「はっ、なんだ?

一体どっから聴こえてくんだよ・・・。
・・・どうなってんだ」
 俺の困惑を尻目に、曲はまだまだ続く。暗がりも、とんと明けていきそうにない。

"沙羅双樹の花の色

盛者必衰の理をあらわす

おごれる人も久しがらず

ただ春の夜の夢のごとし

たけき者もついには滅びぬ

偏に風の前の塵に同じ

ベンベンベンベンベンベンベンベンッ"

「おい、止めろよ!」
 音は、どんどんと肥大しこちらへと差し迫る。
「おい、だから止めろって!
俺は、落ち武者なんかじゃねぇんだよ。
お前らなんかといっしょにすんな。
まだこれから、ひと花でも、ふた花でも、咲かせてみせんだよ!」
 俺は足元が覚束ない中、必死にあがき叫び声をあげながら、持てる限りの力を振り絞り音のする方角から逃げる。