わたしが入社して、一年が経過していた。物覚えが悪く、動作のノロいわたしは、上司達に嫌われていた。サボっていると、誤解を受けた。ただわたしなりに、懸命に頑張っているつもりでいた。しかしいかんせん、上司達の胸には、決して響きはしなかった。
「木下、この額磨いとけっていっただろ!
 また忘れたのか?いい加減にしろ、このクズ!」
「何べんいったらわかんだよ。
 1回で覚えらんないのか?
 今度同じヘマしたら、殺すぞ!」
 こんないい方をされるのは、日常茶飯事だった。男だけでなく、女の上司まで、同じような口ぶりだった。
 背中を、ぶたれる日もあった。
 セクハラだパワハラだブラック企業だととりだたされるこの時代に、こんな横暴が、平気でまかり通るのだ。
 わたしは、いっこうに改善される気配がない、この社会を心底憎んだ。
 仕返しされるのが怖くて、誰にもこの窮状を、訴えることが出来なかった。わたしの就職をあんなにも喜んでいた両親にも、もちろん打ち明けることが出来なかった。
 いつしかわたしの腕や太腿は、傷だらけになっていた。決してまくり上げることが出来ないこの袖のおかげで、真夏でも人よりも数倍の汗を流し、働くよりほかなかった。