気な声が戻ってきた。連結最終損益(米国会計基準)が1204億円の黒字に浮上したパナソニックの津賀一宏社長は「住宅や自動車関連が伸び、中期経営計画1年目としては想定以上の滑り出し」と手応えを隠さない。ここ数年、薄型テレビ事業での損失など苦戦が続いていたが、「前期は住宅、自動車関連ともに10%ほど売上高を伸ばすことができた。19年3月期にはそれぞれの売上高を2兆円に引き上げる目標だが、(達成に向けた)ハードルは下がってきている」(津賀社長)と自信も取り戻した様子だ。
三菱自動車は前期の純利益が前の期の2.8倍に。益子修社長は「今期の営業利益は中期経営計画の最終年度(17年3月期)の2年前倒しを目指す」と話した。「これまではコスト削減に力を入れてきたが、今後は商品力の強化にぜひ取り組みたい。特に中国では日本の環境技術への期待が高い」と電気自動車(EV)などでの中国市場の掘り起こしに意欲を示した。
ただ前期業績を押し上げた円安効果は今期は薄れ、真水の収益力が問われる。円高が進んだ5月7日は日経平均株価が急落する場面もあった。トヨタ自動車の豊田章男社長は「(前期の)円安効果はもちろんあるが、過去最高益だった08年3月期と比べると前期はまだ円高。こうしたことを原価改善の努力、営業面の努力で補った」と説明。「競争力をより強くする、将来に花開くための投資をする」と成長に向けた努力を怠らないことを強調するのも忘れなかった。
■「スマホ景気」悲喜こもごも
スマートフォンを巡って企業の明暗も鮮明になった。通信大手では前期決算は大きな節目となった。ソフトバンクの連結純利益(国際会計基準)が初めてNTTドコモ(米国会計基準)を上回った。孫正義社長は「英ボーダフォン日本法人を買収した初日の発表の場で、10年以内にドコモを抜くことができなかったら腹を切ると決意表明した。当時そこにいた人の中でまともに信じた人はいなかったと思うが、戦略と覚悟があった」「努力の差が結果となった。感慨深い」
NTTドコモの加藤薫社長は「スマホはまだ高価なのでより買いやすいような新料金プランを策定して利用者を増やし、効率的に販売を拡大していきたい」と話す。将来の成長分野として期待していたインド事業からの撤退も迫られており、成長戦略の練り直しを迫られている。
ここ数年、急激な勢いで拡大したスマホ市場も踊り場を迎えつつある。「国内でこれから利益を倍増させるのは簡単ではない」(ソフトバンクの孫社長)。部品メーカーの村田製作所は今期の連結純利益の伸びが鈍ると予想。村田恒夫社長は「通信関連が足元ですぐに悪くなるとは考えていないが、経営の安定という視点で考えると、(通信以外に)自動車やヘルスケア部門を伸ばしたい」と先手を打つ構えだ。
■やっぱり心配なのは中国景気
株式市場では中国や米国の景気の先行き不透明感を危惧する声も多いが、京セラの山口悟郎社長は「情報機器関連が大きく伸びているのは主に海外の市場だ。中国をはじめとする新興国や欧州でも売れている」と懸念を一蹴。引き続き新興国の成長に期待をかける。一方、JFEの岡田伸一副社長は「輸出市況は中国の供給過剰が続いており、当分この状況を抜け出せないだろう」と話す。三井物産の飯島彰己社長は今期のリスク要因としてウクライナ情勢の緊迫化などを挙げながら「一番大きいのは、この先中国経済がどう動くのか」と述べた。
こうみてみると、今期は増税や円安一巡など不透明要因も多いが、総じて企業は経営努力で乗り越えようと前向きだ。問われるのは飛躍に向けた次の一手。企業買収を重ね、企業規模を拡大してきた日本電産の永守重信社長は「今期もやる。前々期は7社、前期は2社だったが、今期も数社手掛けるだろう」「M&A(合併・買収)の基本は時間を買うこと。新しい会社をどんどん買って、成長を急ぐ」と迷いがないようだ。NECの遠藤信博社長は「今年度は東京五輪関連やマイナンバー制度に関連したインフラ投資も見込まれ、非常に重要な年度と考えている」と勝負の年と宣言した。
さて1年後の今期の決算発表を笑って迎えられる企業はどれくらいあるだろうか。
参考URL:http://www.nikkei.com/markets/kigyo/management.aspx