ある日の放課後、僕は学校の図書館で、調べものをしていた。
 僕は、この空間が好きだった。だって、ひとりでいたって、違和感なんてないだろ?それに、図書館なんて、ひと影もまばらで、いつもガラ空きなんだから。
 席はやまほど空いていたにもかかわらず、誰かが、僕の隣に腰かけた。
「やっと見つけた。もう、捜しまわったんだから」
 彼女だった。
「ねぇ、里依くん、なにしてるの?勉強?」
と、不意に聞かれたので、僕は小さくこっくりと頷いた。
「里依くんさあ、勉強出来るよね。あたし、そういうひと、尊敬するなあ」
「・・・・・」
 彼女は、私語厳禁が前提の図書館で、一方的に、僕に話しかけた。
「あたしねぇ、特に数学ダメなんだぁ。里依くん、こないだ数学満点とって、先生に褒められてたでしょ」
 無視をし続け、調べものの手を止めることのない僕に向かって、めげずに彼女はしゃべり続けている。大したメンタルだ。
「ねぇ、ここじゃなくてさあ、もっといい場所で、あたしに数学教えてよ。里依くん、それならあたしと、少しはしゃべってくれるでしょ?」
と、彼女は急に僕の手を強引に引き、校舎から引きずり出した。僕はただただ、呆気にとられた。
 自転車置き場まで来ると、僕は彼女の手を離した。
「ちょっと、なにすんの!」
と少々強い口調で、彼女を拒んだ。
「いいから、いいから」
と、彼女は僕の意向に対し、ガン無視を決め込んだ。
“なにがいいんだよ。・・・ったく”
 そして彼女は、僕の自転車の後ろに、勝手に飛び乗った。
「ちょっと、誰が見てるかもわかんないだろ?止めてくんない?下りてくれよ」
 僕は、思わずそういい放った。
「あー、やっと里依くん、人間らしいことしゃべったぁ」
と、彼女はクスクス笑った。
“どうせ僕は、半分人間じゃないよ”
 僕は心の中で悪態をついた。
「で、どこいくの?」
 彼女に聞いた。
 そして、彼女にいわれれるがままに、いつもより重みのある自転車を走らせた。