勤め先が東京だとは聞いていたが、意外にも、清海とあの離島で出逢ったカメラマンの吉彦とは、家が近かったのだ。
 写真を送ってもらったのを皮切りに、その後もふたりは連絡を取り合い、交際が始まった。交際は、いたって順調だった。
 お互いいい歳だったこともあり、出逢ってから半年ほどで、とんとん拍子に結婚が決まった。あの恋愛成就のパワースポットのご利益は、清海にとってはテキメンであったといえよう。なんせその場で、未来の夫に出逢えたのだから。わざわざ遠方まで、命がけで拝みに行った甲斐があったというものだ。
 清海がひとり娘だったこともあり、吉彦は婿入りし、清海の実家で同居生活を送ることとなった。
 吉彦は、とにかく清海に優しく、残りものには福があるの言葉どおり、幸せで、結婚生活に、なんの不満もなかった。
 唯一気がかりなことは、子宝になかなか恵まれないということだけだった。
 結婚して、丸三年は経つが、いっこうに授かる気配がない。
「なんでウチには、子供が出来ないのかなぁ。
あたしの性格が悪いから、母親失格ってことなのかな・・・」
「清ちゃん、そんなワケないでしょ。
考え過ぎだって」
 吉彦は、清海を気遣い、優しい言葉をかけた。
「あーあ。
もう、不妊治療でもしてみよかっなあ。
あんまり、気が進まないんだけどね。
一度きちんと検査したほうが、良いのかなってね」
「清ちゃんがそうしたいっていうなら、僕は協力するけど、女性の負担は、大きいって聞くしね。
僕、そんなに無理に子供が欲しいって、思ってないよ。
清ちゃんと一緒になれただけでも、充分幸せだしね。
こればっかりは、授かりものだからさ。
子供との縁があれば、いずれ必ず授かると、僕は信じてるんだけどね」
「それもそうだけど・・・」
 吉彦とこんな話題が多くなり、ふたりはいつか揉め始めてギクシャクとし、夫婦間に亀裂が入ることを恐れていた。それでもやはり清海は、他になかなか愚痴をこぼせる相手もおらず、どうしてもこの話題が、思わず口から突いて出てしまうのだった。