2月になると、僕は女の子達と口をきいたことがないにもかかわらず、例外にもれず、今年もチョコをどっさりもらった。僕の机の中に、ギュウギュウに押し込まれていた。
 僕は、あまり他の男子生徒を刺激しないよう、コソコソ隠れて、そっと袋にチョコをおざなりに放り込んだ。しかし、その中に、僕が好きでたまらない、あの女の子からのチョコが混ざっていたことに気づいた。
 僕は、胸がどうにまざわついた。なんとか彼女の気持ちに応えたいのはやまやまなのだが、そんなリスクを冒すと、学校を卒業出来なくなるかもしれないという、恐怖が頭をよぎった。そして、すぐに我に返った。僕に恋愛をする資格など、そもそもないのだと・・・。

 しかしそれから、彼女の僕に対する、猛アプローチが始まった。返事などロクにしないのに、彼女は僕を見かけと、必ず、
「里依くん、おはよう」
と挨拶をした。僕は決まってそんな時、頭をほんの少しだけ、ちょこんと下げた。
 わざわざ下駄箱で待ち構え、さよならをいいに来るなんてことも、ざらだった。
 そんな時、僕は満面の笑顔で、
“一緒に帰ろう”
といいたい衝動に、何度もかられた。その度に、その衝動を、ゴクリと音が立ちそうなほど飲み込んだ。
 他の高校生のように、自転車を並べて仲よく帰るという、ほんのささやかな願望すら、僕には叶えることがままならなかったのだ。