聖と望美は、隣の家に住む、物心ついた時からずっとの幼馴染であり、親友であった。ふたりとも、同い年の女の子だったことから、姉妹のように育った。
風呂もいっしょに入ったし、どちらかがどちらかの家で、紛れていっしょに食卓を囲むなんて、日常過ぎて、両家の家族とも、皆珍しいともなんとも思わなかった。まるで、家族そのものだった。
ふたりは、高校も、大学も、同じ学校に進学した。おかげで学生生活は、毎日が楽しくって、仕方なかった。
就職だけは、同じ会社には入れなかった。就職と同時に、ふたりともそれぞれ、会社の近くでひとり暮らしを始めた。それでも、固い友情が、色褪せることはなかった。
それほどまでに、ふたりは、家族同然だったのだ。
ふたりはいっしょに有給をとっては、あちこち遊びに行ったり、旅行に出かけた。
今日は、久々に、海に遊びに来ていたふたりであった。
ピッカピカの海水浴日和で、白い砂浜に、太陽の光が反射した。どこまでも、青く、透き通った海水が、キラキラと水面をたゆらしていた。
ふたりは、大はしゃぎで水着に身をつつみ、海水をかけあい、キャッキャと戯れていた。
「ねぇ、望美、ここの海、透明度高いからさ、シュノーケリングでもして、いっしょに潜ろうよ」
聖が、提案を持ちかけた。
「シュノーケリング・・・。あたし、ちょっと泳ぎに自信ないな・・・。聖、ひとりでやっておいでよ。あたし、ここで待ってるから」
「えーっ、そわなのつまんない!いっしょにやんなきゃ、いっしょに来た意味ないでしょ。ねぇ、望美もやろうよ。泳ぎなんてさ、あたしも大したことないんだからさ。ねぇ、やろっ!」
「えーっ、どうしよう・・・。あたし、ホントにカナヅチだから・・・」
「大丈夫だってば。どうせそんなに、深いところまで、行けやしないから」
「うーん。わかった。やってみる」
聖は半ば強引に、望美をねじ伏せてしまった。
ふたりは、さっそく海の中に潜った。
南国の魚達は、浅瀬だというのに、まったく人間に警戒心を抱いていないのか、優雅に体をくねらせ泳いでいる。
「わーっ、キレイ!」
望美は、感嘆の声を上げた。
「でしょでしょ?ほらね、潜ってよかったでしょ」
聖は、満足気にいった。そして、浅瀬では飽き足らずに、どんどん沖に向かって行ってしまった。
「ねぇ、聖、待って。あんまり深くに行かないで。あたし、ちょっと怖いよ」
「そんなことないって、ちょっとだけよ。深いところの魚の方が、絶対もっとキレイだよ。あたしといっしょなら、大丈夫」
聖は、望美の心配をよそに、どんどん遠くに行ってしまった。
望美は不安を感じつつ、仕方なく聖についていった。
確かに聖がいうとおり、深くへ行けば行くほど、魚達の色合いは、鮮やかを増していた。とても、キレイだった。望美はまるで、天国にいるのではという、錯覚を覚えるほどたった。
そんな魚達の華麗さに、無我夢中で見入っている時だった。聖は、後ろについて来ているはずの、望美がいなくなっていることに、ようやく気づいた。
“あれっ、望美がいない。望美!望美!”
海中で、聖はキョロキョロした。そして泳ぎだし、周辺を慌てて探し回った。
そしてひとしきり探した後、ようやく望美を発見した。しかし望美は、まるで人形かのように、ただただプカプカと、海面に浮いているだけである。
聖は、血の気が一気にサーッと引くのを感じた。
“望美!”
聖は懸命に、望美を地上に連れ戻そうと、必死な形相で望美をひっぱり、泳いだ。
少しばかり、泳ぎには自信があった聖だが、社会人になってからというもの、運動なんていっさいしてこなかったので、日頃の運動不足が祟り、脚がつってしまった。
“やばいっ!”
そこから前に、進まなくなった。
“どうしよう!”
その先は、聖はなにも覚えていない。